思い出せない記憶
みはら。
ミハラ、美腹、見晴、
うーん?
どこかで聞いたような?
えっと、どうしよう、思い出せない。
こう、なんていうか、出てこない。
「・・・・・・思い出したら、説明してあげるわ・・・」
真木さんが、とても可哀想なものを見るような目で私を見ていた。
えっ・・・・何でそんな顔されてるんだろう。
ああ、思い出せない、ここまで、ここまでは思い出せてるのに・・・・!
あと少し、そう、ミハラはーーーーーその絶妙なタイミングで、保健室に誰かが入ってきた。
「・・・・・・」
思い出しかけた何かは、私の頭の中からするりと逃げていった。
あああっ!?
・・・・うそ・・・もう思い出せない。絶望的。
あと少しだったのに・・・・っ!ええい、この、ポンコツ脳細胞!
おでこから衝撃を与えたら、思い出せるか・・・えいっ!
お、思い出せない・・・そして、痛い。
なんだか今日は、痛い思いばかりをする日だ、厄日かな?
「・・・・」
真木さんは何かを悟ったような顔をして、こちらを見て、はっきりと呟いた。
「はぁ、今日は残念な子達が来る日なのかしら?」
え?どういう意味ですか?
「・・・・・・・茅野!あなたはベット使用禁止だから!」
真木さんは、今部屋に入ってきた人に対して声をかけた。
ちょうど位置的には、私の後ろの方。
真木さん、高い声でも大きな声出せるんだな・・・普通、高い声だしたら、大きな声は出ないと思うんだけど・・・そんな事を考えていたからか。近づいてくる足音に気づかなかった。
それは私の後ろの方から。たんたんたんたん、ぐいっと突然肩に力が加わる。
視界にいっぱいに、薄い金色の髪に白い肌。
まるでどこかの美術彫刻のように整った顔。
あまりに整いすぎて、人間じゃないみたい。そのせいか何も感情が動かない。
だけどその、紫紺の瞳には見覚えがある。
あ、この人。
薔薇園で寝ていた人だ。
薔薇園で寝ていた事実からして。
何だろう。この人、面倒くさそうな、嫌な予感がする。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「なぁに、二人で見つめ合っちゃってるの?」
いつの間にか、私たちの間に真木さんの顔があった。
「何よ、ふたりとも。その無反応。傷つくわ。二人は知り合いなの?」
知り合い?
薔薇園で見かけただけ。
「知りません、初対面です」
その人は、はっきりそう言うと、私の肩から手を離した。
今まで掴まれたままだったんだ、とそれを見て思った。
なんだったんだろう?
「何だったのかしら?」
真木さんも私と同じ事思ってる。
「・・・ってああ!?茅野、あんたはベット使用禁止だって・・言ってるでしょう?」
このサボリ魔っ!真木さんの怒鳴り声が聞こえた。
ーーーーーーーひ・・・・・り。
ーーーーいーーーーーーー。
ーーーーね。
何か。
何かを、思い出しかけた。
それはすぐに消えて。
怒っている真木さんを見ながら、この学校には変な人ばっかりで怖いと改めて思った。




