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未熟

 その後、ケイト王妃陛下は抜け殻のように固まるカーティス様たちを連れて、帰路に就いた。

お父様とお母様も『戦の準備があるから』と早々に部屋を出て行く。

仲裁役として、招かれた神官長もさっさと教会に帰ったため、ここにはもう私とオリヴァー様しか居ない。

妙な脱力感と疲労感に襲われる私は、ソファの背もたれに寄りかかった。


 なんか……どっと疲れたわね。


「お疲れ様。キャンベル王家の人間を相手にするのは、疲れただろう?」


「そうですね……正直、凄く疲れましたわ。カイル陛下は往生際が悪いし、カーティス様は無知過ぎるし、リナ王女は態度が悪いし……ストレスで、胃に穴が開くかと思いました」


「それはちょっと有り得そうで怖い冗談だね」


 クスリと笑みを漏らすオリヴァー様は、私の隣に腰を下ろした。

ふわりと爽やかな香りが鼻孔を擽る。


「やっと、カーティス王子との悪縁が切れたと言うのに、浮かない顔をしているね」


「そんなことは……」


「私の前では強がらなくていいよ。ありのままの君でいい。どうせ、ここには君と私しか居ないのだから、思う存分本音をぶちまけると良い」


「っ……!!」


 慈愛に満ち溢れたアメジストの瞳を前に、私は言葉を詰まらせた。

その澄んだ瞳を目の前にすると、全てを見透かされているようで……隠し事なんて、出来なくなる。


 嗚呼、この人は本当に─────狡い人だ。


「わ、たしっ……!」


「うん」


「ケイト王妃陛下が『民のために一度、国は滅びるべきかもしれない』って言った時、カーティス様との婚約を解消するのが本当に最善だったのか分からなくなりました……もっと他に方法があったんじゃないか、痴情のもつれで戦争を再開させるなんて身勝手なんじゃないかって……!」


「うん」


「ケイト王妃殿下は、国のために命すら投げ出す覚悟なのに、私はっ……!覚悟なんて出来ていないただの子供で……!!」


 そう、私はただの子供。死ぬ覚悟も国を背負う覚悟も出来ていない半端者。

今日の話し合いで、己の未熟さを嫌ってほど痛感した。


 国のために滅ぶ決意をしたケイト王妃殿下と、自分のせいで国民を危険に晒す私……原因はなんであれ、戦争の引き金を引いたのは私だ。


「私は戦争も暴力も嫌いです……でも、時と場合によっては、それが必要になることもあるでしょう。だから、戦争や暴力を悪と決めつけることは出来ません……でもっ!今、それが本当に必要なのかと聞かれたら……私はきっと何も答えられないでしょう」


 己の未熟さを噛み締めるように私はキュッと口元に力を入れる。

目尻に浮かぶ涙を零さぬようにと、ひたすら我慢した。

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