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第61話 王都へ

「お待たせしました。クレメンテさん」


 トオルが女王からの手紙を受け取った、その日の午後。

 魔法袋に荷物を詰め込んだトオルたち六人は、泊まっていた宿を出て、街が見下ろせるアルヘイムの門にやってきていた。


 そして待っていた女王の使者、エルフ族のクレメンテと合流。


 いざ王都へと出発! ――の前に、トオルは見送りの者たちの方へ。


「短い間でしたが、お世話になりました。ちょっと女王様のところにいってきます」

「ああ、行ってこい。いい報告を待っているぞ、トオル!」

「我も同行したいところだが……またトオルには離されてしまったからな。花嫁修業は任せてくれ。次に会う時はもっと強くなっているぞ!」


 わざわざ門まで見送りに来たのは、リカルドとカーティアだ。


 伯爵は忙しいためどうしても来れず。

 応接間で先に別れの挨拶を済ませて、代わりに息子と娘を見送りにいかせていた。


「はい。まあ全力で挑んで頑張ってはみます」


 今や貴族と平民という身分の違いの緊張はなく、トオルは気楽に二人と話す。


 なぜかもう完全にカーティアの未来の夫になっているトオル。

 次に会う時は挙式かな? とリカルドに聞かれるなど、先走り感がものスゴイが……まあそれは置いておいて。


 リカルドと握手をして、カーティアには聖騎士のステータス全開でまた抱きつかれて、別れの挨拶を済ませた。


「女王の試練を受けるとは驚いたぜ。俺たちの命の恩人はトンデモねえ大物だったな!」

「頑張ってなぁ、トオル。アルヘイムから応援しているよぉ」


 次に見送りに来ていたのは、漁師組合の組合長のシルヴィオと息子のネロだ。


 その二人とも別れの挨拶を済ませたあと、

 今朝獲れたばかりのアジ(っぽい魚)を奥さんが揚げたアジフライを持たされて、トオルは魔法袋に大切にしまう。


「――では参りましょうか。我らの女王様が居られる神聖な地へ!」

「はい。いやー今から楽しみですね」

「よろしくお願いするのであります」

「いよいよ王都でしゅね」

「オイラ、王都にいくなんて夢にも思ってなかったッスよ」

「国民なら一度くらいは王城を見たいってもんだぜ!」

「俺は島育ちだから……緊張してねえと言ったら嘘になるし」


 こうして、トオルたちは温かく見送られながら。


 女王の使者の馬車に乗って、王国東部の港街アルヘイムを出発した。



 ◆



「うおお……何という乗り心地だ。こりゃまるで新幹線ですな」

「ん? 新かん……何ですか、トオルさん?」


 アルヘイムを発って王都への旅が始まった。

 そのすぐあと、思わず感動したトオルは、窓から顔を出して馬車をまじまじと見る。


 乗っている馬車は四輪の大きな箱馬車だ。

 それを引くのは二頭の馬で、美しい白馬が軽やかに大地を駆けている。


「まったく揺れないぞ。速度も普通の馬車よりも断然、速いのに」

「でありますね。これだと酔う心配もないのであります」

「ははは。そこは王室が管理している馬車ですからね」


 トオルやマルコの反応に、紳士エルフなクレメンテが上品に笑う。


 箱馬車を引っ張る白馬二頭は当然、血統書つき。

 サイズこそ普通の馬と同じでも、最高速度も持久力も格段に高い。


 また箱馬車自体も魔道具の一種だ。

 微塵も揺れないのは浮遊効果によるもの。地面から少し浮いているため、街道だろうが悪路だろうが問題なしである。


「なので通常の箱馬車と比べると、旅路はおよそ三倍速となりますね」

「お、おお。三倍ですか」


 ゲームやスマホなどないので、正直、異世界の旅路はヒマだ。


 だから速ければ速いほどありがたい。

 何より、移動が鬼門(?)なトオルたちにとっては……浮遊する馬車ならダメージもなくて故障の心配がなかった。


 そんな安心安全で高性能な馬車はひたすら南西へ。

 いくつかの貴族領を跨ぎ、夜は近くの街に泊まり、王国一の巨大穀倉地帯も越えていく。


(……あれ、気のせいか? 何か急に空気が澄んできた気が……?)


 ――そうして、三倍速の馬車旅の四日目。

 あまりの速度で賊や魔物の襲撃もなく、無事に進み続けて――昼になる前に。


 ガラッと変わった澄みきった空気。

 異世界には空気を汚す車も工場もなく、どこも大自然が近くに存在しているというのに、


 ただでさえキレイな空気が、ハッキリと分かるほどにまた一段階、澄んでいたのだ。


「さあ、見えてきましたよ。世界一美しい我らの街が!」

「「「「「おおおおおっ!」」」」」


 と、最後の小さな森を抜けた瞬間。

 急に開けた視界に映ったのは、色とりどりの何とも美しい光景だ。


 例えるなら花の絨毯。――否、広さからしたら巨大な湖に近いか。


 これまでの街と同じく高い城壁に囲まれた王都周辺には、数えきれんばかりの花々が咲き誇っていた。


「なるほど。これが本当の『花の都』……。ナイスフォトスポットで映えの極みだぞ」

「まさに花のスタンピード……といったところであります」


 想像以上だった花一色の光景を見て、窓から顔を出して驚くトオルとマルコ。

 犬猿雉トリオやウーゴは食べかけのフライドポテトを外に落としてしまうほど、王都を囲む花畑に見入っている。


 ここがトオルたちの次なる目的地。女王が住まう神聖なる場所。


 フェイレーン王国の中心に位置する『花の都』――王都フレグラシアである。



 ◆



 王都フレグラシアは世界一美しい街だ。

 そう呼ばれる所以ゆえんは、王都を囲う巨大な花畑の存在が大きい。


 だが、何も城壁の中は大したことがない……というわけでは決してない。


 むしろ王都自体も美しかった。

 至るところに花壇が置かれ、広大な王都中のどこに行こうと、花が見えるような街づくりになっている。


「それではトオルさん。参りましょうか」

「……あ、はい」


 クレメンテに言われて、まだ心ここにあらずなトオルも一歩踏み出す。


 専用の門をくぐって街を進み、馬車を降りたあと。

 ついに王城にたどり着いたトオルは、心臓バクバクでクレメンテの後ろについていく。


 残念ながらマルコたちは外で待機だ。

 今回、入城を許されたのはトオル一人だけである。


 ほかの五人はクレメンテに紹介された宿の方に先に向かっていた。


(まさか王城に入るとは……。異世界転移した時には考えられなかったな)


 ちょっとした現実逃避か、ふと過去を思い出すトオル。


 そうして武器(槍)を門番に預けてから中へ。

 王城は門から庭から何から何まで、上級貴族の伯爵の屋敷さえも比べものにならない。


 まさに国の中心といった感じで、特大規模の王城の敷地内を進んでいくと――。


「やあ、その黒髪黒眼を見るに……君が噂のトオル君かい?」


 中庭を囲むようにあった回廊にて。

 満開となった黄金色の花の木を見上げていた、一人の男がトオルに気づいて近づいてきた。


「(うん?)」


 ……はて誰だろうか? もしや王族か!?

 上等そうな軽鎧を纏っていても、場所が場所なだけにトオルが内心、慌てていると、


「これはこれは。いらっしゃっていたのですか、チェルソ殿」


 話しかけてきた優しそうな銀髪の男に対して。

 クレメンテはそう言うと、コホン、とせき払いをしてからトオルの方に振り返る。


 一見、優しそうでも、一目で分かる強者特有の雰囲気。

 それはトオル史上最大の敵となった、バルトロさえも凌駕していて……。


「このお方はチェルソ=ベルナルディーニ殿。トオルさんが受ける女王様の試練を突破された――『花紋王隊かもんおうたい』のお一人です」

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