シンデレラは招待状を手に入れた
「辛気臭いですね」
久しぶりに会った弁護士柏木さんの第一声がそれだった。
「・・・・・・」
私立朱青藍学園高校の合格通知が目の前にある。
これは、二億円返済の第一歩は無事に踏み出す事ができた証。
でも、その代わり大切な友達を失う事になった。
今でも仲直りは、しようと思えば出来る。でもその代わり今の自分の状況を話さなくてはならない。
自分の都合に友達を巻き込むわけにはいかないからきっと、今の状況は正しいのだ。
「・・・・・・」
湊都。ごめんね。
私の向かい側に座った柏木さんはにっこにっこだ。効果音ぐふふ。守銭奴の笑み。
イケメンなのに、とても残念。
その理由は、入学時特別特待生奨学金が出たから。
今日は、その受け渡しと高校に提出する資料の色々を手伝ってもらっている。
その入学提出書類に色々と問題があったので。でもそれは今は問題じゃない。
弁護士の柏木さんが「なんとかしますので安心して下さい」と言ったので、お任せする事にした。
私の朱青藍学園高校への合格は、純粋な学力での合格だ。
私は何か一芸に優れている訳ではないからーーーー運動が飛び抜けてできる訳でもないし、むしろ運動は出来ないし、特別な何かを持っている訳ではない。
「とりあえず、特待生、おめでとうございます」
「・・・・・ありがとうございます」
料理を持ってきたファミレスのお姉さんが、私たちの雰囲気格差に首を傾げた。
「さて、お祝いはそれぐらいにして」
柏木さんは、ファミレスのお姉さんが向こうへ行った事を確認して話始めた。
「家に訪ねてきたという借金取りの事ですが」
「えっ」
「あなた、大丈夫ですか?・・・・・借金取りについては、私がなんとかします。」
・・・・・・あ、忘れてた。
今の私は、借金取りさんよりも湊都の方が気になっている。
でも、現実問題として。
二億もの借金を背負ったのだ。普通に借金取りの方がいらした。
結構ひどい被害があった。
彩子さんに気付かれないように処理した。
掃除は得意です!
「ーーーーーという訳で、引っ越しの用意をして下さいね」
「はい!」
え?
「引っ越し・・・・?」
柏木さんは、にっこり笑った。
・・・・・ごめんなさい。聞いてませんでした。
という訳で。引っ越し。
家の中にある自分の荷物をまとめながら、これでもう湊都と会えなくなるのかな、とふと思った。
でも。これは仕方の無い事。
もし仮に、同じ高校に行ったとしても。ずっと一緒に居られるわけじゃなかった。
それに、私には私でやるべき事がある。
借金を返すために、バイトを始めた。
でも、卒業式が終わったとはいえ中学生の私にできる仕事といえば新聞配達のバイトぐらいしかなくて。
それも、新聞配達のおじさんの好意で働かせてもらっている。
高校からもバイトをしようと思っている。でも引っ越しを控えているので保留。
まだ夜が明けきれない時間。
なんと。
新聞配達のバイトを始めてから気がついたのだが、同じアパートの子も新聞配達のバイトをしていた。
「葵ちゃん、おはよ。行こっか!」
「おはよう、美琴ちゃん!」
同じ新聞配達のバイトの美琴ちゃんは明るい子で、湊都と少し似ている。
この美琴ちゃんのおかげで、朝の新聞配達は楽しい。
今日も美琴ちゃんとお話をしながら新聞配達のバイトをする。
聞くとーーーーー私と同じ状況でーーーーーお父さんがお金にだらしなくてーーーー美琴ちゃんがこうしてバイトをする事で生活できているらしい。
そのお父さん、そんな風には見えなかった。意外。
親の借金のせいで、苦労している人間は意外にいる。
私だけじゃない。頑張ろう。そう思った。
そんな事があってかーーーー美琴ちゃんは、借金取りに家にイタズラされて迷惑をかけてしまっても、嫌な顔一つせずに片付けを手伝ってくれた。
しかも、私が朱青藍学園高校に行って、家にイタズラされたら片付けをしてくれるらしい。
迷惑をかけてごめんなさい、そしてありがとう!
美琴ちゃんとは、引っ越ししてもまた遊びにくるからと約束した。




