第54話 トオル隊vs海賊連合
「な、何だ!? どこの誰だよオイ……!」
洞窟内にて、作戦の準備に動いていた海賊団を狙う攻撃。
それは洞窟に差す日の光の入口――大きく開いた天井から降り注いできた。
その突然の襲撃に大混乱に陥る海賊たち。
自分たちが伯爵を襲撃しようとする前に、逆に何者かの襲撃を受けてしまったのだ。
「オラ、ボケッとしてんな! さっさと武器を取って迎え撃て――ッああ!? 俺たちの船が!?」
頭上から降り注ぎ、海賊たちを狙っていた水や炎や岩の攻撃の中。
それ以上に大きく強力な氷の槍が降って来たと思いきや、五隻ある海賊船の一つに直撃した。
――残り四隻。
だが海賊船以上に減らされているのは、当然のごとく海賊たち本人だ。
頭上から狙い撃たれて息絶える下級職の下っ端海賊。
岩陰に隠れて攻撃から逃れようとするも、上と下の位置的関係から完全には逃れられない。
そうして、早くも二十人近い海賊が洞窟内に倒れたところで、
「よし今だ! 一気に攻め込むぞ、皆!」
「「「「「おおおおおお!」」」」」
開いた天井から飛び下りてくる襲撃者、改めトオル率いるトオル隊。
十五メートルの高さから着地しても、高いステータスから誰一人として足を痛める心配もない。
「な!? コイツらはまさか……!」
降り立った十七人の姿を見て、グラート海賊団の一人がすぐに気づく。
半分以上が奴隷として売る予定だった村人だ。
それを知って頭が混乱する中で、ザン! とその村人の一人に首を斬られた。
海賊連合の人数は確実に減っている。……それでも人数差はまだ圧倒的な差だ。
事前にグラート海賊団を半壊させていても、約百七十人、つまりトオル隊の十倍ほどいる。
「くッ!? けどコイツら……! 何か強くねえか!?」
数は負ける一方で、逆に質はトオル隊の方が上だ。
魔物の数も種族も多かった魔物天国(?)なこの巨大無人島で、三日の準備期間があれば……。
「いけいけぇ!」
「引くなよ! 押せ押せ!」
「よくも僕たちを攫ってくれたな!」
下級職の下っ端海賊など相手にならない。
村人十一人(とマルコ)で三人一組となり、その下っ端を中心に相手をして数を減らす作戦だ。
レベルは全員が12以上。剣士のマルコを除けば、最弱でもジャイアントスパイダー級の者が二人。
そこに村人分のステータスも加わるため、下級職の平均レベルは大きく超えている。
「! 強いのが来たわよ!」
「なら挟み撃ちだ!」
上級職の幹部が相手の場合は、二人で対応するなど臨機応変に。
一対二ならば剣技で圧倒的に劣ろうとも、ステータスでカバーして互角以上に戦える。
「そーりゃぁッ!」
そんなトオル隊に加勢するのはネロだ。
非戦闘員の漁師であるため、洞窟内には下りずに上から邪魔を。
蔦を組んで作った即席の網を、漁師の固有スキル『投網』により、正確に海賊たちに投げ落としている。
――その一番の乱戦となっている戦場から少し離れた場所。
五人いる海賊団船長のうち、一人の船長と一対一で向かい合う者がいた。
「どういう風の吹きまわしだよ? さんざ逃げたと思えば、わざわざ俺の前に戻ってくるとはな」
「…………、」
ウーゴだ。
強烈な目の下のクマが特徴的な、捕らわれた村人たちの中で最も強い瞳をしていた少年である。
そのウーゴは見ての通り単独行動をしていた。
トオルや犬猿雉トリオと同じように、作戦に従って一人で動き――グラート海賊団船長のグラートの前に立ちはだかっている。
「オイ、無視してんじゃねえよ。なぜテメエがここに――」
「ベラベラとうるせえし。……今の状況を見れば普通、分かるし。お前ら海賊を倒しに来たに決まってるし!」
怒りを乗せて叫ぶウーゴ。
魔鉄剣と鋼鉄剣を一本づつ握り、得意な二刀流の構えを取る。
そして、グラート海賊団から奪ったそれらの剣で――船長グラートに斬りかかった。
◆
ぶつかり合う三つの刃。
力と力の小細工なしの斬撃が、戦場となった洞窟内に響き渡る。
「上等だオラァ! 俺の部下を消したのもテメエらだな? その生意気な首をブッた斬ってやるよ!」
迎え撃つ船長のグラート。
海賊団を率いる屈強な長髪の男は、もうウーゴを商品とは見ずに敵として抹殺しようとする。
【名前】 グラート
【種族】 人間
【年齢】 三十八歳
【職業】 剣豪
【レベル】 32
【HP】 489/489
【MP】 252/252
【攻撃力】 515
【防御力】 440
【知力】 211
【敏捷】 484
【スキル】
『斬剛剣』
『反柔剣』
『加速歩法』
職業は上級職の剣豪。レベルも32と高い。
バランスのいいステータスと秀でた剣技は、接近戦においてこそ真価を発揮する。
一方、その殺意に満ちた剣を受けるウーゴは間合いをあけない。
高いステータスに支えられて、あえて接近戦で真正面から挑む。
【名前】 ウーゴ
【種族】 人間
【年齢】 十五歳
【職業】 村人
【レベル】 16
【HP】 587/587
【MP】 382/382
【攻撃力】 500
【防御力】 619
【知力】 329
【敏捷】 402
【スキル】
『魔鉄爪』
『直接物理半減』
レベルはグラートの半分にしか満たない。スキルも一つ少ない。
にもかかわらず押せるのは、さらに高いステータス以外にほかならない。
ウーゴにコピーされたのはメタルガーゴイルだ。
まさかのシーサーペントと同格の力を持つ、島で見つけた地下洞窟の主である。
「うおおおお!」
「なッ!? ただの村人が……マジでどうなってやがる!?」
つまり、コピー元の強さだけでいえば、フィリッポとガスパロの二人と同じ。
上級職の平均レベルは余裕で超えたその力で、ゴリゴリと剣豪のグラートを押していく。
(おかしいだろが! たしかに鑑定の水晶で村人と確認したはずだぞ!?)
万が一にも押されるなどとは思わなかったグラートは大混乱だ。
威力重視の『斬剛剣』や、カウンター系の『反柔剣』。
これら固有スキルを使わなければ、とてもじゃないが斬り合うことなどできない。
――ガキィン。
「んな!?」
敏捷と剣技で攻撃は入るも、響くのは鈍い金属音。
両者の攻撃力と防御力の100以上ある差に加えて、パッシブ系の『直接物理半減』で、ウーゴにはまったくダメージが入っていない。
「お前にとって俺は天敵だし。剣聖みてえに斬撃は飛ばせないしだし?」
「チッ! このクソガキが……!」
怒りと焦りで冷静さを失ったグラート。
すでに自分の海賊団だけが半壊してしまっている。
さらにはほかの戦いの余波で、船まで損傷するのを確認してしまい……余計にその剣筋がブレる。
「『魔鉄爪』だし!」
そんなグラートに対して、二本の剣を用いた攻撃系スキルを見舞う。
敏捷の差から同じ魔鉄剣に阻まれるも、何度も何度も超至近距離から猛攻を仕掛けていけば――。
「ぐァアアアア!?」
ついに決まったウーゴの一撃。
誰を逃がしたとしてもコイツだけは逃がさないと、気迫のこもった斬撃が入った。
メタルガーゴイル級となった村人ウーゴと、剣豪グラート。
二人の戦いはどちらかが倒れるまで続いていく。
これまでに登場した魔物の強さの並びです。
リッチ
グリムリーパー
グランドドラゴン
オーガ、クラーケン
シーサーペント、メタルガーゴイル
異名持ちマンティス、デュラハン
異名持ちオーク、ミノタウロス
ケーブナーガ
ジャイアントスパイダー、ブラッドベア、マミー
オーク、トレント
レイス
ギャングウルフ
ワイルドボア、キラーラビット
グール
ゴブリン、コボルド、スケルトン




