73話。ざまぁ回。勇者アベル、村人とハーレムメンバーにボコボコにされる
【勇者アベル視点】
「……ぶ、武術大会で優勝したら、自由になれる!? アハハハハッ! そ、そんなチョロい条件で良いのか! も、もちろんOKだぜ!」
僕は聖女セルヴィアの幻影から提示された条件を二つ返事で飲んだ。
この【迷いの結界】中で、もう7日間近くも飲まず食わずで攻撃を受け続け、僕の精神は限界に達していた。
「その代わり、あなたは負ければ死にます。また、外に出て他人に危害を加えても死にます。良いですね?」
「はっ! ぼ、僕は最強無敵の勇者アベルだぞ! 一対一の勝負で負けるハズがあるものか」
そうだ。こんな結界に閉じ込められなければ、僕が敗北するなんて有り得ないんだ。
「……カイン様のお話によれば、スキル【生命力自動回復】の回復スピードを超える速さでダメージを与えれば、勇者アベルを殺せる可能性があるとのことでしたが。ことごとく失敗してしまうとは無念です」
覆面をした怪しげな男たちが、残念そうにうつむく。
こいつら真正のサディストで、僕をずっと拷問しやがった。
だけど、僕には光の回復魔法【聖治癒】があるからな。
少ない魔力でも使えるコレを自分にかけ続ければ、ユニークスキル【決して砕けぬ勇気】との相乗効果で、不死身を実現できるって訳だ。
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ユニークスキル
【決して砕けぬ勇気】
どんな攻撃を受けようとも、必ず生命力(HP)1で生き残る。
いかなる強敵が相手であれ、勇者は決してくじけない。勇者は何度でも立ち上がる。
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「ヒャハハハハッ! こ、この屈辱、カインをぶっ殺して、絶対に晴らしてやるからな!」
試合は、相手が降参するか、戦闘不能になるか、場外負けになるまで続くようだ。
だけど、不死身であり状態異常耐性も持つ僕に、降参も戦闘不能も有り得ない。
この試合ルールでも、僕が絶対に有利だ。
「【決して砕けぬ勇気】というより、あなたの場合は、【決して砕けぬ傲慢】と言った方が、しっくり来ますね」
聖女が呆れたように呟く。
「なんとでも言え! おら、【誓約魔法のスクロール】とやらに、血判を押してやったぜ! 約束通り、さっさと僕をここから出せやぁああああッ!」
「その誓約を交わしたら、外はあなたにとって、この森以上の地獄となると思いますが……はぁ、わかりました」
聖女の幻影が指を差すと、森の木々が左右に分かれて大きな道ができた。
「この道をたどれば、外に出られます」
「ア、アハハハハッ! や、やったぞ!」
聖女セルヴィアたちは、次の瞬間には姿を消した。
僕は立ち上がって、念願の外へと向かう。
とにかく村を探して、食べ物を恵んでもらわなくちゃならない。喉もカラカラで、泥水をすすって渇きを癒やした。
腹が減って目眩いがする中、僕は聖女セルヴィアとカインへの怒りだけを頼りに、前進し続ける。
許さねぇ、絶対に絶対に、ぶっ殺してやる。
勇者である僕を敵に回して、この世界で生きていけると思うなよ。
やがて、3日ほど這いずり回った末に、村が見えた。
「あっ、行き倒れだよ、お母さん!」
「まぁ、本当だわ! 大丈夫ですか!?」
小さな女の子を連れた母親が、フラフラの僕を見つけて駆け寄ってきた。
し、しめた。
「ぼ、僕は勇者アベル! 今すぐ、僕にうまい飯をたらふく食わせろ! それから、若い女だ! この村一番の美少女を差し出せぇえええッ!」
僕は最後の力を振り絞って叫んだ。
魔王を倒す勇者に、民は協力しなくてはならないと、国の法律で決まっているんだ。
「ゆ、勇者アベルですって!?」
母親の顔が怒りに染まる。
「私たちから食料を根こそぎ奪った大悪人! 王様から見つけ次第、袋叩きにしろって命令が出ているわ!」
「は、はぁ……?」
「みんな勇者が出たわ! ブチのめすのよ!」
「なにぃ、勇者だと!? 俺に真っ先に殴らせろ!」
「おら、死ねやぁクソガキィイイイ!」
「ぎゃあああああッ!?」
村人たちが大挙してやってきて、僕を棍棒で滅多打ちにした。
すさまじい激痛に意識が飛びそうになる。
「な、なにしやがるんだ、お前らぁああッ!」
僕は光魔法で蹴散らそうとするが、その瞬間、頭の中に無機質な声が響いた。
『他人に危害を加えた瞬間、誓約によって勇者アベルは死を迎えます。他人に危害を加えますか?
選択肢【はい】【いいえ】』
な、なんだこれは?
まさか、これが【誓約魔法】の効果って、ヤツか。
死神に鎌を突きつけられたようなゾッとするような感覚があった。
まさに、この誓約を破った瞬間、僕はハッタリでも何でもなく死ぬ。そう直感した。
「や、やめろ! 僕は魔王を倒して世界を救う勇者だぞ! 僕にこんなマネをして良いと思っているのか!?」
僕は必死に訴える。
「その魔王は、カイン様によって復活を阻止されたんだ! カイン様こそ真の英雄、ホンモノの勇者だ!」
「お前はやめろと言われて、殴るのをやめたのか!? 王国軍にいた俺の息子は、お前に殺されたんだぞ!」
「お前は、他人から奪う以外の何をやったんだよ!? ええっ!? カイン様は俺たちに食料を援助してくださったんだぞぉおおッ!」
「ぐはぁあああああッ!?」
さらに苛烈な暴力が浴びせられた。
僕は亀のように縮まってガードする。
「知っているぞ! お前は他人に危害を加えたら、死ぬんだろ!? オラッ! 反撃してみろや、クソ勇者ぁあああッ!」
「やめろ! やめろ! 僕は神に選ばれた正義の使者、勇者だぞぉおおおおッ!」
「ふざけんな! お前なんか勇者じゃない! 山賊と同じだ! 死ねぇえええッ!」
「ぎゃあああああッ!?」
村人たちは僕を深夜になるまで殴り続け、ボコボコの血だるまにした。
ち、ちくしょう。
なんで、勇者である僕がこんな目に合わなくちゃならないんだ?
勇者特権を使って、村人どもから食料と財産と娘を巻き上げただけじゃないか? 当然の権利だぞ。
クソ、こ、ここは駄目だ。
そ、そうだ。王都へ。僕のハーレムのある場所に行こう。
女の子たちは、みんな僕のハーレム要員に加えてもらって、涙を流して喜んでいた。
『勇者様のハーレムに入れていただけるなんて、光栄です!』
と、絶叫していた。
この僕が帰ったら、きっと温かく迎えてくれるハズだ。
お、王都、王都へ……
もうろうとする意識の中、僕は王都へと這って進む。
途中で出会った人々は、僕が勇者アベルだと知ると、鬼のような暴力を振るってきた。
途中、噂でカインがリディア王女とアンジェラ皇女を側室候補にし、ウハウハのハーレムを築いている話を聞いた。
なぜ、勇者でもないクソ凡人が、僕が手に入れたかった最高のハーレムを築いているんだ?
こんな理不尽があってたまるか。
だ、だけど、僕にだって1000人近い美少女ハーレムがある。
質ではカインのハーレムに負けるかも知れないが、量では劣っていない。
「アハハハハッ! 帰ったらあの娘たち全員かわいがってやるぞ。なにしろ、僕は勇者だからな!」
世界最高の男である僕に抱かれるなんて、これ以上無い名誉であり、幸福だ。
フラフラになりながら、僕は王都の城門をくぐった。あまりに薄汚れた姿に、門番からは浮浪者だと勘違いされ、勇者アベルだとは気づかれなかった。
勇者アベルを讃えるための銅像が王都のアチコチに建っていたのに、すべて打ち壊されていた。
代わりに建造されているのは、【真の英雄】カインの銅像だ。
な、なにが、【真の英雄】だ。
勇者でもないヤツが、僕を差し置いて崇められるなんて、許せない。
僕の心に、憎悪と嫉妬が際限なく湧き上がる。
「みんな勇者アベルよ! やっぱり帰ってきたわ!」
「見事、討ち取った者には、国王陛下から多額の賞金が出るそうよ!」
勇者ハーレム御殿の前にやってくると、怒りの形相の美少女たちが待ち構えていた。
彼女たちは、全員、釘バットで武装している。
「えっ? な、なに……?」
「死ねぇえええッ!」
美少女たちに囲まれて袋叩きにされた上に、油をぶっかけられて火を付けられる。
「ぎゃ、ぎゃぁああああ!? 何をするんだ、キミたちは僕のハーレム要員だろ!?」
僕は火を消すべく、必死に地面を転がりながら叫んだ。
「はっ!? なに、ふざけたこと抜かしてんのよ、この犯罪者!」
「あんたなんか1ミリだって好きじゃないわ! 百万回殺しても飽きたらないくらい、大嫌いよぉおおおッ!」
「殺せ! 殺すのよ!」
「私たちの恨み、思い知れぇえええッ!」
「げぇはぁあああああッ!?」
女の子たちから訳がわからないほど釘バットで殴られて、僕は慌てて逃げ出した。
「みんな、ソイツは勇者アベルよ!」
「なにぃ、勇者アベルだと!? 叩き潰せぇえええッ!」
「今日は店仕舞いだ! みんな勇者狩りだぞぉおお!」
「うぉっしゃぁあああ! 不死身の勇者を殺して、賞金ゲットだぜぇ!」
「憲兵騎士団、総員突撃! 勇者を死刑台送りにしろ!」
「やめろぉおおお! 僕は勇者! 正義の使者である勇者なんだぞぉおおおッ!」
しかし、どこに逃げても、怒り心頭の王都の民たちが、砂ぼこりを上げて追いかけてきた。
この地獄の追いかけっこは、いつ果てるともなく続いた。






