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黒の魔王  作者: 菱影代理
第48章:パンドラ四帝大戦
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第1054話 天に届く橋(1)

 オルテンシアの戦人機、ロンバルトの大艦隊、そして十字軍の使徒。各勢力の誇る特化戦力に対抗するべく、クロノ達が演習と軍議に励む一方――――戦局を打開するほどの古代兵器を探すべく、帝国中でダンジョン探索が俄かに活気づいていた。


 今やエルロード帝国の版図は、北はアヴァロンのアスベル山脈、南の果ては地獄の首都パンデモニウムがあるアトラス大砂漠。そして東はファーレンの黒き森の奥まで伸び、西はヴェーダ法国へ届いている。

 これに同盟国たるルーンとネヴァーランド、その他複数の中小国家まで含めれば、帝国は正しくパンドラ大陸の半分を超えている。

 そしてこの大陸には、かつて栄華を誇った古代文明、すなわち魔王ミアの生きた時代の遺跡が多数残されており、大抵どこの国でも一つはそれなりの規模の古代遺跡系ダンジョンを有するものだ。


 日々の糧を得るべく、あるいは一攫千金や英雄譚を夢見てダンジョンへ挑む冒険者達は、暗黒時代から現在に至るまで大陸中で活躍してきたが、今こそ最盛期、大冒険者時代だと言わんばかりの勢いを見せていた。

 その理由はまず第一に、帝国が古代の遺物を大々的に買い取りを行っていること。一見すると屑鉄の塊のようでも、解析すれば貴重なパーツであったりすることも、今では珍しくない。

 帝国ではすでに、古代のエネルギー源たるエーテルリアクターが各地で稼働し、帝国軍の戦力を支える重要な戦略資源となっている。これまでどこの国も実用化までは至らなかった、様々な古代兵器を運用する帝国だからこそ、これまで価値が無いと思われていた遺物も、お宝に早変わりするのだ。

 無論、現物の戦人機や天空戦艦など発掘した暁には、一生遊んで暮らせるだけの報酬も得られるとあれば、危険が故に避けられていた未探索エリアへ踏み込んで行くには十分な動機となった。

 残念ながら、一気に帝国軍の戦力を底上げするような大発見はまだ無いのだが……それでも、魔導開発局と帝国工廠、そして魔女工房ウィッチクラフトやモルドレッド重工など帝国を代表する企業は、広く古代の遺物を求め、それに応えるよう日夜、大小様々な遺物が取引されている。


 そして遺物需要にも増して重要なのが、遠隔地での即日取引を可能とした、モノリスによる転移インフラの整備である。

 元より最果てのカーラマーラから出発した帝国は、オリジナルモノリスを利用し、古代の転移機能を開通させたことで、短期間での外征を可能とした。誰もが転移こそ、この巨大な帝国を支える大動脈であると理解しており、確保したオリジナルモノリスから、さらに周辺地域へモノリスでの転移を開通させるための整備事業は、戦争の傍らで着々と進められていた。


 そうして本来は結びつくことの無かった場所、ダンジョンを擁する各地が転移で結ばれ、俄かに巨大市場が出来上がった。

 無論、それは単に遺物取引だけに留まらず、ヒトモノカネ全てにおいてかつてない広範囲の流動性を持つこととなるが……ともかく、大量の遺物需要と供給が成立する環境が帝国には整ったのだ。


 かくして、帝国中の冒険者がお国のため、そして己の利益のため、勇んでダンジョンへ挑み、数多くの遺物が産出されるようになっていたところ――――クロノの元に、一つの情報がもたらされた。


「えっ、黒き森のど真ん中に巨大遺跡!?」


 すでにある古代遺跡ダンジョン探索と並行して、まだ未発見の遺跡を探す活動もまた行われていた。

 その中で魔王たるクロノまで上がって来るほど、有力な未探索遺跡の発見、は重要なものだ。


「それって例の天に届く橋ってヤツか」

「かなりの高層建築であるようですが、宇宙まで届くほどではありません」


 報告された画像や映像のデータを司令部のホロモニターに投影させながら、サリエルが淡々と説明をしてゆく。

 そこには確かに、巨大な木々の緑に埋もれながらも、確かに人工物に違いない高層かつ大規模な古代遺跡が写されている。


 初めてファーレンを訪れた時、ブリギットに黒き森の神殿までの道のりを案内してもらった最中に、クロノはその話を聞いた。

 黒き森は中心部へ向かうに従って、木々のサイズも300メートル級の巨木と化し、出現するモンスターの危険度も上昇。その上、中心部は常に深い霧に覆われており、空から接近しても何も見えず、さらには飛竜もかなり繁殖している危険空域であると。


 故に、中心部に何があるのかは現在では明らかになっておらず、ただ「天に届く橋がある」だとか「古代文明を滅ぼした魔獣が眠る」だとか、そういった伝説だけが残されるのみであった。

 そして今回の探索の報告により、どうやら前者の説が正しかったと証明されたようだ。


「ヤバい龍がいるんじゃなくて良かったな」

「ルーンが無事なのは奇跡だった。ファーレンで同様の事態に陥った場合、恐らくフィオナ様でも止めきれないでしょう」


 ルーンでの一件は、古代文明を亡ぼした龍災の恐ろしさというものを、強烈に実感させられた。

 目覚めかけで首だけ出してる状態の不死鳥だったから、不意打ちのように全力の一撃を叩き込んで怯ませることに成功したが、完全に目覚めた状態ではとても太刀打ちできない、とクロノも感じている。

 要するに、龍とは怪獣だ。一度、目覚めて暴れ出せば、人の力では対抗する術などない。正に生きた天災。

 もしも中心部で発見されたのが、巨大な龍であったならば、魔王の名を持って永久に立ち入りを禁じる勅命を出していたところだ。

 しかし、有望な古代遺跡があるのならば、話は別である。


「軌道エレベーターでは無さそうだな。残念だ」

「現存していれば、流石に見れば分かるのでは」


 軌道エレベーターが丸ごと残っていれば、それはすなわち地上から宇宙まで物理的に繋がった構造物が、そこにあるということ。空の果てまで伸びている物体があれば、気づかないはずがない。


「ですが、エレベーター部分が崩壊し、今は基部のみが残っている、という可能性もあります」

「確かに。カーボンナノチューブのワイヤーで繋がってるだけ、みたいな構造だったかもしれないしな」


 クロノもサリエルも、ロボットアニメやSF映画に登場する、巨大構造物としての軌道エレベーターから、現実に検討されているカーボンナノチューブ製のケーブルによるものなど、色々なイメージが浮かび上がって来る。


「どちらにせよ、ここを探索しない手はないな」

「はい、手つかずの巨大な古代遺跡、というだけで価値はあります」


 もしもここが戦力を温存したまま放棄された軍事施設などであれば、待望の戦人機や、天空戦艦、それに準じる古代兵器を獲得できるかもしれない。

 オルテンシアもロンバルトも、それぞれ古代兵器による軍備を整えているため、帝国軍も一つでも多くの古代兵器を用意しなければ、戦力差をつけることは出来ない。


「では、マスターが探索に行くのですか」

「それが一番いいだろう。現状、俺の手が一番空いてる」


 リリィは言わずもがな。

 フィオナはルーンへ行ったきり、海底遺跡でロンバルトとの艦隊決戦に向けた準備に忙しく、パンデモニウムへ戻って来ても、そのまま魔女工房へ直行といった多忙ぶり。

 ネルはルーンとアヴァロンどちらにも顔が効く立場上、同様に忙しく、しばらくパンデモニウムへと帰って来ていない。

 そして暗黒騎士団長たるサリエルは、常に魔王の傍に侍るべき立場ではあるのだが……今回の決戦に向けて、重大な任務が課されることとなったため、今はおいそれとここから動くことができなくなっていた。


「適当に面子を集めて行ってくるよ」

「決しては無理はなさらぬよう。息抜き程度でお願いします」


 今や巨大な帝国を一身に背負うクロノだが、冒険者としても頂点に立つ実力者であることもまた事実。

 危険な未探索遺跡の調査をするに相応しく、そして何より本人の希望によって、これを心配だからの一言で止めることは出来なかった。


 かくして、クロノは急ぎパンデモニウムでパーティメンバーを募り、ファーレンへと飛ぶのであった。




 ◇◇◇


「急な話ですまんな」

「いえ、お声がけいただき光栄です」

「うんうん、最初に呼んでもらったのは本当に嬉しいよ。立場を超えた友情を感じられるね」


 と、嫌な顔一つせず誘いに乗ってくれたのは、セリスとファルキウス。

 演習場の片隅で、基本的に一緒にいる暗黒騎士の二人にまず声をかけてみた。そりゃあ、俺は魔王なので暗黒騎士なら誰でも命令すれば一発だけど、今回は冒険者パーティを組む以上、気心の知れた者がいい。


「しかし、黒き森の奥地にある、前人未踏の巨大遺跡とは……冒険者としても大仕事ですね」

「だからこそ、期待できる」


 セリスが眉根を寄せて思案顔をするが、やはりリスクとメリットを天秤にかけても、ここを探索しない手はない。


「戦人機は強敵だからね。もしかすれば、ロンバルトだって隠し玉で持っているかもしれないし、対抗手段は一つでも多い方がいい」


 しみじみとファルキウスが言う。常識的に考えて、生身の人が古代の主力兵器に対抗しようってのが無理な話である。

 でも俺達には戦人機がないので、仕方が無いから精鋭集めて訓練してるワケで。それでもファルキウスほどの剣士であっても、戦人機相手は苦しい。巨人と戦ってるようなもんだからな。


「勝敗を左右する重要な任と心得、全力で臨みます」

「でもリリィ女王を相手にした時よりはマシでしょ」


 全くだ、今回は純粋なダンジョン探索だからな。正直ちょっとワクワクしてる。


「ところで……さっきからプリムに物凄く睨まれているのですが」

「あはは、素直で可愛いじゃない」


 気づいてしまったか。明らかに聞き耳立てているプリムが、ずーっとこちらをガン見していることに。

 物凄い期待の眼差しが注がれているので、スルーするワケにはいかないよなぁ……


「プリム」

「はい、ご主人様。プリムはいつでも、出撃可能です」


 俺が声をかければ、自分が選ばれないはずがないと信じ切った顔で見上げてくる。


「悪いがプリム、今回は一緒に連れていけないんだ」

「!?」


 基本的に無表情のホムンクルスだが、大きく目を見開いたプリムの表情は、ありありと受けた衝撃の大きさを物語っていた。

 うん、こういう反応になるだろうから、出来れば自然にスルーしておきたかったんだが……


「な、何故ですか、ご主人様……プリムはもう、いらない子なのですか……」

「プリムはサリエルと一緒に重要任務があるだろう」

「……はい」

「だから今回は、サリエルも連れて行けないし、プリムも同様だ。分かるな、この任務は二人にしか任せられないから、今はそれに集中して欲しい」


 こればかりは、甘やかすわけにはいかない。というか、未知のダンジョン探索に連れて行くのを甘やかすと言えるのかと言えば微妙だが、ともかく、プリムの希望に沿えないことは確かなのだ。

 すまないが、これもまた戦局を左右する重要な作戦である。何としても、二人には成功させてもらいたい。


「い、イエス……マイロードぉ……」


 いまだかつて、こんなに悲し気な「イエスマイロード」を聞いたことがない。

 だがすでにお断りを入れてしまった俺に、下手な慰めの言葉をかけることは出来なかった。


「あーあ、泣かせちゃった」

「ファルキウス、茶化してはいけませんよ」

「いやでも、あんなに純粋な反応なかなか見れたものじゃあないよ」

「それはそうですけど……」


 とぼとぼと去って行くプリムの悲しい後ろ姿を見送るより他は無かった。


「いやちょっと待て、まだ訓練終わってないんだが」

「ここは大人しく帰らせてあげた方がいいんじゃないかな」

「ええ、後の事は、サリエル団長かメイド長にお任せしておけばいいでしょう」


 確かに、あんな様子のプリムに今から訓練に戻れ、と言うのは酷だ。というか俺がやりたくない。セリスの言う通り、サリエルかヒツギにアフターケアは任せよう。


 さて、そんな一幕があった後、今度こそ訓練が終了してから、俺は更なるメンバーのスカウトに出向いた。

 次に声をかけるのは、この男。


「行く行く! 今すぐ行くぜ俺はよぉ!!」

「いや今すぐは行かないから」


 話半分くらいで、もう前のめりに行く気満々を全身でアピールするのは、第一突撃大隊隊長カイである。


「全く、ちゃんとクエストの内容くらいは聞けよ」

「リリィ女王相手にするより、キツいクエストあんのか?」


 俺の顔色を見れば、聞くまでもないと言ったところか。

 もし本当にもう一度、暴走したリリィを生け捕りするクエストを出したなら、とてもこんなノリで誘えないのは確かだ。


「目的地は黒き森の奥だ。しばらく時間がかかるだろうから、ちゃんと引継ぎしておくんだぞ」

「そういうのは大丈夫だって、副隊長が全部やってくれっから」

「お前、普段からエリウッドに任せきりだな」

「出来るヤツにやってもらうのが一番いいんだよ。俺みてぇなバカが口を挟んでもいいことねーって」


 一理あるが、だからといって割り切りすぎるのも良くないだろう。

 カイは隊長としてよくやってくれている。常に誰よりも先頭を駆ける姿は、元高位冒険者の部下からも信頼は厚く、戦場での統率力は正に将の器。これまでも実際に文句ナシの戦果を挙げてくれている。

 だが、その影でエリウッドさんのような人が苦労を重ねているのだろう。

 戦働き以外はさっぱりなカイを支え、愛娘のエリナは帝国の顔とも呼べる報道官の筆頭で忙しく、あまり会えていない様子。あの人には苦労をかけているが……今しばらくは頑張って欲しい。


「なぁ、まだメンバーの枠は空いてんだろ? なら、ちょうどいいヤツがいるぜ」

「ああ、俺もちょうど目をつけていたところなんだ」


 俺とカイが揃って視線を向けた先にいるのは、金髪碧眼の美青年。

 ファルキウスにも劣らぬ美貌を誇るその顔を、俺はいまだに慣れないのだが……その腕前が変わらぬことは知っている。


「ルドラ、良かったら俺達とクエストに行かないか?」


 ここ最近になって、対戦人機訓練の話を聞きつけて、ルドラも参加するようになっていた。

 実に好都合。声をかけない理由がない。


「ふっ、どこへなりともお供しよう」


 不敵に笑って、ネヴァーランドの吸血王子ルドラは迷いなくそう答えた。


「リリィ女王が相手でなければな」

「みんなリリィのこと引き合いに出すな」


 然もありなん。

 なにせ、これで懐かしき臨時パーティメンバーが勢揃いしたからな。

 終わりが良かったお陰で、全てがいい思い出なのだ。


 かくして『ブレイドマスター』再結成と相成った。


 とはいえ、セリスとファルキウスは暗黒騎士。カイは第一突撃大隊と帝国軍所属。

 最後に行方知れずであったルドラだけが、欠けていたメンバーだったのだが……この度はネヴァーランドの王子として復帰し、晴れて帝国と同盟を結ぶに至った。


 そして対戦人機訓練で、面子は揃っていた。

 今回はリリィ、フィオナ、サリエル、ネル、と婚約者の誰も同行せず、未探索遺跡調査に俺の傍でついて来られる者となれば、自然と人選は限られてくる。強さは勿論、信頼という意味でも。


 その点、大した報酬も支払えないにも関わらず、命をかけて嫉妬の女王リリィを生け捕りにする、なんて無茶なクエストについて来てくれた彼らならば、誰からも文句は出ない。すにでして信頼と実績を、これ以上なく重ねているのだから。


「僕も一緒に行きたかったなー」


 と、シモンだけは残念そうに言っていたが、流石にこの状況下で魔導開発局長様を危険な調査に行かせるわけにはいかない。ただでさえ開戦前は忙しいというのに、今回は戦人機相手への対策装備の製造など、やることは山積みだ。

 現地でシモンに遺物を検分してもられば、そりゃあ楽ではあるけれど、そのためだけにリスクと開発期間を犠牲にするのは割りに合わなすぎる。

 お土産を期待して待っててくれ。

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