表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/71

第56話 パパラッチvs守護戦士

「……強いな。さすがは最上級職か!」

「そういうテメエもな。よくついてこれてんじゃねえか!」


 洞窟の岩場や停泊した船からは少し離れた場所。

 流れ込む海水が凍って氷の床となった上で、二人は激しい火花を散らせていた。


 リッチ級パパラッチのトオルと、バルトロ海賊団船長のバルトロだ。


 どちらも邪魔が入らないように、そして仲間を巻き込まないように。

 凍りついた海水の上で、最初から全力の戦いが行われている。


 その片方の全身を黄金色の毛に覆われたバルトロ。

 海賊連合で唯一の最上級職である海賊は――身の丈ほどの大剣を振るう。



【名前】 バルトロ

【種族】 獅子人族

【年齢】 四十歳

【職業】 守護戦士


【レベル】 38

【HP】 1190/1190

【MP】 551/551

【攻撃力】 864

【防御力】 1110

【知力】 531

【敏捷】 707


【スキル】

『防具強化』

『光の盾』

『不動三倍撃』



 最上級職の中でも圧倒的な耐久力を誇るステータス。

 現在のトオルよりもレベルは2高く、総合値は100近く上回っている。


 纏う鎧は魔鉄製で、大剣に至ってはミスリル合金製だ。

 装備面でもオール魔鉄製のトオルを凌ぎ、獅子王という異名に恥じぬ実力と装備である。


 ――それらの要素から、トオルが押されると思われたのだが……。


(助かった。職業の相性的には……やっぱり悪くないの極み!)


 今はリッチをコピーして魔道士タイプとなっているトオル。

 最も恐れるべきは攻撃力と敏捷の二つが高い、例えば剣聖のような職業だ。


 その点、バルトロの守護戦士はHPと防御力の特化型。

 特に敏捷は707と、差は約20しか離されていない。


 つまり、充分にやり合える。


 高耐久力のバルトロの攻撃を回避あるいは『魔法障壁』で防ぎつつ、高い知力からの強力な魔法で削っていく、という流れだ。


(チッ。この黒髪の小僧、まさか職業は賢者じゃねえだろうな!?)


 放たれた『氷魔法』の『氷突槍ひょうとつそう』の威力を見て、肝を冷やすバルトロ。


 守護戦士として自分の耐久力には絶対の自信を持っている。

 パッシブ系の『防具強化』の影響もあり、魔鉄の鎧は余計に頑丈でもある。


 ……それでも、直撃を受ければダメージは免れないトオルの魔法。

 特に威力が高い『闇魔法』など、珍しさから初めてみるが……噂通りの凶悪さだ。


「『黒棘くろとげの鞭』!」

「『光の盾』!」


 トオルが放った無数の棘を持つ漆黒の鞭がバルトロを襲う。

 それを大剣ではなく集束させた光の盾で受けて、一発で砕かれてしまうも鞭の方も霧散していく。


「む! お前も盾系のスキルを使えるのか!」

「当然だ。俺を誰だと思ってやがる!」


 時折、槍も交えた猛攻をしかけるトオルと、カウンター主体のバルトロ。


 二人の勝負は一向につく気配はない。

 トオルの方もほぼノータイムで展開できる『魔法障壁』があるため、低い防御力(といっても500超え)を補っている。


 ――その最高戦力同士がぶつかる、氷の戦場以外では……続々と決着はついていた。


 数の利を覆した村人たちによって、多くの海賊たちが血を流して倒れている。


「テメエら一体、何者だ!? これだけの人数差で負けるわけが……!」

「何者かって? そりゃパパラッチとたくさんの村人だ!」

「あァ!?」


 間合いがあいた瞬間、周囲を確認したバルトロとトオルが言葉を交わす。


 バルトロの方は当然、かなりの衝撃を受けている。

 一方のトオルは当然だと言わんばかりに、笑みを浮かべて力強く頷いた。


「お前らは俺たちに時間を与えすぎた。というかこの際、言わせてもらうけど! モフモフに悪党がいるなんて俺は認めないぞ!」

「チィッ!」


 勢いに乗ったトオルは威力の高い『闇魔法』を連続で発動。

 守護戦士の固い守りを崩すべく、すべて違う魔法を駆使する念の入れようだ。


 それを自慢の防御力や『光の盾』でバルトロが防ぐ。

 ほかの最上級職ならば、これだけリッチ級の『闇魔法』を受ければ厳しいが――守護戦士のバルトロは崩れない。


(焦る必要はねえ。俺もHPを削られちゃいるが、黒髪の小僧のMP切れの方が早え!)


 仲間が倒されていることには動揺するも、バルトロはすぐに冷静さを取り戻す。


 そして狙う。MP切れももちろんだが、自身の最高火力の一撃を。

 魔法と斬撃の激しい応酬の中で、流れを読んで種を撒き――。


「『不動三倍撃』!」

「ッぐぉ!?」


『闇魔法』を耐えてのカウンターが一閃。


 自分は一歩も動かずにトオルを引き込んでから、通常威力の三倍となるカウンタースキルを発動したのだった。



 ◆



 バルトロの渾身の一撃を受けてしまったトオル。

『魔法障壁』はギリギリで張れたものの、一枚では足りずに突破されてしまい、


 ミスリル合金の大剣の一太刀を、胸当ての上から叩き込まれてしまったのだ。


(くっ、ミスった! 不用意に攻撃的になりすぎたか!)


 ここでトオルはたまらず距離をあける。

 魔鉄の胸当ての上からでもダメージは入り、ステータスを確認するとHPは大きく削られていた。


「ハッ、甘えな。最上級職をナメるんじゃねえよ!」

「!」


 一転、今度はバルトロが攻撃的に仕掛けていく。


 ここが勝負時だと判断。激しい踏み込みから足元の凍った海水に亀裂を入れて、苛烈な大剣の斬撃を見舞う。


「ッ……!」


 対するトオルは『魔法障壁』を張りつつ魔法で反撃していたが、ついにその魔法の反撃の手が止む。


 代わりに増えたのが槍での攻撃だ。

 また肝心の『魔法障壁』も使わなくなって……防御ではなく回避主体となっていた。


「ようやくMP切れか! 派手に撃ちまくりやがって――遊びは終わりだ、黒髪の小僧!」


 勝負は決まった。魔法を使えない魔道士タイプなど恐れるに足らず。


 トオルは腰に魔法袋を提げているも、そこからMPポーションを出させるほどバルトロは甘くない。


「あばよ。すぐにテメエの仲間もあの世に送ってやるよ!」


 言って、捕食者の笑みを浮かべるバルトロ。

 疲労から動きが鈍ったトオルに向かって、勢いよく上段から大剣を振り下ろす。


 ――ガキィイイン!


 直後、甲高い金属音が洞窟内に響く。

 それはトオルの魔鉄の胸当てに直撃……したわけではなかった。


「な!?」


 その数十センチ手前。

 張られた『魔法障壁』三枚に阻まれて、大剣は完全に振り下ろされずに止まっていた。


 直後、障壁が砕け散る音が響くと同時。

 いつの間にか槍を手放していたトオルは、魔道士タイプにもかかわらず、自ら間合いを詰めていく。


「『黄泉よみの手』」


 そう呟いたトオルの右手。

 ドス黒すぎるオーラを纏った右の貫手が――バルトロの胸にズプッ、と突き刺さる。


 阻むはずのスキルで強化された魔鉄の胸当ても関係なし。

 腕の長さ分の射程しかないその『闇魔法』は、相手の防具も防御力も無視して突き刺さったのだ。


「が、ハ……!?」


 当たりさえすれば大ダメージ必至の凶悪な一撃。

 トオルのMPが切れたと思い込んでいたバルトロは、自分の防御に絶対の自信があったからこそ、喰らってしまう。


 ――トオルの作戦勝ちだ。


 わざとリスクを冒して『魔法障壁』さえも一時封印。

 少しの敏捷の差なら問題ないと判断し、MP切れを装ってこの一撃を狙っていた。


「まあ実際、MPは尽きかけていたけどな。……リッチには『常時MP小回復』のスキルがあるんだよ!」


 黒から血の赤に染まった腕を引き抜き、しっかりと距離を取るトオル。


 攻撃は決まった。相手は明らかに大ダメージを負っている。


 それでもさすがは最上級職、いや獅子王バルトロか。

 ギリギリで反応して急所の心臓をズラして、貫かれたのはみぞおち付近だった。


「く……ソがァ! 小癪こしゃくなマネをしやがって……!」


 鋭利な牙が生えた口から、バルトロがドボドボと血を吐く。

 怒りから獅子のたてがみが広がり、重傷を負った状態でもトオルを威圧する。


 だが、今度こそ勝負は決まった。

 呼吸さえ苦しいバルトロに、徐々にMPが回復するトオルに勝つ術はない――そう思われた時だ。


 ――ビィイイイイ――!


「……は?」


 突然、洞窟内に響き渡った不協和音。


 それをやったのはほかでもないバルトロだ。

 氷の戦場から逃げるわけでも攻めるわけでもなく、なぜか急に懐から取り出して、


 勢いよく吹き鳴らした――謎の笛の音だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ