シンデレラと疑問
・・・・・理事長の顔が赤い。
理事長に呼ばれ、私たちは向かい合って座っていた。
忘れているようだが、私は噴水に落ちたのだ。
当然服はびしょびしょ。
それでも「座れ」と柏木さん。目の前の高そうなソファー・・・・心が決まった。大丈夫です!座りません、座れません。
決意した所で、ぐいっと手を引かれ・・・・座っちゃった・・・・もう、開き直るしかない。ごめんなさいすみません理事長。
と言うわけで、私の隣に柏木さん。そして向かいに理事長さん。
理事長は私と目が合うたびに、目を逸らす。
顔が赤い。
そして、隣の柏木さんは冷たい。
「・・・・・・・」
気まずい・・・・・。
あの本から推測するに、理事長さんは柏木さんの事が・・・・・。
それなのに、この空気・・・・。
理事長・・・・。
目が合うと、やっぱり理事長は、私から視線を外した。
・・・・・ごめんなさい、邪魔ですよね・・・・。
柏木さんは、理事長の気持ちを知ってか知らずか説明し始めた。
目の前にいるのは、私立朱青藍学園高校理事長の阿久根正純さん。
ここは、理事長室で間違いないらしい。
「!」
に、睨まれてる・・・・。
ごめんなさい、本当にすみません。
「・・・・あお」
理事長が、喋った。
何でしょうか?
目があった。顔が赤くなった。
え、どうしたんですか?
コンコン
理事長室のドアを叩く音がした。
バァーーン
理事長が口を開くよりも先に、ドアが開いた。
現れたのは、髪をピンク色に染めた男の人。
あまりにもド派手な登場と髪色に言葉が無い。
ただ一人を除いて。
「失礼しまーーーっす!あっ。柏木!来てたんだ助かるよー」
「すぐに帰る、邪魔した」
「ぜっんぜん邪魔じゃないよー?むしろ助かってるよ?」
そこで、突然の乱入者は私に気づいたようだ。
はじめまして、と会釈する。
「えっ、正純が、女の子を部屋に入れてる!!?」
まるで落雷にでもあったかのような表情。
ごめんなさい、私がこの部屋にいて・・・・
ますますいたたまれないし、このセリフで私が歓迎されていない事が確定した。
「君は・・・・あれ?柏木くんの、もしかしてーーー!?」
「入学手続きの資料」
柏木さんが答えた。
パチン
指が鳴る、そして私を指差した。
「あっらっ!!入学手続きの資料が足りなかった子、しかも、外部の特待生扱いの三原ちゃん!」
そこで、理事長は気付いた。
「あれはお前だったのか!!お前それは学園の信用問題に関わ」
理事長の言葉に被せて、
「受理しちゃったもんね!だって僕は、柏木くんの味方だからね!」
「お前っ・・・・・・!!」
「仕事しない理事長が悪いんですぅぅうう俺は悪くないからね!」
「そうだな」
柏木さんは優雅にコーヒーを飲み始めた。
ぎゃあぎゃあと言い合う乱入者と理事長は、中学の同級生によく似ていて、それでいて話している内容は・・・・私に関係あるようだった。
顔を寄せ合って小声で話をしている。
でも距離が近いので、時折聞こえずらい所があっても大体は聞き取れる。
「三原」という私の苗字、そして私の入学手続きの資料が足りなかった事について。
私の朱青藍学園高校入学には、実は色々な障害があった。
朱青藍学園高校は、良家の子息令嬢たちが通う学校。
外部生の入学時の素行調査などは厳しいと聞く。
もちろん、私が借金を背負っている事や戸籍問題もバレるであろうと柏木さんから言われいた。
でも、柏木さんは「なんとかするので安心してください」と言っていた。
一弁護士である柏木さんにそれが出来るのか、と不安だったのだが、内通者がいたらしい。
会話の内容からそれが分かった。このピンク髪の人だ。
でも、ピンク髪の人から向けられる視線は何かを探っているようで居心地が悪い。
どうしてなんだろう?
質問しようと、私は息を吸い込んだ。
その瞬間、会話が止まった。ちょうど、終わったらしい。
ピンク髪の人は結論と感想を言った。
「キモッ」
「異議なし」
柏木さんが肯定した。
「恋をすると、正純ってこうなるのね、キモッ。」
鳥肌が立ったらしい。
・・・・・・えっ、恋?
理事長の柏木さんへの秘密の恋はこの人も知っているらしい。
びっくりした。
でも・・・・納得した。
分かりやすいもの・・・・・・。理事長さん。
「ーーーーーーはぁ、これでますます仕事が手につかなくなったら、柏木くん、恨むよーーー今だって逃げられてるんだから」
「大丈夫、これから逃げ場所が無くなるからな・・・・小鳥遊、お前の家に行くぞ」
いきなり私に話を振られて、驚いた。
しかも、家!?
私もう帰る場所ないんですが・・・・・
「・・・・・えっ、あの、家は昨日で引き払ってしまってるんですが・・・・」
「だから、今日から住む家だよ、この学園にあるから、安心して」
「・・・・・あ、安心しました」
不安だったんです。
「ん?」
部屋の中で、疑問符が飛んだ。私はピンク髪さんの顔を見た。
「えっーーーーーはくしゅっ、くしゅっ、ずっ」
たずねようとしたら、クシャミが出た。
理事長室、冷房が効き過ぎだと思う。・・・・寒いです。
「・・・・・・・まさか、お前!!」
理事長は気付いたらしい。
にっこり。柏木さん笑顔。
「えーと、話が見えないんだけど?この学園に寮は無いんだけど?ましてや女の子が住むところなんて・・・・」
ピンク髪さんは言った。
「隆道、まさか・・・・お前!!」
にっこり。と柏木隆道は笑った。
「挨拶は済んだし、行くぞ。」
柏木さんに、手を引かれて理事長室を出た。
ふたりともびっくりした顔をして、私を見送っている。
私もびっくりです。
朱青藍学園高校に寮がないってどういう事なのーーーー!?




