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第6話 森の青年

「い、いかん。ついに襲ってきたか空腹の極み……!」


 オークの力をコピーして大きな力を得た。

 また実際にオークを倒してレベルも2上がって7となり、職業パパラッチの微々たる増量の部分でも強くなっている。


 ……だが、ここでついに大問題が。


 時刻はおそらく昼時。

 今日も水しか飲んでいないトオルは、もう何度目かも分からない腹の虫を鳴らしてその場に倒れてしまう。


「本当に力が入らん。そういや転移する前も朝食を取らなかった気が……」


 インスタ用に撮る写真ばかりを気にしての朝食抜き。……まさに後悔先に立たず。


 加えて昨日今日と、何度も行った戦闘の影響もあって。

 オーク級の力を有するトオルでも、空腹のエネルギー不足状態には太刀打ちができなかった。


 ――ザッザッザッ。


「!?」


 さらにここで不運が続く。

 ほかに誰もいない森の中で、仰向けに倒れたトオルの耳に足音が聞こえてきたのだ。


 重さからしてオークではない。ワイルドボアとも違う。

 この人間っぽい足音は……おそらくゴブリンかコボルドだと思われる。


(や、ヤバイ。今の動けない状態じゃ勝てないぞ……)


 腹には強烈な空腹感が、反対の背中には大量の冷や汗が。

 心の片隅で死を覚悟したトオルは、近づいてくる足音にギュッと目を瞑る。


「――だ、大丈夫でありますか? まだ生きているのでありますか?」

「……え?」


 と、ここで聞こえてきたのはまさかの人の声。

 気味の悪い『グギャギャ』でも恐ろしい『グルルゥ』でもない。


 顔だけ起こしたトオルの目に映ったのは――剣を携えた一人の青年だった。



 ◆



「いやー助かりました。ゴブリンだと思って死を覚悟しましたよ」

「こちらこそ一安心であります。てっきりもうダメなのかと思ったでありますよ」


 空腹で倒れたトオル。

 力が入らずに動けない大ピンチを救ったのは、優しく真面目そうな青年だった。


 茶色い目と髪の、そばかすが特徴的な西洋人風な顔。

 格好は皮製の胸当て、籠手、脚甲を纏い、腰には一本の鉄剣を差している。


 そんな青年にもらったのは、蒸かしイモと干し肉だ。

 食べものを恵んでもらったトオルは、野犬のごとき速度でガッつき、胃袋に収めていた。


「では改めて。俺はトオルといいます。森で倒れたところを助けていただき感謝です」

「私はマルコであります。いえいえ、人として当り前のことをしたまででありますよ」


 トオルは握手を求め、マルコがガッチリと応える。


 聞けばマルコは近くにある村の者だった。

 トオルよりも五つ年下の二十歳で、いつものように魔物狩りに出かけたところ、


 たまたまルート上に倒れたトオルを見つけた、というわけだ。


(本当に助かった。やっと人にも会えたし、悪者じゃなくてよかったぞ)


 ザ好青年みたいなマルコの人柄を見て一安心するトオル。

 異世界の森なら賊もいるのでは? と密かに心配していたので、それに関しては杞憂に終わっていた。


「で、マルコさん。この森はどういう場所なんですか? というかどの国の領土ですか?」


 単刀直入にトオルは聞く。

 とりあえず自分を記憶喪失キャラに仕立て上げて、ずっと不明だったことを質問した。


 それに対して、印象通りに丁寧に答えたマルコによると、


 ここは北の森。特別な名前はついていない森だ。

 フェイレーン王国の北に位置していて、インザーギ伯爵という貴族が統治する地だった。


「……ふむふむ、なるほど。ではもう少し聞きたいんですが――」


 一つ一つ聞いて納得してから、トオルはさらに聞く。


 なぜかついていた職業について。

 通勤中にたまに読んでいた小説などでは、十五歳の成人の時に全員が教会でもらうのだが……まさにまったく同じだった。


 また、この世界においては職業が絶対。

 十五歳で人生が決まるといっても過言ではないようだ。


「ちなみに私は剣士であります。ありがちな職業でありますね」

「ほう、そうなんですか。もしかして上には剣豪とか剣聖がありますか?」

「はい、トオル殿の言う通りであります。ほかにも上級職は存在しますが、ほとんどは下級職でありますね」


 背筋をピンとしたまま、礼儀正しく答えるマルコ。


 そんなマルコに「トオルさんの職業は?」と逆に聞かれて、

トオルは一瞬、躊躇うも、正直に「パパラッチです」と答えて――「え?」と困惑されてしまう。


「ま、まあとにかくです! マルコさんの村にお邪魔してもいいですか? ちょっとお金も行き場もなくてですね……」

「もちろんであります。記憶喪失の者を置いていく真似はできないでありますよ。あとトオル殿、年上でありますし私に敬語は必要ないのであります」

「分かった。んじゃ、気楽にタメ口でいくよ」


 職業パパラッチに関しては強制的に流してから。

 こうしてトオルはマルコと一緒に村へと向かうことに。


 ひとまずはこれで一安心だ。

 人がいる村で魔物狩りでも農作業でも手伝いながら、色々とこれからの準備を整えたいところである。


「! ――おっと。ここは俺が。まずは蒸かしイモと干し肉の分を働かせてもらうぞ」


 と、マルコの案内で村へと進み始めてすぐ。


 二人の前に現れたのは、『ブモォオオ!』と雄叫びを上げる一体のオークだ。


「え? ちょっ、トオル殿!? 一人でオークを倒せる者は村にもあまりいな……」


 逃げましょう、とマルコが言い切る前に出ていたトオル。


 すでに『モンスターパパラッチ』の効果でステータスも把握済み。

 今の上書き保存しているオークよりも、どの能力値も少しだけ低かったので、撮影はせずに石の棍棒で殴りかかる。


「ほ、本当にやるのでありますか!? ……え? まさか押している? というかトオル殿、オークと真正面から殴り合っているのでありますよ!?」


 アゴが外れそうなほど叫ぶマルコに、トオルは一瞥もくれずに戦う。


 オークを相手にオークの力で対抗。

 棍棒同士で殴り合い、時に『強打』のスキルも使って正面から戦えば――勝つのはステータスに勝る者だ。


「おっし勝った! マルコ、待たせたな。じゃあ村にいくか」

「いやいや、トオル殿! オークを倒したのにあっさりしすぎなのでありますよ!?」

「え、そうか?」


 まだ驚いた様子のマルコにサラッと返すトオル。


 ……だが、まだまだ終わらない。

 このあとトオルが「レベルが8に上がった」と何気なく言って、マルコは腰を抜かすことに。


「レベル8でオークを倒すって上級職でありますか!?」


 そう絶叫させるほどに、トオルは現地人を驚かせてしまうのだった。

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