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33.現地で食べられるだけの簡単なお仕事です

『我がブレスの前に滅びよ!』


 ベルティア宅、仕事部屋。

 画面に映るバルナゥがブレスで顕現した主を焼き尽くした。


「やりました! やりましたよ先輩!」


 エリザがえっへんと胸を張る。

 バルナゥが倒した相手はバルナゥよりわずかに格下、マキナの生贄世界におけるミドリムシ並の生物だ。


 ゲリの目指す顕現には成功した。

 だが、しかし……


「確かにやりはしましたが……」

「良いのですか? あれ、貴方の世界唯一の十三桁ですよね? 今攻められたらひとたまりもないですよ?」


 自分の世界の唯一の最強格を食わせやがりましたよ……

 まさか虎の子を食わせるとは思いませんでした。

 そして唯一の虎の子だとは思いませんでした。


 と、エリザの端末に示された世界に呆れるベルティアとマキナである。


 ベルティア世界の最強も十三桁の竜ではあるが竜はバルナゥだけではない。

 十二桁の生物も多く存在し、十一桁の生物はさらに多く存在する。

 生物の裾野がしっかりと出来ているのだ。


 対するエリザ世界は十三桁の次の格は九桁。唯一の圧倒的強者であった。

 しかしエリザは胸を張る。


「大丈夫です! うちのような貧乏世界、もはや誰も見向きもしません!」

「エリザ。私から世界の何を学んでいましたの?」

「さ、搾取の方法「このバカチンが!」ひいっ、すみませんすみません!」


 端末で世界をついっと動かすマキナにエリザが土下座する。

 何とも見事で情け無い姿であった。


「まあイグドラちゃんのどでかい異界とそれを囲むように配置された多数の相互循環異界。確かにこんな狭くて穴だらけの世界を攻めるアホはいないでしょうねえ」

「ひどいっ!」


 相互循環異界とは二つの世界で互いに世界を貫き合い、世界の力をぐるりと循環させる異界顕現の手法だ。


 イグドラに食われまくったエリザの世界を残すためにベルティアが伝授したこれはイグドラの異界近くの世界の力を別の世界に食わせる事で枯渇させ、大量に食われないようにする。


 そして世界を食った別の世界を食わせてもらう事で世界の力を循環させて維持するという、何とも歪な世界の防御方法であった。


 三億年前イグドラに逆侵攻された世界は数多い。

 ベルティアはエリザを介して互いに食わせ合うよう異界を配置し、イグドラが世界を食い潰さないように配慮しているのである。


 だがこの手法、神々の相互信頼によって成り立っている。

 何度も言うが神の世界はセコい。

 裏切りなど当たり前なのである。


「そもそも他の神と相互関係を結ぶという事が危ういのです。裏切られたら一方的に食われまくりですよ」

「マキナ先輩は食われた分より多く食って稼ぎそうですよね」

「何をみみっちい。隙をみて世界丸ごと食い潰すに決まってるではありませんか」

「現に今もベルティア先輩を食い物にしてますものね」

「知人価格です。なんと優しい私ではありませんか」


 こんなものである。

 表面上はにこやかでも裏ではとてもえげつない。それが神々の世界なのである。


 マキナもエリザも今回の顕現で経費と手数料をがっつり取っている。

 親身になりつつ足元を見てかっぱぐ。

 ベルティアの一人負けであった。


 まあとにかくうまく行きました。

 ゲリさんの目論見はうまく行ったのです……うううっ!


 ベルティアは現実逃避気味に考えながら画面のゲリを注視する。

 しかしゲリはバルナゥの格では満足できないようである。更なる格下げを要求していた。


「……細かすぎるとイグドラ様がキレてます」

「何年掛けるつもりなのですかゲリは!」


 呆れるエリザと立腹半端無いマキナである。

 二十一桁ですら一兆食わせて天に還せるかどうかなのに八桁下げてバルナゥ並にした上、さらに二桁ほど下げるらしい。


 単純計算で一兆を百億回。

 一度に何個顕現させ、一日何回刈り取るつもりなのか……


 もはや一つや二つの世界では不可能だ。

 何億という世界から何兆という転生者を顕現させねば到底賄える数ではない。


 しかし、逆に言えばそれだけの世界と転生者を用意できればできる事。

 そして奇遇? にもここにはそれを行った加害者と被害者、そして世界をぶん投げ止めた神がいる。

 被害者のベルティアは加害者のエリザに声をかけた。


「エリザ。頼みがあります」

「む、無理です。そんな数を送り込んだら私の世界が滅んでしまいますよぉ」

「あぁ情け無い。勘の悪い弟子ですこと」


 ベルティアの呼びかけに勘違いしたエリザがブンブンと首を振る。

 そんなエリザにマキナはやれやれと首を振り、ベルティアは違いますよと手を振り言った。


「レベル払いで三億年前と同様の事ができますかと聞きたかったのです」

「え? あれをまたやるのですか? しかも今度は有料? 絶対儲かる?」

「は、はい」

「よっしゃ!」


 有料という言葉に激しく食いつくエリザに若干引きつつベルティアが頷いた。


 エリザの瞳がカッと輝く。

 現金なものである。先程までガクブルしていたのに儲けが確約されると瞳を爛々と輝かせ、猛烈に端末の操作を始めた。


「まずイグドラ様に食われている私の取り巻きに話を通します。次に取り巻きの知り合い、次に煽りに乗った奴ら、最後に私達を裏切って食いまくった奴らに話を持っていきます。せっかくの儲け話ですから可能な限り上前をはねないと。あの時煽られた神々と裏切った神々のリストは今でも肌身離さず持っているのです。今こそあの時の復讐を果たす時!」


 エリザが取り巻きとプランを立案しながら下請け構造を構築していく。

 さすがは三億年前に数億の神々を煽っただけの事はある。

 一次下請けの取り巻きの意見をまとめ、二次下請けの取り巻きの知り合い、三次下請けの煽りに乗った神々、四次下請けの裏切った奴らへと話を通し、瞬く間にプロジェクト参加者の下請けピラミッドを構築した。


 頂点のエリザに近いほどうまみがある仕組みである。

 三次下請けには成果次第で取り分の増加や二次下請けへの昇格を匂わせ、四次下請けには成果次第でマキナが世界をぶん投げると脅迫する。


 四次下請けの参加はもはや強制だ。

 かつて侵攻されたエリザは彼らを使い潰してかっぱぐ気満々であった。


「マキナ先輩には監査役をお願いいたします。ナメた奴らに世界の鉄槌を」

「あらエリザ、私を利用するのですか?」

「もちろんタダとは言いません。ときどき参加者に声を掛けて頂くだけの簡単なお仕事で高報酬をお約束いたします」

「ベルティアに用意できる報酬などたかが知れておりますが、チートジャンキーを相手にするよりはるかに儲けはでかいですわね。乗りました。ベルティアにガツンと請求いたします」

「えーっ……」


 どこまでかっぱぐ気ですか二人共……


 と、戦々恐々のベルティアである。


 もはや三億年前から今のプランが仕組まれていたのでは……と思う程だがさすがにそれは無いだろう。

 イグドラが世界に堕ちた時のマキナの狂乱は半端無く、ベルティアの四十三桁全レベルを支払ったとしても投げまくった世界の損失の方が大きいはずだ。


「転生と侵攻の経費は大体このくらいですからここに儲けを乗せて、乗せて、乗せて、マキナ先輩の取り分を乗せて……このくらいですかね?」

「私の取り分はこのくらいで」

「かっぱぐ気満々ですねマキナ先輩」

「これでも知人価格ですよ? あと出来るだけ早くイグドラちゃんを戻してあげたいのでねじ込む転生者にチートを持たせてハイレベル飯にいたしましょう」

「おおぅ、ドーピングフレッシュミートですね」


 取り巻きから上がってくる必要経費や取り分の情報をちまちままとめてマキナの指摘にプランを調整したエリザがベルティアに額を提示する。


「……なんですか、これ?」

「やだなぁベルティア先輩、請求額ですよ」

「いやちょっとさすがにこれは……四十桁? マジで?」

「マジですよ」


 ベルティアが支払うレベルは四十桁。


 三十二桁を三十三桁にするのに、なぜ四十桁の支払いが必要なのですか……?


 と、眩暈によろめくベルティアである。

 イグドラのレベルを一つ上げる為にベルティアが支払うレベルが一億。

 超絶ボッタクリであった。


 ベルティアも世界主神である。

 転生者の準備、世界の移動、異界侵攻、イグドラに討伐された後の力の補填等々の経費は計算できるがどう考えても桁が四つ以上多い。

 しかしエリザとマキナは強気だ。


「この位うまみが無いと神々が飛びつきません。とにかく数を早急に集めないといけないのです。その為にはレベルがっつりが一番。みみっちい神が多少ガメてもイグドラ様にレベルを提供するにはこの位ないといけません」

「それにこのプランならイグドラちゃんを五年以内に取り戻せます。ゲリの命が尽きる前に事を済まさないとしくじるかもしれませんよ?」

「……」


 たしかにエリザとマキナの言う通りだ。

 ベルティアにとってイクドラはプライスレス。

 そのくらいのレベルを支払うだけの価値はある。


 そして今は天のベルティア、地のイグドラ、人のゲリと全ての条件がそろった千載一遇のチャンスなのだ。

 こんなチャンスは二度と来ない。

 逃せばイグドラとイグドラの子が世界を食い尽くすだろう。


 ここが決断の時。

 ベルティアは腹を決めた。


「わかりました。払いましょう!」

「さすが先輩!」

「ジャンキー共をぐるぐる回しますわよ! もっどーれ!」

「うわぁ……」


 ポムッ……

 タップ一つでジャンキー共を爆散させて、神の世界に呼び戻すマキナである。

 筆舌に尽くし難いジャンキーの帰還はさすがディストピア。


 マキナは監査役として儲けを確保した上、ジャンキー共を参加世界に送り込んで間接的にも儲ける気満々。

 かくして集めた神々によってベルティア世界におよそ六千万の異界が顕現し、イグドラの餌となって消えた。


 そして次の日、ハローワールドにこのような募集が掲載されたのである。


――――――――――――――――――――――――――――――――

 急募:十一桁までの転生者求む。

 業務内容:パワーレベリングの為の被捕食者を募集します。

      異界の主として現地に顕現、食べられるだけの簡単なお仕事です。

      転生期間は十分程度の超短期。

      転生後即全盛期。レベル完全保証。周回ボーナスあり。

      チート獲得のためのレベル支給あり。

 募集数:若干兆

 連絡先:世界主神ベルティア・オー・ニヴルヘイム

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