表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
128/143

作戦会議

「何なの、この成績!」


 西日が差し込む放課後の教室に、フリーダの甲高い声が響き渡った。クエルは思わず耳をふさぎたくなったが、そんなことをすれば、フリーダの怒りに油を注ぐことになる。


「まじめにやっているの!?」


「も、もちろんまじめにやっているよ」


「それなら、どうしてこんな成績になるのよ!」


 フリーダが前期のクエルの成績が書かれた紙を、クエルの前に突き出した。そこに書かれた結果は、ほぼすべての科目で赤点か、超えていてもギリギリだ。


『なんで勝手に持っていた上に、フリーダに見せたんだ!』


 クエルは心の中でセシルに文句を言った。


『赤毛に見せるのが一番効くからだ』


 クエルは腹の底で盛大にため息をつく。当のセシルはと言うと、クエルとフリーダのやり取りを心配そうに眺めるフローラの横で、涼し気な顔で座っている。 


『一体誰のせいだと思っているんだ!』


 夜な夜な存在感はあるくせに、触れられない姿でクエルの寝床に入ってくる人形(セシル)のせいで、クエルはいつも寝不足だ。人形工学の授業など聞いたら、間違いなく眠くなる。実技の成績も、ボッチだから最低だ。


『我はお前の潜在意識のあるべき姿に忠実なのだ』


『またそれか……』


「フリーダ様、クエル様の成績が悪いのは、侍従たる私にも責任があるように思います」


 それを聞いたフリーダが当惑した顔をした。


「どうしてクエルの成績が、セシルちゃんのせいになるの?」


「クエル様が心置きなく授業を受けられるよう、もっと近くでお仕えすべきでした。後期は同じ部屋でクエル様のお世話を――」


「すべてクエルの自覚の無さのせいよ。あり得ません!」


「フリーダさん、クエルさんの成績ですが、今度の国学総演習は前期の成績への加算ですから、まだ取り返せると思います」


「フローラさんの言う通りね。私たち第13班は、他の班に比べて人形の数も少ないから、きちんと作戦を立てて、点数を稼がないと」


 それを聞いたフローラが、申し訳なさそうに頭を下げた。


「私と兄のせいで、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」


「お兄さんは怪我のせいだし、フローラさんは正式に入学したばかりだから、人形が間に合わないのはしょうがないわよ。だけど、一緒に総演習に参加出来ないのは残念ね」


「本当にそう思います。人形はジークフリード様が手配してくれているので、それほど時間はかからないと思います」


「次の国学総演習では、一緒に他の班をこてんぱんにしてやりましょう!」


 フリーダは笑みを浮かべてフローラを励ましたが、すぐに腕組みをして考え込む表情をした。


「だけど、全然情報もないし、どうやったら作戦を考えられるのかしら?」


 配布された総演習要綱に書いてあるのは、細かい注意事項を除けば、一昼夜に渡る野戦であることぐらいだ。これだけの情報では作戦の立てようがない。クエルもフリーダと一緒に首をひねった時だ。


「総演習場の地図でしたら、私の方で入手しておきました」


 セシルがおもむろに机の上に地図を広げる。そこには普通の地図なんかより、はるかに多くの情報が書き込まれていた。ただの地図ではない、実戦で使われる野戦地図だ。


「これって、どこから持ってきたの!?」


 フリーダが呆気に取られた顔でセシルを眺める。


「はい。フリーダ様のご気分が悪くなられた時に、ブレンダ助教が置き忘れたものをお借りしました」


「えっ!」「はあ!?」


 クエルとフリーダの口から驚きの声が漏れた。フローラは声を上げることなく、車椅子の上で固まっている。


「勝手に持ってきたのか!?」


「緊急事態でしたので、許可をいただく暇がありませんでした」


 慌てふためくクエルに、セシルが涼しい顔で答える。


「それを勝手に持ってきたというんだ!」


「こんなの見たら、ズルにならない?」


 フリーダの問いかけに、セシルは首を傾げた。


「どうでしょうか? 他の皆様は卒業生から聞くなりして、すでに知っている情報だと思います」


「確かにそうね……。それに私たちの班は人形が三体しかいないんだから、このぐらいのハンデをもらってもいいわよ」


「流石はフリーダ様、おっしゃる通りです。それに一族でまとまって戦う者たちの方が、よほどにズルをしていると思います」


 クエルもとりあえず頷く。フリーダはもちろん、セシルも逆らってはいけない相手だ。


「それじゃ、早速地形を確認しましょう!」


 フリーダの掛け声に、クエルもびっちりと情報が書き込まれた地図を眺めた。次の瞬間、思わず目が点になる。


「何これ?」「これってどう見ても……」


「三か所に分かれての陣取り合戦ですよね……」


 クエルたちのつぶやきにフローラが答えた。地図の真ん中には急斜面の丘があり、それを囲むように3つの森が点在している。それ以外の場所はほぼ草原と言っていい。地図を見る限り、三か所の森に陣を構えての持久戦以外は考えられない。


「水場も森の中にしかないし、これって、完全に御三家用の演習場じゃない。作戦なんか考えるよりも、どこかの家の仲間になれるように、働きかける方が先という事?」


「そ、そうなりますね」


「そんなのあり得ない!」


「でもフリーダ、3つの森のどれかを確保しないと、どう考えても生き残れないよ」


「それなら他の人たちが確保する前に、私たちで確保すればいい」


「ちょっと待て、僕らには三体しか人形がいないんだぞ」


「それならムーグリィさんたちと、第一班と手を組みましょう」


「それしかないな。ムーグリィたちと一緒なら、誰も攻撃なんてしてこない」


「あの――」


 二人で頷きあったクエルとフリーダに、フローラが遠慮がちに手を上げた。


「フローラさんは第一班と組むのは反対?」


「そう言う訳ではないのですが、確か第一班は演習免除だったと思います」


「えっ!」「ええ――!」


 フローラの言葉に、フリーダとクエルは互いに顔を見合わせた。

 

「先ほどクエルさんがおっしゃった通りで、アイリス王女には誰も攻撃をし掛けてこないということで、演習への参加自体がなくなったと聞きました」


「そんなの、ムーグリィさんが受け入れたの?」


「相当揉めたみたいですが、優勝した班と団体戦をさせるということで説得したと、ジークフリード様から聞きました」


「クエル、どうするのよ!」


「どうするって言われても――」


「少しお待ちください」


 先ほどから地図を眺めていたセシルが声をあげた。


「こちらの丘ですが、全て崖に囲まれているように見えて、実は上に行く道があるようです」


 セシルが地図の一点を指さす。そこには崖の隙間を抜けて、丘の頂上へ向かう小道が書き込まれていた。


「それにこの途中の橋を落としてしまえば、誰も侵入できなくなります」


「帰るときはどうするんだ?」


「クエル、そんなの演習が終わってから考えればいいでしょう。それにセシルちゃんが言っているのは、あくまで最悪の場合よ。頂上に陣取って傾斜路を抑えてしまえば、どんなに相手が多くても大丈夫ね」


「飛行型が来た場合は?」


「要綱では飛行型は一番高い木の上、3ヒロ(5m)までしか飛行を認められていません。頂上を目指してきても、上から要撃可能です。飛行型は人形師が上に乗りますので、一番の弱点と言えます」


 フローラが演習要綱を眺めながら、クエルの疑問に答える。


「それに飛行型は制御自体がとても難しく、国学で飛行型を繰れるのは、マクシミリアン様だけです」


 何故か目を輝かせながら、フローラが言葉を続けた。

 

「セシルちゃん、その案は悪くないけど、今回は使えないわね」


「はい、フリーダ様のおっしゃる通りです」


 セシルもフリーダに頷き返す。そしてジト目でクエルを眺めた。


「えっ、どうしてダメなの?」


「ここにこもったら、誰も手出しができない。つまり点数も取れないということよ。そうなったら……」


「クエル様は落第し、放校処分ですね」


「そ、そうでした……」


「クエルのおかげで大迷惑。残る手は一つだけ、遊撃戦よ」


 フリーダは真剣な目で地図を眺めると、森の間にある起伏のある草原を指でなぞった。


「草原を移動しながら、森にいる連中を誘い出して、互いにつぶし合いをさせる」


「乗ってこなかったら?」


「黙って見ていられないように、『玉無し』ぐらいは叫んでやるわ」


「フリーダ……」


「いずれにせよ、私たちの連携が試されるのは確かね」


「連携って、どうやって練習するんだ?」


 ムーグリィは単騎の練習相手としては最強だが、複数の人形同士の連携をとる相手は誰も思いつかない。


「大丈夫、その練習相手は見つけてあるの」


 そう告げると、フリーダは夏服では隠しきれない胸を張りつつ、一枚の紙をクエルたちの前に差し出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ