39話 修羅場の中心でモブは叫ぶ
朝のHRが終わるやいなや、クラスメート達は相坂に声を掛けに行こうとする。
転校生という立場なので注目されるのも興味を持たれるのも自然なことだが、相坂が超絶美少女というのもあってか、皆の関心が一層強いように思える。
「えっと、ごめんね。実は話したい人がいるの」
そう言って相坂は断り、席を立ってある人物の元へと赴いた。
「こうして顔を合わせるのは久しぶりだね、優斗」
「そうだね、美玖」
優斗と相坂。
幼馴染同士……そして、主人公とヒロインの久しぶりの再会である。
まぁ、二人ともメッセージのやりとりをしていたからか、久しぶりって感覚があまり無さそうだけど。
……しかし、妙だな。
優斗と再会できて相坂は嬉しそうだが、俺の知ってる相坂美玖ならもっと嬉しがるはずなんだけど……
と、そんな事を思っていると、二人に近寄る影が一つ。
「あ、雫」
優斗の彼女……藤宮雫だ。
「は、初めてまして。藤宮雫です」
「初めてまして、藤宮さん。優斗の幼馴染の相坂美玖だよ。よろしくね」
「は、はい。よろしくお願いします」
「ふぅん……」
相坂は藤宮を観察するようジッと見つめる。
藤宮はこの後の展開を察しているのか、どこか緊張した面持ちだ。
それから間も無くして、相坂の口がゆっくりと開かれた。
刹那、俺はゴクリと固唾を呑む。
さぁくるぞ、修羅場が……っ!
「藤宮さんって……すっごく可愛いね」
「「えっ」」
俺と藤宮の驚きの声が綺麗に重なった。
えっ、あの相坂が優斗の彼女である藤宮のことを褒めた……?
この場面、俺の知ってる相坂美玖なら……
『へぇ、あなたが私の優斗を奪った泥棒猫さんかぁ。そんな悪い子に優斗は任せられないよね。だから……返してもらうね』
みたいな宣戦布告をして、藤宮と修羅場になるはずだ。
……どゆこと?
パニクってる俺をよそに、それからも相坂の賞賛の言葉は続く。
「しかもその上、勉強も運動も料理も出来るんでしょ? 凄すぎだよ。こんな子と付き合ってるなんて、優斗って本当に幸せ者だね。ちゃんと大切にしなさいよ」
「うん。ありがとう、美玖」
……ナニコレ?
なんで相坂は優斗と藤宮の交際を祝福してるんだ!?
おそらく周囲の生徒には今の相坂は、幼馴染の交際を祝福して応援する心優しい美少女に見えてるだろう。
だがこの場面、俺の知ってる相坂美玖なら……
『待っててね、優斗。私がすぐに目を覚まさせてあげるから。そして、もう私ナシじゃダメなようにしてあげる♡』
みたいな病んでるセリフを言うはずだ。
相坂、一体どうしたんだ……?
その後、相坂と藤宮はあっという間に意気投合して楽しそうに雑談に花を咲かせるのだった。
……あれ、修羅場は?
修羅場どこいった……?
「……さてと、晴哉」
隣の席の女神様が不意に呟く。
「そろそろ説明してくれるかしら?」
「えっ、なんのことだ?」
「決まっているでしょ。晴哉と相坂さんの関係についてよ」
「そ、そうですっ」
焦った表情を浮かべた沙紀が会話に入ってくる。
「は、晴哉君。説明を求めます」
「いや、説明と言われても……」
前の公園の一件で相坂と関わりを持ったが、だからと言って俺達の関係に何か変化が生じたわけではない。
俺と相坂はただのクラスメートだ。
そう伝えようとした寸前……
「……ねぇ、晴哉くん」
耳朶を震わす冷たい声。
声の主……相坂はいつの間にかなぜかそばに来ていた。
「これは一体どういうことかな? 私というものがありながら、なんでこんな可愛い子達ととっても仲良さそうなの? 晴哉くんと二人はどういう関係なの? もしかして付き合ってるの? ねぇ、ねぇねぇねぇ……」
全ての感情を無くしたかのような無表情を湛え、光を失った虚な瞳を俺に向ける相坂。
沙紀と玲奈はそんな相坂に臆することなく向かい合う。
「あら、それはこちらのセリフなのだけど」
「そうです。相坂さんは晴哉君と一体どういう関係なんですか?」
相坂は二人の迫力に物怖じすることなく言う。
「そっちこそ、私の晴哉くんとどういう関係なのかな?」
「「私の?」」
三人の視線が一斉に俺に向けられる。
なぜか教室の中心でいきなり繰り広げられる、ヒロイン三人の相対イベント。
そんな光景を見て、ボソッと誰かがこんな事を呟いたのが聞こえた。
何あの修羅場……と。
正直、それは俺が一番知りたい。
えっ、何この修羅場!?
一体どうなってるんだ!?
三人がいきなり修羅場を繰り広げてる理由も不明だが、それ以上に分からないのは……
「どういうことかしら、晴哉?」
「晴哉君、説明を求めます」
「ねぇ、晴哉くん。早く答えてよ。ねぇ……」
なんで……なんで、修羅場の中心に俺がいるんだぁぁぁ!!??
しかし、これはほんの始まりに過ぎないのである。
なぜなら、恋を自覚したライバルの参戦により、ヒロイン達の戦いはますます激化することになるのだから。
そしてやがて、ついに二人も……
だが当然、この時の俺にはそんな事知る由もないのだった。
これにて二章完結となります。
ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。
三章執筆のモチベに繋がりますので、ブクマ、星、何卒よろしくお願いします。




