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37話 聖女様と女神様を敵に回すべからず

「!?」


 ただならぬ気配を感じたのか、女子生徒は後ろを振り向く。

 そこにいたのは、未だ無言で彼女をジッと見つめている聖女様と女神様。


「っ……」


 女子生徒は分かりやすく動揺している。

 二人の表情や雰囲気から、今の会話が聞かれてしまっていたのだと察したのだろう。


「ふ、二人とも。い、今のは……」

「……して……ですか?」

「えっ」


 女子生徒が何か言おうとするが、沙紀がそれを遮る。

 そして、晴哉と友達になれて心の底から嬉しいと思っているからこそ、沙紀は悲しみと辛さを含んだ表情で絞り出すようにして言うのである。


「どうして、そんな酷いことを言うんですか? 私と晴哉君はお互いにそうなりたいと願って、お友達になりました。それなのに……私と晴哉君がお友達だったらダメなんですか?」

「そ、それは……」


 女子生徒は狼狽える。

 沙紀の目に涙が浮かんでいるのを目の当たりにしたからだ。

 刹那、それに気づいたグラウンドにいた生徒達がざわつきだした。


「おい、見ろよあれ。高橋が雛森さんを泣かせてるぞ」

「あの心優しい聖女様を泣かせた……だと?」

「元から良い印象は持ってなかったけど、さすがにこれは許せねぇ」

「そうだな。あと、あの二人に挟まれていた早河も許せねぇな」


 女子生徒……高橋は、どうやら普段からあまり評判が良くなかったらしく、それと沙紀を泣かせた事も相まってヘイトと非難の視線が一気に向けられる。

 ……俺にもそういった視線が向けられているような気がするが、とりあえずそれは気にしないことに。


 もうこの時点で既に高橋に挽回や弁明の余地は無いが、本人はそれに気づいていないらしく……


「ご、ごめん。今のはその、そういうつもりで言ったワケじゃなくて……」


 とりあえず謝ってこの場からなんとか逃れようとする。

 しかし、それを女神様が大人しく見過ごすわけが当然なく。


「ねぇ、高橋さん。少し……お話ししましょうか?」

「し、篠原。だ、だから今のは私が悪———」

「そんな心のこもってないその場凌ぎなだけの謝罪なんて不要よ。あぁでも、勘違いしてないでちょうだいね。謝罪自体は当然してもらうわ。誠心誠意……心の底からの謝罪をね」

「ヒッ」

「安心して、話はすぐに終わるわ」


 高橋に拒否権は最初から無い。


 ふと、あの日の……玲奈と友達になった日の彼女の言葉を思い出した。


『もし、彼みたいに私達の関係に茶々を入れる人がいたら……私に教えてくれるかしら?』


 あの時も思ったけど、やっぱり女神様は敵に回すべからずだな。

 いや、女神様だけじゃなくて聖女様もか。

 そして、そんな二人を敵に回してしまった高橋に……最初から勝ち目など皆無なのだ。


 顔を青ざめた高橋は力なく頷き、玲奈の後をふらふらとついて行きグラウンドを後にする。

 それから二人は3分もしないうちに戻って来た。


「ご、ごめんなしゃぁい! もう二度と言いませぇん! 私が悪かったですぅ!」


 戻って来て早々、号泣した高橋が俺に深々と頭を下げて謝罪した。

 さっきの偉そうに俺を見下していた態度は、もう見る影も無い。


 ちなみに、高橋は普段は自分のクラスでまるで女王のように振る舞っていたらしいのだか、今回の一件で完全に威厳と信頼を失い、女王の座から転落したとのこと。

 余談だが、この一件以降、高橋は俺を見る度にビクビク怯えて立ち去ってしまうのだった。

 ……玲奈、一体何を話したんだろう。


「ありがとう、二人とも」  


 高橋がグラウンドから去った後、二人にお礼を伝える。


「いえ、気にしないでください」

「友達を馬鹿にされたんだから、あれくらいは当然よ」


 予想外のハプニングこそあれど、まだ下校時間まで少しだけ時間があるので練習を再開することに。

 

「じゃあ次は沙紀と玲奈のペアだよな?」


 再度、俺は二人に訊ねる。

 さっきは有耶無耶になったけど、今度はそうはさせない。

 目の保養は大事だからな。


「いえ、もうペアの練習は十分よ。ね、雛森さん?」

「はい。とても有意義な時間でした」


 どうやら、ペアの練習がもう終わりなのは確定事項らしい。


 玲奈と沙紀の意見がこうして合うのを見ると、なぜか嫌な予感がする。


「だから今日は最後に、もう一度三人四脚の練習をしましょうか」

「そうですね。先ほどの練習の成果を確認する良い機会にもなりますし」


 とんとん拍子に話が進み、二人は俺の隣へやって来る。

 そして……


「っ!!??」


 二人が同時に俺の腕に抱きついた。

 お、おい、これってまさか……


「では、最後はこの状態で走りましょう」

「この走り方で三人で走ってもタイムが速くなるのか、確認しておきたいものね」

 

 二人の言わんとしている事は分かるけど……マジか。

 はたして俺の理性がもつのかどうか。

 というか、もうこれ練習じゃなくて修行じゃね?

 

 ちなみにその後、走った結果、これまでのベストタイムを大幅に更新したのだった。

 ……ほんとなんで?

 

 それから数日後の体育祭本番。

 俺は大勢の男子生徒達からの嫉妬と殺気の込められた視線を浴びせ続けられながらも、三人四脚を二人と腕を組んだ状態で走り、ぶっちぎりで一着になったのだった。

 勿論、優斗と藤宮のペアも同様だ。


 こうして俺達のクラスは学年優勝を果たし、体育祭は特にトラブル無く幕を閉じたのである。


 そして、体育祭が終わってからあっという間に数日が経過し、ついにこの日を迎えた。


「やっと……また逢えるね。晴哉くん♡」


 彼女が……相坂美玖が転校してくる日を。

 

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