シンデレラと秘密の部屋
「ど、どこ行くんですか?」
ーーーーーー朱青藍に、寮はない。
さっき聞いたピンク髪さんの言葉がリフレインする。
もしそうだとしたら。
私はどこへ行けばいいの、だろうか?
喉元まで出かかっている質問。
今朝で荷物は全部まとめ、家も引き払っている。
もし私の望んでいる答えじゃなかったら・・・そう考えると質問する事は躊躇われた。
私に出来た事は、迷いなく歩いていく柏木さんについていく事だけ。
柏木さんは、どんどん先へ先へと進んで行く。
「ど、どこに、どこに向かっているんですか?」
私の質問に柏木さんは答えず、本館の階段を上がる。
柏木さんは、答えない。
柏木さんは、ある部屋の前で止まった。
じょ、女子トイレ?
柏木さんは、迷わずに入っていく。
え?
手招きされた。来いって事ですよね。
女子トイレの中に入室する。家にあったトイレぐらいの広さだった。
洋式トイレがひとつ。
「閉めてください」
女子トイレの個室にふたり。
狭い、近い。四方八方タイル張りの密室。
洋式トイレをひとつ挟んでふたりっきり。
「・・・・・・・・・」「・・・・・・・・・」
ん?
どうして、こうなった・・・・?
そして
・・・・・・・気まずい。
「覚えておいてくださいね」
柏木さんは、壁を三回叩く。コン、コン、コン。
そして、壁を、ひっくり返した。
ん?
ひっくりかえった?
壁。
「行きますよ」
柏木さんが、壁に吸い込まれていった。
・・・・覗き込んだ、薄暗い壁の向こうには階段。
斜め上に続いていく階段。
ーーーーー隠し扉に、隠し通路。
つ、ついていくしかないのかな?
・・・・・ついていくしかない。
覚悟を決めて、一歩目を踏み出す。
柏木さんの後を追った。
階段を登りきると、
「ここ、はーーー?」
部屋、があった。
斜めになっている天井、ベット、ちゃぶ台、机に本棚。
カーペット、資料。
ついさっきまで、誰かがいたような感じがする。
視線を移すと、右手に簡易キッチン、そして天窓。
日の光が差し込んでいる。
それを受けて、部屋の埃がきらめいていた。
「くっしゅっ」
埃はダメだ。
「くしゅ、くしゅ、はっくしゅっ」
は、鼻水っ。
鼻を抑える。ティッシュが無い!!
ポケットティッシュが、目の前の差し出された。
「あ、ありがとうございます」
「とりあえず、外のある段ボールは運ばないと・・・・」
柏木さんはそう言った。
一旦、その部屋を出て見覚えのあるダンボールを運び込む。
その段ボールの中身は朱青藍学園高校宛に送っておいた私の生活用品。
てっきり、寮があると思っていたので。
「シャワーはあっちです」
「ありがとうございます」
全てを運び終え、シャワーを浴びるとスッキリした。
すごい。小さいながらもお金がかかっている事が分かるお風呂だった。
持ってきた着替えを着る。
いいお湯だった。でも、手や足はふやけていた。
今まで水に濡れたままだったからだ。これだから水は嫌いなんだ。
「・・・・・・・」
柏木さんは、いた。てっきりもう帰ったものだと思っていた。
いつもすぐに帰るから。
「柏木さん・・・・・あ、あの質問いいですか?」
柏木さんは疑問に答えてくれた。
この部屋は理事長が作った隠し部屋で、いつもサボるときに利用している事。
この部屋の事は理事長と柏木さんしか知らないらしく、ピンク髪の人は知らない。
もちろん、他の朱青藍関係者も。
「三年間、この部屋の事はバレないようにして下さいね」「秘密の部屋ですね!」にっこり、笑った柏木さん。怖い・・・・。
ちなみにピンク髪の人は、理事長の秘書で真木さんというらしい。
柏木さん、真木さん。なんか語呂がいいなぁ。
理事長・・・・・・・・疑問に思った。
確かに今すぐにでも住めそうだし、使えそうだけど。
「いいんですか?理事長さんは?」
「大丈夫ですよ」
にっこり。柏木笑顔。それ以上はやめておこう。
このお部屋、ありがたく使わせて頂きます。
ありがとうございます、理事長!!
この場にはいない人に向かって全力でお礼を言っておく。こうゆうのは言ったもの勝ちだ。
台所もある、トイレはーーーー、トイレは今さっきのところ。
玄関がトイレって新しいかも。
にっこり。
「はい、異論はないです」
そんな風に笑われたら、そう答えるしかないではないか。
いろんな疑問は全て笑顔で流された。
最大の疑問は、玄関はトイレという異常事態。
トイレしている間に人が来たらどうするんだーーーー幾つかの注意点を説明された。
・・・・・解決。常に故障か使用中のトイレらしい。
変だ、とは思う。
学校の屋根裏部屋に住むなんて。
でも、受け入れるしかない
私は、借金を背負っていてーーーーー住んでいた家には借金取りが来て、危ない目にもあっている。
ここに住むという事は、朱青藍学園高校の厳重な警備の中にいるという事になる、だから滅多な事ではもう借金取りさんは私に手が出せない。
その事を考えて柏木さんは、この提案をしたのだろう。
ここに住むしかない。




