閑話─配信系発掘者 その3
※今回、二話同時に投稿しております。
ご注意を。
「夢でも見たんじゃねぇの?」
初めての発掘ライブ配信から、無事にカワサキ・シェルターへと戻ってきて。
既定の隔離期間を終えた俺は、その足で親友の家を訪ねていた。
「いや、ヨシキ。あれは絶対夢でも幻でもなかったって」
こいつの名前はスルガ・ヨシキ。物心ついた頃から一緒にいる幼馴染であり、親友でもある。
こいつの家はいわゆるジャンク屋で、俺はこいつと一緒に俺の車両であるワゴン車を組み上げたんだ。
いや、楽しかったね、あれは。気心の知れたヤツと、ああでもないこうでもない、とあれこれ言い合いながら一台の車両を組み上げるのは、本当に楽しかった。
ヨシキの親父さんも昔からよく知っているので、車両のパーツはかなり安くしてもらった。感謝しかない。
「しっかし、命の危機にカッコイイ系のお姉さんが颯爽と現れて助けてくれるなんて……完全にヒロイン・ポジじゃん。おまえ、いつの間にヒロインになったんよ?」
と、ヨシキがにやにやと笑う。
確かに、言われてみれば俺ってヒロインみたいだったよな。しかも、助けてくれたお姉さんは明らかに王子様系だったし……い、いや、俺はそんなポジションに甘んじないぞ!
「それでそれで? どんなお姉さんだったんだ?」
「そうだなぁ。美人だったのは言うまでもなく、背は結構高かった。着ていた服も髪もサングラスも黒で統一されていてめっちゃカッコよかった。あと、これが最も重要なんだが…………」
俺はヨシキもじっと見つめつつ、一呼吸置いてから告げた。
「…………胸がデカかった!」
「なるほど! 確かにそれは重要だな!」
俺たちは顔を見合わせて笑い合う。
まあ、俺とヨシキは大体いつもこんな感じかな。
◆◆◆
「それで、発掘と配信の方はどうよ?」
一通り冗談を言い合った後、ヨシキが切り出した。
「配信の方はまあまあじゃないかな。例のお姉さんが登場した後、接続が一気に伸びて100人近くになったんだよ」
「ほうほう。やっぱり美人が登場すると違うんだな」
「そりゃな。俺やおまえみたいなスケベ野郎が多いんだろうさ」
「はははは! 違いない! そういう連中は、そのお姉さんが再登場すると思ったんじゃね?」
おそらく、ヨシキの言う通りだろう。
同接100人なんて、有名な配信者からすればゼロにも等しい数字だろう。
だが、デビューしたばかりの無名配信者にすれば、とんでもない人数なのだ。
「おまえの配信、後でアーカイブを見てみるよ。ライブの時、ちょうど仕事が入っていて見られなかったんだ」
「是非そうしてくれ……ってか、絶対そうしろ。で、配信の方はそんな感じで、発掘の方もそこそこの実入りがあったんだ」
「へえ? トーキョー遺跡の外周部で、実入りがあるほどの発掘品が残されていたのか?」
現在、カワサキ・シェルターからほど近いトーキョーやヨコハマの外周部は、ほぼ掘り尽くされていると言っていい。
外周部どころか、中層部でさえほとんど資源は残されていないって話だ。
それでも、ごく稀にだが取りこぼされていた資源が見つかることがある。俺が運よく見つけたのも、そんな類の資源だった。
「俺が迷い込んで危うく死にかけたビルの裏側に、完全に崩れた建物があってな。その崩れた瓦礫に埋もれた金属製のケースがあったんだ」
ビルの裏手、それも完全に崩れた瓦礫の下ってことで、誰にも気づかれなかったのだろう。もしくは、気づいた者はいたけど、瓦礫が邪魔で掘り起こせなかったのかもしれない。
あれも本当に運が良かったと思う。俺が適当な瓦礫によじ登り、周囲を見回そうとした時。
俺がよじ登ったことで、その瓦礫が崩れたんだ。
危うく大怪我しそうになった──体のあちこちを打撲はしたが──けど、瓦礫が崩れたことでその金属ケースが露わになり、掘り起こすことができたんだ。
当然、その様子もライブ配信されていたので、俺が瓦礫から落ちた時は大爆笑、そして金属ケースが見つかった時は大歓声が上がっていたっけ。
「黒子さん」──例の黒いお姉さんのことを、視聴者たちがいつの間にか勝手にそう呼ぶようになったんだが、その「黒子さん効果」で100人近い人が同接していたものだから、コメントが凄い勢いで流れたな。
で、「はよ開けろ」とか「ケースの中見たい」とかいったコメントに背中を押され、俺が金属ケースを開けてみれば…………中身は使用済みのペットボトルだった。
おそらく、この瓦礫となった建物に入っていた企業か何かが、この金属ケースを使用済みペットボトルの「回収箱」としていたのだろう。
使用済みのペットボトルを、「ゴミ」だと思うヤツは今の時代にはまずいない。
ペットボトルは再利用可能な資源であり、しかも軽いから運ぶのも容易。更には乱雑に扱ってもまず壊れることはないという、発掘者からするとかなり「狙い目」な発掘品なのである。
もっとも、壊れたり割れたりしたところで問題はないけど。再利用する際に一度粉砕するからだ。
そのペットボトルがケース一杯、ざっと60本から70本ほどあっただろうか。
これはかなりのお宝だ。実際カワサキに戻ったら、そこそこの値段で買い取ってもらえた。おかげで、初の発掘は黒字という最高の結果に。
まあ、黒字と言っても使った弾薬や車両の燃料などの経費を差っ引けば、本当にぎりぎりの黒字だったんだけど。
それでも、黒字は黒字である。
新人が最初の発掘を黒字で終わらせるのはかなり難しいらしい。これは知り合いの発掘者が言っていたことだ。
「てなわけで、懐事情が多少なりとも上向いたんで、今回の収入の一部を次の発掘費用に回す予定だ」
「お、何か新しい武器とか買うのか?」
「一応な。ショットガンのありがたさを痛感したので、メイン武器はこのままショットガンを使う予定。で、サブ用にSMGかライフルが欲しいところかな」
「ふーん、いいんじゃね? そうやってちょっとずつ装備が充実していくのっていいよな」
「おう! 俺、今、すっげぇ楽しわ。これからもこの調子でどんどん発掘と配信を続けていくつもりだよ」
「まあ、がんばれ。俺にできることがあれば協力すっからよ。ま、こっちも商売なんで、払う物は払ってもらうけどな!」
ヨシキの言うことはもっともだ。それでも、友達価格で売ってもらえるのだからありがたい限りである。
◆◆◆
「おはらいとー! もしくは、こんらいとー! 第二回、ユウヅキ・ライトの『配信系発掘者のライブ・チャンネル』、今日も始めまーす!」
前回の発掘から約二週間。
俺は再びライブ配信を行う。
現時点での同接数は168名。前回の視聴者が引き続き、いや、更に多くの人が見てくれているようだ。
うんうん、順調、順調。
「今回も前回同様、トーキョー遺跡の外周部の発掘をしていきたいと思います」
俺は背後がよく見えるように脇に移動すると、オート撮影のドローンカメラがトーキョー遺跡の外観を映し出す。
早速、いくつかのコメントが流れる。
「黒子さんはー?」
「黒子さんどこー?」
「はよ黒子さん映せ!」
「男に用はない! 黒子さんを出せ!」
「カッコイイ系美人が出ると聞いて」
「黒子さん、エロい格好で出てくれないかな?」
…………うん、最初っから分かっていた。こいつらの目的が俺じゃなくて黒子さんだってのは。
俺だって、あのお姉さんがどこかの配信に出るとなれば、絶対に視聴するからな。
「前の配信の時にも言ったけど、あのお姉さん……みんなが言う『黒子さん』は、俺の仲間でも知り合いでもありません。あの時は本当に偶然助けてくれただけなので」
俺がそう言った途端、同接数が一気に半分になった。こいつら、分かりやっすいな!
あと、離れた所から俺の方をちらちらと見ている同業者っぽいのが三人いるんだが、俺の方とマルチデバイスを交互に見ているので、俺の配信を見てくれているのかもしれないね。
荒野で出会った同業者には気をつけろ。同じ発掘者だからって絶対に気を許すな。
ってのが発掘者の間の認識らしいけど、少なくともあの人たちは大丈夫な気がする。
でも、気をつけておこう。まあ、俺のようなぺーぺーを襲っても、実入りはまずないって分かっているだろうけど。
「では、これより遺跡の中へと入っていきます。今回は、前回よりももっと奥まで行きたいですねー」
カメラに向かってそう言う。
前回、例の地下室で弾薬を大幅に減らしてしまったので、予定よりも早めに引き上げたのだ。
もちろん、車両に予備の弾薬は積んであるけど、俺個人が持ち運べる弾薬には限界がある。
弾薬を持ち過ぎると発見した資源を持ち帰れない。
かといって、弾薬を少なめにすると継戦能力が低下する。
このバランスが難しいんだよね。
チームを組んでいる発掘者たちは、チーム内で使う火器の種類を統一し、持ち運ぶ弾薬を共有するなどの工夫をするらしい。
でも、俺はソロだから、持ち運ぶ弾薬の数は自分で調整するしかない。
できれば、俺もチームメイトが欲しいところだけど……特に可愛い女の子を希望する!
もちろん、例の黒子さんのようなお姉さんタイプの美人も可! いやいっそ、黒子さんが俺とチームを組んでくれないかなぁ?
黒子さんと一緒なら同接数も見込めるし、何よりあのお姉さん、すっごく強そうだったし。
もしも次に会う機会があれば、チームを組んでくれるように誘ってみようかな?
でも、前回の時に既にチームを組んでいるような発言もしていたし、今更俺とは無理だろうな。
いっそ、俺が黒子さんのチームに入れてもらうのは……うん、こっちも無理だよな。
おそらく、黒子さんのチームはかなりレベルが高いと思う。そんなところに俺のような新人は入れてもらえないだろう。
やっぱ、俺は俺で配信系発掘者としてソロでがんばっていこう。
「ではでは、これより遺跡に入ります。さぁて、今回はどんな資源が発掘できるのか、お楽しみにー!」
俺はカメラに向かって親指を立てると、ショットガンを構えて遺跡へと足を踏み入れた。
来週の更新はちょっとお休み。
9月22日(月)より、新章を開始します。
引き続き、お付き合いいただけると幸いです。




