開戦
両親を何とか説得して、総指揮官になった私は本日────進軍を始めた。
愛馬に跨る私は、物凄いスピードで先頭を走っている。後ろには、約五万の兵士達が居た。
今回は魔導師を多く投入しているため、兵士の数はかなり少ない。
でも、疲弊しきったカラミタ王国を滅ぼすには、十分な戦力だった。
「ニーナ王女殿下、もうじきカラミタ王国の外壁が見えてくる頃かと……」
「分かったわ。それじゃあ、作戦通りにお願いね。私は先に行って、敵を無力化してくるわ」
「畏まりました」
ペコリと頭を下げる部下は、『ご武運を』と言って、後ろに下がる。
徐々に遠ざかっていく足音を聞き流し、私は正面に魔法陣を描いた。
僅かに震える手を握り締め、私は一度深呼吸する。
大丈夫……作戦通りに動けば、カラミタ王国の被害も最小限に抑えられる筈よ。無駄に血を流すことはない……。
土壇場で怖気付く己を奮い立たせ、私は展開した魔法陣を発動させた。
─────と同時に淡い光に包まれる。
僅かな静寂のあと─────私は馬ごとカラミタ王国の王都に転移した。
「こ、れは……思ったより、酷いわね」
瓦礫の山と半壊した建物、それから古い血の跡まで……これはもう街というより、廃墟に近かった。
人の気配はするけど、殺気や敵意は感じない……恐らく近くに居るのは、兵士じゃなくて一般人ね。なら、突然斬りかかってくる心配はないでしょう。
崩壊した王都を見つめ、私は『ふぅ……』と息を吐く。
そして、天に向かって手のひらを掲げた。
「満月に集いし闇の精霊よ、迷える子羊たちを夢の世界へ誘いたまえ────怠惰の眠り」
戦争に備えて新開発した魔法を、私はカラミタ王国全体に展開した。
空を埋め尽くすほどの巨大な魔法陣は、カラミタ王国に居る者達を片っ端から、夢の世界へ誘う。
国規模で発動した睡眠魔法は見事成功し、一切血を流すことなく、無力化できた。
あとは────カラミタ王国の王族を捕らえて、殺すだけ……。
戦争まで発展した以上、キャンベル王家の人間を生かしておく訳にはいかない……。誰も死なずにハッピーエンドとはならないのだ。
私は『作戦成功』を意味する青の信号弾を打ち上げ、部下達に出陣するよう促す。
静まり返った街を一瞥し、私は王城へと足を向けた。
────さあ、この戦争を終わらせに行こう。




