新装備
今話と同時に、第1章の最後に閑話を追加しました。
よろしければ、そちらも是非。
「ここがショウ様がおっしゃっていたガン・ショップですか?」
「ああ、ここがガン・ショップ『天使の館』だ。店の名前や商品名はちょっとアレだが、信頼はおけるぞ」
怪我が完全に癒えたショウは、アイナとイチカ、フタバ、ミサキの四人と共に、イチカたちに必要な装備を購入するため「天使の館」を訪れた。
今、五人の目の前には、ファンシーでカラフルな配色を施された建物がある。
ぱっと見では、10代の少女たちが好みそうな雑貨、もしくはスイーツなどを取り扱っていそうな店構えだが、ここはれっきとしたガン・ショップ──銃器や弾薬、そのオプション装備を取り扱う店舗なのである。
「久し振りに来たけど、ここは相変わらずだねぇ」
アイナも久し振りに「天使の館」を訪れ、苦笑を零した。
今の時代、誰しも護身用に拳銃ぐらいは所持しており、アイナも小型のオート拳銃を外出の際は常に身に付けている。
そのため、彼女も何度かこのショップを利用したことがあるのだ。
「ねえ、しょーちゃん。イチカたちの装備を買うのはいいとして……お金の方、大丈夫?」
つつつ、とショウに近寄り、彼の耳元で小さく尋ねるアイナ。もっとも、超高性能な集音装置を内蔵するイチカには、今のアイナの声でさえ拾われているのだが。
「それなら、大丈夫だ。俺とキャロルが組んで発掘者をしていた際、報酬の何割かを共同資産としてプールしておいたんだ。キャロルはその共同資産を持ち出すことなく姿を消したから、それをイチカたちの装備購入費に充てるつもりだ」
発掘者たちが数名でチームを組む際、手に入れた報酬の何割かをチームの活動費として共同資産とすることはよくあることだ。
チームで活動した際に消費した弾薬費や、怪我をした場合の治療費、チームで移動するために必要な車両の購入・整備・燃料費などを、その共同資産から捻出するのである。
キャロラインがショウの前から姿を消した際、彼女はその共同資産を一切持ち出していなかった。
それはおそらく、彼女が現在の関東圏で使われている通貨単位である「新円」が通用しない地域へと向かったからではないか、とショウやウイリアムたちは推測していた。
「とはいえ、その共同資産も大金ってほどではないから、常識の範囲で装備を調えないとな……」
「そだね。常識は大事だよね……」
発掘者としては、まだまだ若手と認識されているショウ。だが、カワサキ・シェルターに拠点を置く発掘者の中では、上位の実力を持つと周囲からも判断されている。
それでも、その稼ぎは決して多くはない。
発掘が成功する確率が高いものではないことと、発掘には現場までの移動手段の燃料費、遺跡で【インビジブル】と戦闘になれば、そこで消費する弾薬など、相応のコストが必要だからだ。
発掘品を売った収入と、必要経費の支出。その収支を常に黒字で終わらせることは、どれだけベテランの発掘者でも決して簡単ではない。
数回から十数回の発掘を経て、最終的に黒字で済ますことができれば、その発掘者やチームは「一人前」と認められるだろう。
そんな状況の中、ショウとキャロラインのチームは何とか黒字を維持できていた。そのため、彼らは周囲の発掘者たちから、上位者として認められていたのである。
◆◆◆
「天使の館」の中に入れば、店舗の外観とは裏腹に、割と普通のガン・ショップだった。
壁際に設けられたラックには、各種銃器が陳列されており、店の中には弾薬やオプション装備なども並べられている。
「おりょ? ショウとアイナじゃーん。おっひさー!」
来店したショウたちに気づき、店の奥から店員と思しき人物が現れた。
見た目、15、16歳ほどの少女で、ビビットなピンク色の長い髪と緑の目の人物である。
「久しぶりだな、エマ」
「こんにちは、エマちゃん」
店の奥から現れたのは、この「天使の館」の店員にして看板娘のサカキ・エマだ。
このガン・ショップのオーナーは、カワサキ・シェルター技術部門の主任、サカキ・ゲンゾウなのだが、彼は作ることこそ熱心だが作った物の販売に対しては関心が薄い。
そのため、彼の孫娘であるエマが、ショップの経営を任されていた。
ちなみに、この店舗の名前や商品名などは、全てエマが決めたものである。
物作りや弟子の養成には極めて厳しく「ゲンコツ親父」の異名を持つゲンゾウも、孫娘にはとっても甘い。
エマの言うことであればほぼ何でも聞いてしまうゲンゾウなので、エマが命名した店舗名や商品名にも何も口出しはしないのである。
「ところで、ショウ。あーし、聞いちゃったよー?」
「何を聞いたって?」
「ウチに来る他の発掘者が言っていたんだけど、ショウってば他の女に浮気してキャロルに刺されたんだって? その後、傷心のキャロルはカワサキを飛び出して、ショウは刺された怪我が原因で入院していたって話だけど、ホントにホント?」
にししー、と意味深な笑みを浮かべるエマ。彼女の視線が、ショウの後ろにいる三人の女性たち──イチカ、フタバ、ミサキへと向けられた。
「およよよ? もしかして、あの娘たちが浮気相手? 一気に三人と浮気するなんて、ショウもなかなかやるじゃーん」
キャロラインが突然姿を消し、ショウが怪我を負ったのは事実だ。
おそらく、そこから好き勝手に推測された噂の類が、あちこちで独り歩きをしているのだろう。
どんな時代でも、この手のゴシップが好きな者は多い。こういう噂が広がるのはあっという間である。
特に、キャロラインは同業者である発掘者たちの間では、その外見や人当たりの良さから相当人気があった。ショウとキャロラインが正式に恋人となった時など、ショウはどれだけ嫉妬の視線を向けられたことか。
この調子だと、同業者たちの間でどんな噂が飛び交っているのか。それを考えるだけで頭痛がしてきたショウであった。
◆◆◆
「ほうほう。あの三人の装備を購入したい、と?」
一通りショウをからかって満足したエマは、彼らの来店理由を尋ねた。
「三人のメイン武器とサブ武器、予備弾薬や銃器オプション。後は……防具も必要だな」
「ほいほい。三人分となると、結構な額になりそうだけど、お財布の中身はだいじょび?」
「そこは友人価格で売ってくれると、非常に助かるんだが?」
「もー、仕方ないなー。ちょっとぐらいはオマケしてあげよーじゃない」
エマはにしし、と笑いながら、イチカたち三人の元へと向かう。
「それで、それで? おじょーさんたちは、どんな武器がお好み?」
「そうですね……わたくしは前線に出るよりも、後方からの支援・援護が主な役目になりますから、火力よりも取り回しの良さや装弾数、軽さなどを重視したいですね」
「ボクもイチカ姉さまと同じく、そこまで高火力は望まないかなー? でも、最低限の火力は欲しいよね!」
エマはイチカとミサキの意見を聞き、頭の中で彼女たちの好みに合いそうな銃器を選択する。
「となると、お二人さんにはアサルト・ライフルよりもPDW……パーソナル・ディフェンス・ウェポンが良さそうかな? PDWなら、サブマシンガンよりも火力はあるし、取り回しも良好だしね。で、最後のおじょーさんはどんなのがいい?」
「天使の館」に入店してから今まで、一言も発していないフタバへとエマは声をかけた。
「カッコいいのがいい」
「…………は?」
「デカくて、重くて、見た目が派手なのがいい。例えば……これなんていいな」
そう言いながらフタバが指差したのは、店の壁の一角に飾られていた巨大なハンマーだった。
全長はゆうに2メートルを超え、重量もそれ相応で、どう見ても実用的に使う武器ではなく、あくまでも店のディスプレイ用であろう巨大なハンマー。
どれだけの力自慢であっても、持ち上げることさえ困難であろうことが見ただけで分かるシロモノである。
「え、えっと……これはウチのおじーちゃんがお店の箔付けのために作った武器で、ハンマーヘッドの打撃面の反対側に指向性の爆薬を仕込み、インパクトの直前にそれを点火して打撃力を跳ね上げているんだけど、反面実用性とかガン無視で重量も100キロ越えちゃっているから、人一人ではとても持ち上げられなくなっちゃって……あ、ちなみに、このハンマーにもちゃんと〈力天使の福音〉って商品名が……」
何やらあれこれと喋っているエマを無視し、フタバはどこからか踏み台を持って来て、壁にかかっていた巨大なハンマー、〈力天使の福音〉を持ち上げた。
人間では持ち上げられないような重量を誇るそのハンマーを、フタバは易々と持ち上げる。
当然、その光景にエマはぽかんと口を開けて言葉を失う。
「確かにかなり重いが、振り回せないほどでもないな。それに、ゴツくて非常にカッコいい」
フタバは意味ありげにショウを見る。明らかに、「これ、買ってもいい?」と尋ねている目だ。
その視線に溜息を吐きながら、ショウはエマにハンマーの値段を問う。
「え? い、いやあ、まさか〈力天使の福音〉を買おうとする人がいるとは思わなくてさー。実は値段、決めてないんだよねー」
◆◆◆
その後、エマは店主であるゲンゾウに〈力天使の福音〉の値段を確認したところ、「あんなモン他に売れねえから幾らでも構わねえ」と言われたらしく、かなり格安で巨大ハンマーを売ってくれた。
とはいえ、普段からメイン武器として振り回すには明らかに向いていないため、ショウと同じバトル・ライフル〈獰猛なる翼〉も購入する。
イチカとミサキは、予定通りPDWの〈純白なる慈愛〉を選択。
他に、コンバット・ナイフやサブ武器に.45口径オート拳銃の〈愛の咆哮〉、加えてサイト類などの各銃器のオプションパーツ、予備マガジンや補充用の弾薬も購入。
これで、一応三人の武器面の装備は揃ったと言えるだろう。
更に、使用済みとなった空マガジンを回収するためのダンプポーチも三人分用意した。
映画などでは使用済みとなった空マガジンを無造作に投げ捨てるシーンをよく見かけるが、空マガジンも立派な資源であり、そうそう使い捨てることはない。
そこで、腰にダンプポーチなどの回収用の装備を用意しておき、使用済みとなったマガジンなどをそこに放り込むのだ。
できれば使用後の薬莢も回収したいところだが、戦闘中の回収は言うまでもなく困難であり、また、戦闘後に回収するにしても使用した全ての薬莢を回収するのは難しく、状況によってはそんな暇がない時もあるため、あくまでも「可能な限り」という注釈がつく。
「後は防具類だねー」
ここ「天使の館」は銃器だけではなく、防弾ジャケットのような防具も取り扱っている。
もちろん、それら防具類のメインデザイナーは他ならぬエマであるため、性能は良くても見た目がやたらファンシーな物が多い。
そのため、防具は他の店で購入することを考える常連の発掘者も多いのだ。かくいうショウも、防具は他で購入したクチである。
「あ! ボク、防具はこれがいいですー!」
と、ディスプレイされていたカラフルでファンシーな衣装──あくまでも防具──を見ていたミサキが指差したのは。
「なぜ、よりによってそれを選ぶ……?」
ショウが小さく呟きながら肩を落とす。
なぜならミサキが選択したのは、ふわふわとしたフリルが多用された、「可愛い」が前面に押し出されたメイド服であったからであった。




