シンデレラとお誘い
ばれている、逃げられない・・・。
それ以前に、身体が動かせない。
その手を肩から離して下さい・・・・
「雪景様、連れてきました。」
救いを求めて視線を上げると、ソファーに座っている男が。
雪景と呼ばれた男がこちらを見ていた。
この人が、皇帝?
そう思ったのは自分自身のはずなのに、何故か、頭に浮かんだ疑問符。
違和感がある。
「皇帝」は、この人じゃない。
何故か、そんな気がした。
そんな事を、一瞬でも思った自分に驚く。
沢城さんと周りにいる人たちの態度で、この人こそが皇帝であることは明らかなのに。
ゆきかげ、様。
そう呼ばれた人は、とても綺麗な顔をしていた。
こんなに綺麗な顔をしている人は見たことがない。
もしかして、モデルとかやってるんだろうか?
「話は聞いた?」
えっ、と顔を上げた。何も聞いていなかった。
見とれていたなんて、言えません。
「すみません、まだ何も話していないので」
答えたのは、沢城さんだった。
「チッ、お前、本当使えないのな」
説明しろよ、と舌打ちとともに言い残す。
空気が、殺意が、突き刺さる。怖い。心臓が止まりそうだ。
沢城さんは、私に囁いた。
「皇帝会に入る気はありませんか?」
「皇帝会に?」
そうです、と彼は頷いた。
皇帝会というのは、朱青藍高校の生徒会。
本当は「青藍会」という名前らしいが、生徒会長は「皇帝」という通称で呼ばれる事になり、その影響で生徒会も皇帝会と呼ばれる事になり、また、皇帝会のメンバーになると、様々な特権が与えられるらしい。
皇帝会。
つまり、生徒会へのお誘い………
特権階級。という四文字が頭の中を巡る。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「君を、外部生代表として歓迎するよ」
ま、まだ返事していません、どうして入る前提なんですか?
どんどん外堀を埋められていっている。
何より怖いのは、私が断ること、私の意思がそこにない事。
私に選ぶ権利が無い、そんな空気が流れている。
あっ、と。えっと。
「す、すみません!」
私は右手を挙げた。
そのまま、直角に腰を折り曲げる。
ばさばさばさっ、と髪の毛が地面につくほど折り曲げる。
静まり返る、部屋。
もともと静かだったけど、この場にいる人全員の驚きが空気として伝わってくる。
言わなきゃ。
言わなきゃ。
ここで言わなきゃ、もう言えない。
「お、お断りさせてください!」
空気が、止まった。
言うの、ここで言わなきゃ。
右手をあげたまま、発言する。
「せ、せいとかいっ」
・・・・じゃない。違った、皇帝会!
思った以上に混乱してる。自分を見失うな。
落ち着け。
「皇帝会の一員になるなんて私には無理ですごめんなさいお断りさせて下さい!!」
言った、言えた。
全部言ってから、肺に空気を取り込む。
く、苦しい。
空気が固まっていた。
皇帝が、驚いた顔をしてこちらを見ていた。
ここにいる誰もが、動かない。
私の後ろにいる沢城でさえも固まっていた。




