シンデレラ、登場
真木さんの、女装。
どうしよう、すごく綺麗!!
その姿に目を奪われ、私は抵抗を忘れてしまった。
その結果。
次の瞬間にはスポットライトと、数多の視線の中に放り込まれていた。
そして、もちろん。
文字通り放り込まれたのだから、たどる道は一つ。
「!」
声は出なかった。
ただ、音が。一人の女子生徒が舞台で転けた音がしただけだ。
「・・・・・・・・」
頭の中は真っ白、何かを考える余裕もない。
落ち着いて。私は生きている、自分の呼吸を確認した。
残念ながら、人間の身体は恥で死ねないようにできているのだ。
「・・・・・・・・」
さぁ、前を向こう。
私は、立ち上がり演説台とマイクの前に立った。
息を吸い込む。
この場所に立つなら、
それなりの覚悟がいる。
それなりの覚悟を決めろ。
今、間違いなくこの会場中の視線を集めているのだから。
ポケットから取り出した原稿を壇上に出した。
そして、顔を上げた。
原稿は開かない。
ちらちらと、原稿に目を落としている姿は、見ていて情けないと思うから。
一字一句、頭の中に入っています。
「私は、今日この良き日に、朱青藍学園高校にーーーーーー
そして私はマイクに自分の声を乗せる、
あら?と顔を輝かせる人がいた。
そんな期待に満ちた顔をしないでください。
やらかしません。
いいえ、シナリオ通りに読みます。一字一句間違えません。
原稿は、朱青藍学園高校に入学できる事、私たち外部生を受け入れてくれた事への感謝から始まり、仲良くしてください、という内容を固っ苦しい言葉で、長々と引き伸ばした内容だ。
毎年同じの原稿らしいので、聞かされる方は辛いだろう。
だが、幸いここはクーラーも効いているし、熱中症の心配はない。
ゆっくり、はっきりと読ませていただきます。
覚えてきた原稿をお経のように読むだけの作業。
ちゃんと抑揚をつけ、聞きやすいように工夫する。
これぐらいはさせて下さい。少しのお時間を頂きます。
そしてその時間でさっきの事は忘れていただけるとありがたいです。
読み終わると、デフォルトのように、拍手がなった。
お疲れ様でした、聞いてくださってありがとうございます、予定調和。
一礼する。
そして、入れ替わるように壇上に上がってきた理事長。
よくやってくれたね、ありがとう。というように微笑まれた。
ああ、柏木の笑みとは違うーーーー同じ笑顔でもこっちは胸が暖かくなる微笑み。
ありがとうございます。
「あとで理事長室においで」と囁かれた。
その優しくも、ただならぬ雰囲気を漂わせた言葉。
え、私やらかしましたか?
振り返ると、
原稿を壇上におき忘れている。
「・・・・・・・・・・・」
なんという失態。
それを見て微笑む理事長。
お、オハズカシイデス。
そのまま、私は舞台裏にさがった。
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この場を借りてお礼申し上げます。




