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第58話 帰還

「…………、ふう」


 巨大無人島の洞窟内から最後の戦闘音が消えた。

 合計二百人近い海賊たちの死体が転がる中で、トオルは安堵の息を吐く。


 トオル隊vs海賊連合。

 その戦いの結末は、一人の犠牲者も出さなかったトオルたちの完全勝利だ。


「や、やったのであります……」

「完勝だったでしゅね」

「海賊だろうと魔物だろうと、オイラたちは負けないッスよ!」

「だぜ。いやー、それにしても疲れたな」


 マルコや犬猿雉トリオも勝利を確認して武器を下ろす。

 イザベリスでのスタンピードや亡都ザパハラールの弔い合戦に続き、三度目となる大きな戦いを制することができた。


 一方、残る十二人。

 人生で初めての命懸けの戦いを経験した、ウーゴたち元捕らわれの村人たちはというと、


「「「「「…………、」」」」」


 勝ったというのに呆然と立ち尽くす村人たち。


 島育ちゆえに、海賊団の恐怖と力はトオルたちよりも分かっている。

 だからこそ、誰一人の死者も出さずに勝てた事実に驚いていた。


「よくやった、皆。改めて力を貸してくれて助かったぞ」


 そんな仲間をトオルは隊長として労う。

 一人一人の傷やHPの状態もステータスで確認して、特に減っている者にはポーションを渡して飲ませる。


「やったな、皆ぁ! んじゃトオル、自分もそろそろ下ろしてくれぇ!」

「おう。ネロも投網をご苦労だったな!」


 その後、洞窟の上から地味に貢献していた漁師の息子のネロを回収。

 十八人全員の無事を確認したトオルは、戦場となっていた洞窟の岩場に座り込む。


(いや本当、今回ばかりは覚悟していたけど……。思った以上に俺たちは強かったみたいだな)


 正直、余裕はないので心を鬼にして村人全員を戦わせたトオル。


 一人二人の犠牲はやむなし、と心のどこかでは考えていたので……実はこの場の誰よりも隊長としてホッとしていた。


「……とにかく、これですべて解決だ。まさに達成感の極みですな」


 海賊連合によるアドルナート伯爵の殺害計画は未然に防げた。


 座り込んだトオルはそのまま大の字に寝転がる。

 開いた天井から見える青空を見つめて、また安堵の息を吐いた。


「……ありがとうだし、トオル隊長」

「うん?」

「奴隷の運命から逃れられたのはトオル隊長のおかげだし。感謝は無事に帰れたらって言われたけど、もう大丈夫だし?」

「……ああ、そういえばそうだったな。いやいや、こちらこそサンキューだぞ、ウーゴ」


 隣に座ったウ―ゴの言葉に、トオルも寝たまま言葉を返す。


 もしかしたら、あと数人でも少なければ崩れていたのはトオル隊の方だったかもしれない。


 だからトオルも深く感謝していた。

 ウーゴだけでなく、力を貸してくれたほかの十一人の村人たち全員に。


「ひとまず休憩するのであります。何か軽くでも食べるものがあればいいのでありますが……」

「だな。でも今朝で魔法袋の食料は尽きちゃったからな……」

「あ、食料ならあるよぉ、トオルにマルコ! 海賊たちのやつがねぇ!」


 と、ここで残していた海賊船の一つから。

 いつの間にか甲板に登っていたネロが、ひょっこりと顔を出して大声で言う。


 その両手には干し肉などの食料が。


 冒険者パーティーと違って海賊団は大所帯だ。

 そのため食料に関しては、かなりの備蓄分がそれぞれの船にあった。


「おお、じゃあ遠慮なくもらうか」

「戦ったからお腹ペコペコでしゅ」

「まあ戦利品ってやつッスね」

「食料も俺たちに食べてもらう方が嬉しいはずだぜ!」


 ――こうして、戦いの疲れを取るべく、しばらく食事と休憩を取ったあと。


 残していた海賊船の一つに乗り、ネロの操舵でトオルたちは島を出たのだった。



 ◆



 穏やかな波が寄せては返すアルヘイムの海。

 天候にも恵まれた領都の港には、三隻の大型の帆船が停泊している。


「では、そろそろ出港の時間だな」


 端正な顔立ちに力強い日差しを浴びながら、領主であるアドルナート伯爵が言う。


 今日は年に一度の視察の日。

 領内に浮かぶ有人島を巡り、領主として実際に領民たちの生活を自分の目で見て回るのだ。


 その護衛には長男のリカルド(剣聖)や長女のカーティア(聖騎士)の姿も。

 領主軍に加わって護衛につき、三隻の軍艦を率いて島々を巡る予定である。


 ……ところが、いざ出港しようかという時になって――事件は起きた。


「ミケーレ様! 軍団長も! た、たたた大変であります!」


 魔道具の双眼鏡で港から海を監視していた、一人の領主軍の男が叫ぶ。


 原因は遠くに見えた一隻の船。

 港の方に真っすぐと向かってきており、しかも黒字の帆に描かれていたのは、大口を開けた獅子の顔だ。


「海賊船です! しかもバルトロ海賊団であります!」

「何!? バルトロ海賊団……獅子王バルトロだと!?」


 その報告を受けて驚愕する伯爵。


 リカルドやカーティア、領主軍の者たちも突然の事態に驚いている。

 平穏だった港の空気は、一転して緊張感が高まっていく。


「ミケーレ様の船はそのまま待機だ! 軍艦二隻で迎え撃つぞ!」


 領主軍軍団長が即座に指示を出して、現れた海賊の迎撃のために港を出発する。


 だがなぜ一隻で? バルトロは一体、どういうつもりなのか。


 戦力的には領主軍が上だ。いくらアルヘイムで最強の海賊だとしても、かなり分が悪いというのに……と軍艦に乗る全員が訝しんでいたら。


「おーい! 海賊じゃないです! 俺たちは敵じゃないでーす!」

「え!?」


 互いに正面から接近していく海賊船と二隻の軍艦。

 その距離がかなり近づいた頃、バルトロ海賊団の船から声が聞こえてきた。


「俺です、トオルです! ほら黒髪黒眼の! 『揚げものマスター』です!」

「なっ、トオル!? なぜ君がバルトロ海賊団の船に!?」


 船首部分にて大声で手を振るトオル。そのすぐ後ろには犬猿雉トリオの姿もある。


 恐ろしい獅子人族の海賊ではなく、彼らの姿を確認した軍団長は、魔法で迎撃しようとしていた部下たちを慌てて止める。


「お疲れ様です、軍団長! あ、リカルドさんとカーティアも乗っていたんですか!」

「と、トオル! どうしてお前が海賊船に!?」

「おお!? 誰かと思えばトオルではないか! ここ数日、行方不明だったから我は心配していたぞ!?」


 トオルの姿を確認して、軍団長に続いて度肝を抜かれるリカルドとカーティア。

 獅子王バルトロとの殺し合いを覚悟していたところに、まさかの登場人物が現れて……握っていた剣が滑り落ちそうになる。


 ――そうして、穏やかな海の上で船を接近させて止めてから。


 ハシゴを渡して海賊船に乗り込んだ軍団長たちは、トオルたちから詳しく事情を聞いた。


 漁船が故障して海流に流されて、巨大無人島に漂着したこと。

 そこに五つの海賊団が集結していて、伯爵の殺害計画を企てていたこと。

 さらに拉致された新成人の村人たちを発見したこと。


 そして、海賊連合と戦って海賊たちを壊滅させたこと。


「な、何という……」

「我々が知らないところでトンデモないことが起きていたのか……」


 トオルたちの話を聞いて、軍団長も長男のリカルドも唖然としてしまう。


 にわかに信じがたい話ではある。

 だが海賊船に乗せられていた、バルトロら五人の海賊団の船長の死体をもって証明。


 また、底知れぬトオルの力とこれまでの実績を思い返せば……。


「ハッハッハ! さすがは我が夫確定のトオルだ! また大きな功績を挙げたのだな!」


 と、驚きに包まれる領主軍側の中で。

 早くも事態を咀嚼そしゃくして飲み込んだ、金髪&碧眼の美女が一人。


 ご満悦なカーティアはうむ、と頷くと、聖騎士のステータス全開でトオルに抱きついたのだった。

これまでに登場した魔物の強さの並びです。


メガロジョー

リッチ

グリムリーパー

グランドドラゴン

オーガ、クラーケン

シーサーペント、メタルガーゴイル

異名持ちマンティス、デュラハン

異名持ちオーク、ミノタウロス

ケーブナーガ

ジャイアントスパイダー、ブラッドベア、マミー

オーク、トレント

レイス

ギャングウルフ

ワイルドボア、キラーラビット

グール

ゴブリン、コボルド、スケルトン

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