シンデレラは薔薇を見る
迷った?
いや、迷っていない。
「まっすぐに行けばいいよ」そう言われたのだ。
まっすぐ行けばいいんだから、迷うはずがない!
・・・・多分。
今日は入学式。
真新しい制服に身を包み、私はなぜか。
ーーーーーー誰もいない場所にいた。
そこは、廊下。
一度理事長室を訪ねるように言われ、案内されたのがこの廊下。
なんでも入学式が行われる講堂と直通しているらしい。
左側には、オブジェ。右側には、薔薇園が広がっている。
しかもここは二階。つまりは空中庭園。
お金持ちには薔薇。誰が考えたのか。なんて定番。
そこには人が倒れていた。
噴水に落とされた記憶がよみがえる。
小さな親切、余計なお世話というものだ。
あの時は、ひどい目にあった。
君主危うきに近づかず。
・・・・・・スルー。全力で。スルー。通り過ぎる。早足で。
見なかった事にしよう。死んでいても、生きていても厄介だと思う。
いや、バラの中でミイラの格好。
ソレ、只のホラーですから。
「~~~~~~~~っ!!」
出来なかった・・・・・。もしかして緊急事態かもしれない。
もしくは、ナルシスト。
トントン、と肩を叩いてみる。・・・・・起きない。
う、ううん・・・・?と、女子力高い唇からは・・・・吐息が漏れている。うん、生きてるみたいだ。
ああ、もう。知らない。
頬に流れる一筋の赤。
どうやら、薔薇の棘で頬を切ってしまったようだ。
これを見てしまったら、知らないふりなんて出来そうにない。
薔薇のど真ん中で寝ているという愚行をしているから当たり前、だとしても!!
辺りを見渡す。
しゃがみこんで、持っていたポケットテッシュで血を軽く拭く。
幸い薔薇の棘で切れる範囲はたかが知れていた。
そして持っていた絆創膏をペタリ。えっ、こんなところまで切れてる。
もう一枚。え、ここも?
細かい傷がたくさん・・・こんなところで寝てるからだ。
・・・・・・ええい、早く起きてここから出て!!
はっ。
いや、起きないで!!
そのまま気づかれないように、去ろう。
任務は完了したのだ。
「・・・・・?」
目が薄っすらと開いた。
タイトルは、王子の目覚め。
「!!!??」
薄っすらと開いた目は紫色。
目を開けた瞬間、キラキラというありもしない後光が見えた。
や、厄介ーーーーーー!?
逃げろ!!
ご尊顔に庶民絆創膏つけてすみません!?
私の危機管理能力が全力で警鐘を鳴らしている。
「・・・・君は、誰?」
手を掴まれた。
寝起きでかすれた声。
あっーーーーーー!!嫌ァァ!!
この体勢と状況は誤解を招く。噴水で溺れた記憶がよみがえる。
傷はまだ癒えていない。
「名乗るほどの名は無いです!?」
幸い、完全に目は覚めていないようだ。
「ご、ごめんなさいーーーー!!」
彼がぼーとしている間に、叫んで逃げた。
真っ直ぐに行けばいいと言われたのに、曲がってしまった廊下。
後悔するのは、あと数分後の話。




