密会《カーティス side》
────開戦まで残りわずかとなった、ある日。
父上に謹慎を言い渡された僕は、自室でリナとゆっくり過ごしていた。
三人掛けのソファに並んで座り、腹違いの妹にチラッと視線を向ける。
本来であれば、リナと一緒に居るのは非常に不味いのだが……戦争準備で色々と忙しいため、僕らの密会に気づく者は居ない。それが不幸中の幸いと言えた。
「お兄様!元気を出して下さいませ!エスポワール王国との戦争は、きっと我が国が勝利しますわ!だって、お父様自ら指揮を執っているのですよ!」
「……ああ、そうだな」
リナの気休めにもならない慰めに、僕は空返事を返す。
リナは本気で大丈夫だと思っているようだが、客観的に見てもエスポワール王国との戦争はかなり不味かった。
我が国の勝利は、どう考えても難しいだろう。
でも、今はカラミタ王国の勝利に賭けるしかない……。たとえ、それがどんなに低い可能性であろうとも……。
「リナ、戦争当日も僕の部屋に来てくれないか?お前が居ないと、どうも不安なんだ……」
「勿論ですわ!私はお兄様の恋人ですもの!愛する人が不安な時は、お傍にいます!」
屈託のない笑みを浮かべ、リナは僕の腕に自身の腕を絡ませる。
この無邪気な笑みが……僕を包み込んでくれる大きな愛情が……揺るぎない絶対的信頼が……僕の心を癒してくれた。
────この愚かで、どこまでも美しい女は僕の全てを肯定してくれる。
だからこそ、彼女の傍は心地いい。
リナの傍に居る間だけは、母からの重圧や王族としての義務から、逃れられる……。弱いところも全部受け止めてくれるリナは、僕の心を支える最後の砦だった。
「───あっ!もうこんな時間!!もうすぐ見張りの方が来てしまいますわ!」
慌てた様子で立ち上がったリナは、ドレスのシワをそのままに踵を返す。
おもむろに掛け時計に向けると、時計の針は十一時半を指していた。
もうすぐ、昼か……。
「ごめんなさい、お兄様!もう行かなくては、なりません!また明日来ますので、それまで待っていて下さいね!」
「ああ、気をつけて帰るんだよ」
「はいっ!」
最後にとびっきりの笑顔を見せると、リナはそそくさと退室していく。
僕はただ、彼女の小さな背中を見送った。
開戦まであと一週間もない……この生活の終わりも近いな。




