シンデレラの色
ぶぉっ、と終わった途端に、目から水が出た。
心臓が止まってしまうと思った。そのまま止まってもいいと思った。
でも残念。私はそんなにヤワじゃなかった。ーーーー人間 恥では死ねないのだ。
それを証明した。
真木さんが待っていた。驚いていた。
そうだよね、舞台袖に戻ってきた途端に号泣するのって迷惑ですよね、すみません。
でも、こんな風に舞台に立つのは初めてだったんです…。テッシュ。
ポケットに忍び込ませておいたテッシュでまず鼻を・・ふっーーーーーぐっ!?
腕を掴まれた。女装真木さんに囚われる。
「おま、いえーーーーあなた、なんて格好して・・・・・」
真木さんはまじまじと私の姿を見ている。
私もまじまじと真木さんを見る。
ゆるふわカールのかけられた黒髪、深紅の唇、私より綺麗な肌。
真木さん、なんて。
「・・・・・・・綺麗、」
なんて綺麗な、女装。
本当に、女の人みたい。
もともと女性よりの顔なのだろう。化粧をした顔はとても男性だとは思えない。
私だって、昨日の男の姿を見ていなければ、女性だと思っていただろう。
す、すごい。凄すぎる・・・・。レベルの高すぎる女装。
そんな真木さんが迫ってくる。鬼の様に迫ってくる、ーーー近いです、近い・・・・・がっつり化粧が施されているお顔が。怖い・・・・、無言な事も怖いです。そして腕が痛いです、私を連れてどこに行くんですか。向かう場所は壁。
ドン!!
壁ドン。
そして、女装真木さんは言った。
「その格好・・・・!!」
怒ってる?
訳が分からない。
真木さんが女装している理由も、私が壁と真木さんに挟まれていることも。
「・・・・・・?」
首をかしげる。
真木さんは私を見ている。
そんなにまじまじと見られても・・・・・
はっ、もしかして・・・スカートのチャック開いてますか?全開!?
今さっき原稿を置き去りにした前科から考えて。
ーーーーあり得る。
急いで確認する。
しまってる・・・・・・・、人騒がせです。びっくりした、抗議を込めた視線をーーーーち、近い。
はたから見たら女性同士だろうけど、真木さんは男性だ。
この距離は非常に気になる・・・・・・っ。
「お前、この制服どこで手に入れたんだ?」
耳元で囁く。女性にしては低く、男性にしては高い声。
聴覚は男性、視覚は女性。
混乱する。
真木さんはもう一度質問を繰り返した。
せ、制服?
どこで・・・
「・・・・・・普通の、制服店です。」
顎を粉砕されかけたりセクハラされたり、身長が低い、童顔、毛先が死んでる、ウエストはもう少ししめなさい、運動神経が悪いとか色々言われたけど。
学校指定の制服店でした。
「ちょっと見せて」
真木さんは私の答えに満足できないのか、私の制服を改める。
服装検査。
「何か変なところでもありますか?」
変なところは無いです!
ちゃんとした規定通りの制服です、ドヤッ。
「・・・・・」
真木さんは黙って私を見つめる。
・・・・・沈黙怖い。ドヤ顔つらい。
ちゃんとした、制服です・・・・多分。
変な汗が出る。
・・・・・実は不安に思っている事がある。制服の事。
それは、制服の色。
'白色'のブレザー。
ただの白ではない、純白の白、輝く白さ。
まさかの白、まさかの膨張色の最先端を行く、白。
お任せしますとは言ったけど。
学校で目立たないようにと制服を買い求めたのに、純白の制服だと目立つ・・・・ことぐらい分かる。それは間違いない。
でもその制服はあまりにも綺麗で。素敵で。
制服に袖を通すと、これ以上無いぐらいにぴったりと自分の体にあった。
服と身体が一体になったような気がした。
まるで私のためだけの一着。
ーーーーーそれは、それだけ余裕が無いという事で。
体重が1グラムでも増えたら、入らなくなるだろう。
「・・・・・・・・・・・・・・」
この体型を三年間維持できるのか。
「・・・・・・・・」
もう考えない様にしよう。いろいろ辛い。ドヤ顔つらい。
もうお分かりだろう、ドヤ顔はただの強がりです。
「普通の、・・・?この服が、これが普通!?」
グサリ、と刺さる真木さんの言葉。
白色で純白である事はスルーしてください。せ、生徒指導も駄目です、嫌です、どうか制服の作り直しだけは命令しないでください・・・・
作り直しとかでき無いんです。
お金無いんです。
そんな願いとは裏腹に、真木さんに掴まれた腕にぎりっ、力が入った。
う、作り直しですか?
それだけはご勘弁を、本当にそれだけはーーーーーーー
「これは、Gen Isurugi デザインの制服!!」
いきなり叫ばれた。
予想外の言葉。しかも意味が分からない。
げん、いするぎ?
響きがスルメイカに通じる。
イカとタコっぽいものが脳内を浮遊する。
私の反応が気に入らなかったのか、
興奮気味に真木さんは言う。
「Gen Isurugi は・・・・名前よ、世界的デザイナー、石動弦!!まさか、ここでお目にかかれるとは思わなかった・・・・・」
いするぎ?げん?
誰ですか、それは。
真木さんは「あなた知らないの?あの、Isurugiよ!」
・・・・・・ファッションとか、ブランドとか、そういうのは・・・・
よく、分からないんです。
真木さんは興奮気味に説明してくれた。
分かったことは、私の制服を作った方は、世界的デザイナーで。
本来なら制服なんかを作るような人では無いとの事。
この制服の凄さを語られてしまった。
「・・・・・・・・」
嘘だと言って?
制服店の男は少し変な人だな、とは思っていたけど、そのスペックが世界レベルだったとは初耳です。
制服は平和に生きるための道具だったのに、この制服のせいで一波乱起きそう、と真木さんの様子を見て分かった。
ーーーーー血の気が引いた。
制服の色も、別の意味で問題みたい。
頭が痛くなった。




