表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/38

22.なんという安定感! ゲリさんはエルネの人柱に昇格しました

「あー……たぶん、その剣ですね」

「え?」


 転生者転生斡旋所、ハローワールド。

 今日も唖然とする転生者を前に、ベルティアは説明をはじめた。


「その剣の異様な力はチートだったという事です。力を使って無くなった分を貴方のレベルで補充していたんですよ」

「何それ? 呪いの剣ですか?」

「いえ有料レベル武器です」

「有料って……」

「時々いるんですよねぇ、その手の武器を世界にバラまいて転生者をハメる神が。これは悪質なので全レベルが戻ってくるはずです……いつ戻ってくるかはわかりませんが。ところでエルフはどうですか?」

「お願いします……」


 毎度ありがとうございます。


 転生者の気が変わらないうちにとっとと転生処理をかけ、ベルティアは世界にエルフを叩きこむ。


 マリーナの大食いチャレンジの成果だろうか、最近エルフが好調だ。

 以前は虫の格まで落ちても嫌だという人が多かったのに最近は転生者もやけに素直。虫になって何かに食べられるよりエルフとしてイグドラに食べられた方がマシだと理解したのだろう。


 なによりエルフは食べられた後は悠々自適のニートライフである。

 レベル保証にマリーナのように食べ放題、ビルヌュやルドワゥのように飲み放題が千年間。さらに転生時はベルティアの口利き付きだ。


 至れり尽くせりなのになぜ不人気なのかと思っていたがどうやら宣伝が甘かったようである。


 さすがですマリーナさん。ヘタレ竜共とは違います。


 食の為なら何でもしますなエルフ老女に感謝しきりなベルティアである。

 ヘタレ竜共は引きこもって管巻いてただけの酔っ払いだが、マリーナはご飯が絡めばどこにでも現れその場の皆を圧倒するのだ。

 これ以上無い広告塔であった。


「あぁ、良かったわねミリーナ。しかしゲリさん料理がまったくダメですね」


 最近そのマリーナは仕事部屋でミリーナとゲリに夢中である。


 レベルを払って調べた所、ゲリは青銅級冒険者カイ・ウェルスというらしい。

 四年前からレベルもあまり変わっていない、いたって普通の人間だ。


 しかしゲリ、それでもなかなか侮れない。

 弱っちいくせに折れず、歪まず、諦めず。

 エルフの弱点であるご飯を使ってミリーナを見事に餌付け、強者のミリーナを自分の駄犬にしてしまった。


「まだまだ子供と思っていたのにゲリさんのような飯炊き係の主人なんて……成長したのねミリーナ。私はとても嬉しいですよ」


 違います。

 飼われてるのはミリーナですよ。駄犬扱いですよ。


 ベルティアは身内びいきを心の中で訂正する。


 ミリーナの扱いはどう見ても飼い犬。

 それもランデルの誰かに飼われている犬よりも明らかに扱いが悪い。ミリーナが飼い犬というのは二人の関わりに多少の不安を感じていたベルティアがしばらく観察した結論であった。


 かたやストレス源。かたや癒し。

 扱いが変わるのも当然と言えよう。

 だからミリーナが何をしようがゲリは塩対応である。


 高価な薬草は捨てる。狩りは必要最低限。裸を見ても襲わない。


 どれだけ人生達観してるんですかゲリさんと、安定極振り人生に頭が下がるベルティアである。

 そんな人生設計なのに人柱にしてしまって申し訳ありませんであった。


 しかし安心する事この上無い。

 ミリーナの手綱を完全に握ったゲリはミリーナを呪いの拡散に走らせる事は無いだろう。

 マリーナの曾孫ミリーナも食への執着半端無い。

 ご飯の為なら取って来いも駄犬扱いも何のその、暴走気味だが言われた事はしっかり守るミリーナである。


 そしてゲリは今のところそれを上手く扱っている。

 ゲリはご飯を作り、ミリーナはゲリの為に駆けずり回る。

 それはゲロさんの動きを上手くアシストするが如く。

 今は勇者として王国を飛び回るゲロさんとの冒険者経験がここに活きているのであった。


 これでひと安心ですね。


 安定してきた二人の関係に胸を撫で下ろすベルティアである。

 エルフ転生も好調。

 エルフと人間との関係も現状維持。


 あとはイグドラさえ何とかなればなぁ……


 と、ベルティアが思っているとまた何かがあったらしい。

 マリーナがベルティアの元に駆け込んできた。


「あの髭じじいがしゃしゃり出てきました!」


 今度は一体何ですか?


「誰ですかその髭じじいって?」

「私の里であるエルネの里の長老です。若い頃はエルネ最速伝説と粋がっていた髭じじいが不遜にもミリーナを裁くと二人を拉致したのです!」

「不遜って……」


 何様ですか貴方の曾孫? 


「食い意地では私の足元にも及ばなかったヘタレ鈍足が一生頭が上がらなかった恨みをミリーナで晴らそうなんて許しません! ベルティア様ガツンと、ガツンとやっちまって下さい!」


 そしてまた貴方絡みですかマリーナさん。


 ベルティアは呆れながらもマリーナの画面を覗きこむ。

 画面の中ではゲリとミリーナがエルフに囲まれ立っていた。


 正面に対峙する髭ふさふさのエルフ老人がおそらく長老なのだろう。

 何かを語っているが映像だけではよく分からない。

 あまりに小さい世界の出来事に音声は小さすぎて聞こえないのだ。


 音声は高いのですが仕方ありませんね……


 ベルティアがレベルを支払い音量をがっつり上げると長老の声がスピーカーから響いてきた。


『お前のピーにこやつのピーをピーしてピーする……だぞ?』

「この、ロリコン髭じじいめ!」


 いやいや長老としては普通の対応ですよね?


 いきなりのピー発言に激高するマリーナであるが長老のピー発言は呪いの拡散の確認である。裁く側としては当然の確認であった。

 ミリーナは呪いを移していない。

 長老の疑念は共にいる理由に変わり、やがてミリーナが爆弾発言をぶちかます。


『あったかご飯があるからです!』

『あったかご飯とな!』

「ああっ! ミリーナの飯炊き係が髭じじいに奪われてしまう! こんな奴にあったかご飯は千年早いわこんちくしょーっ!」


 何を心配しているのですか貴方は……


 と、マリーナの悲鳴に呆れるベルティアである。


 しかしここで長老がゲリを拉致し続ければ今の安定は崩れてしまう。

 そして安定が崩れてしまえばミリーナがまた暴走するかもしれない。

 エルフの運命はふたたびゲリの選択に委ねられたのである。


『……わかりました。串焼きくらいなら何とかなるでしょう』


 しかし、さすがは安定極振りのゲリ。

 周囲が全て脅威の状況にも慌てず騒がず足掻く姿勢は変わらない。

 ロクな鍋も食器も無い状況でもゲリは焼肉の準備を整えた。


「火! 安定した火種を準備しなくては!」


 この焼肉に失敗は許されません!

 本当に申し訳ありません……でも竜は世界を守る盾ですから責務、これも仕事ですバルナゥさん!


 と、ベルティアは天空を翔ける大竜バルナゥに星をかすめるメテオ一発。

 切りもみ落ちるバルナゥを見ながら自らの行為を正当化し、ゲリの元に叩き落として火の管理をさせる事にする。


 バルナゥは鷹揚にゲリに対応していたが本音はベルティアに筒抜けだ。

 神は何でもかんでもレベルで解決なのである。


『このままでは我が昇天してしまう。その前にあの陰湿者を何とかしてくれぃ!』


 申し訳ありません。本当に申し訳ありません。

 ですがエルフの安定は貴方のためでもあるのです。

 がんばってくださいバルナゥさん。


 と、自己弁護半端無いベルティアである。

 そんなこんなでエルネでの焼肉は大成功に終わり、ゲリさんはエルネのあったかご飯の人として崇められる事になる。


 レベルではなく人柱の格が上がったのだ……まったく嬉しく無いだろうが。


 長老に認められたミリーナはゲリの護衛という役目を得て、二人はランデルへと戻っていく。


 これで問題解決ですね。


 と、ベルティアは思っていたらもうひと悶着残っていた。


「ベルティア様! ミリーナが、ミリーナが髭じじいになってしまいました!」

「……」

「こんなエルフの呪いがあるなんて! あのクソ大木めこんちくしょーっ!」


 ミリーナがご飯を譲ってあげているのですよ。

 その位わかるでしょう……


 と、ベルティアは呆れるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ