第53話 準備完了
「クソ面倒かけやがって! やっと見つけたぞクソガキども!」
「……うわ、ついに見つかったか!」
シーサーペントとクラーケンのほぼ同時コピー。
それを成功させたのも束の間、また別の想定外の登場人物が現れた。
見た目と発言の内容から……どこからどう見ても海賊だ。
「さあ戻ってもらうぞ! テメエらは商品だが、多少ならクソ痛めつけてもいいと船長からは言われてるんでな!」
怒り心頭でも不敵に笑う海賊。
魔物が跋扈する巨大な島を捜索させられた不満や、仲間を殺された恨みで痛めつける気満々だ。
……しかも一人ではない。
森の中から岩場地帯にゾロゾロと現れて、計四人の海賊がトオルたちに接近する。
「思ったより早かったな。運がよければ決行日まで逃げられると思ったんだけど……」
「あァ? テメエはどこの誰――ってそうか。テメエらが島に入ったクソネズミか!」
捕らえた十二人の村人と一緒にいた六人。
そのトオルたちを見て、誰に説明を受けずとも海賊たちは理解した。
「おい、お前ら。商品の方はほどほどで止めとけよ。……その代わり、六人のクソネズミどもは盛大に殺っちまうぞ!」
「「「おう!」」」
四人のうち、唯一の上級職である幹部が指示を出す。
それに呼応するように叫んだ下っ端三人は、剣の切っ先をトオルたちに向けた。
「お前らやっぱり海賊か……。ちなみにどの海賊団だ? 五ついただろ」
一方、殺意を向けられたトオルは至って冷静だ。
ウーゴたちから詳しい話は聞いていたので、目の前の相手は拉致をした海賊団だろう。
ただ名前は分からないので、情報収集も兼ねて聞いてみたところ、
「俺たちはグラート海賊団! アルヘイムの海の暴走船たァ俺たちのことよ!」
トオルの問いに、剣を構えたまま胸を張って答える幹部。
……もしやこの感じ(脳筋)だと色々と答えてくれるかも?
そう思ってトオルが聞けば、グラート海賊団の幹部は自慢げにすべての問いに答えた。
グラート海賊団の船員の数や、上級職である幹部の割合。さらに幹部一人一人の職業についてまで。
「なるほど。じゃあほかの四つの海賊団は――」
「知るか! 別にアイツらは仲間じゃねえんだよクソが! 今回限りのクソ縁だ!」
「あ、そう。分かったよ」
一喝されて、トオルの情報収集はここで終了。
とはいえ充分だ。
五つのうち一つの海賊団の戦力が丸裸になったのだから。
「それに、事前に数も減らせるしな!」
「何ッ!?」
直後、トオルが動いた。
まずは下級職の下っ端たちに氷の範囲魔法を叩き込む。
高い知力に耐え切れず、三人は一撃で全身が凍りついて絶命した。
「次はお前だ」
「ッ! く、クソが! 何者だテメエは!?」
それが幹部の男の最期の言葉となった。
相手は一応、上級職だ。
なので高い威力を誇る『闇魔法』の中でも、威力抜群の『黒死牟槍』を発動した結果。
あまりの膨大な魔力を前に、恐怖で足が竦んだ幹部。
巨大な黒い槍を回避できずに直撃して――原形すら留めない死体へと変わった。
「あれ? 幹部っていうから……オーバーキルの極みじゃないか」
「でありますね。というか、トオル殿が出るほどの相手ではなかったのであります」
「つ、強えし……。やっぱりトオル隊長は別格だし」
「当たり前でしゅよ、ウ―ゴ。何せトオル隊長は最強職のパパラッチでしゅから!」
本番当日を迎える前に、海賊団の戦力を削ることに成功したトオル。
しっかり海賊たちの装備を剥いでから、用が済んだ海を離れて再び島の内側へと入っていく。
◆
その後、トオルたちは村人強化作戦を続行。
グラート海賊団のさらなる追手に会うこともなく、強化ペースは落ちるも一人一人、一つ一つ確実にコピーさせていった。
――そして、二日目の夕暮れ時に差しかかった頃。
「これはまた……。まるで入れと言わんばかりだな」
「きっと地上とは違う魔物がいるはずであります」
見つけたのは地下洞窟だ。
十八人全員が横一列になっても通れるほどの、大きな入口が地上に存在していた。
「まだ地上の方にも魔物はいるだろうけど……思い切っていってみるか」
中は真っ暗なので各自、松明を用意する。
トオルを先頭にいざ地下洞窟に入り、まだ見ぬ魔物を探し求めて奥へと入っていく。
――――――…………。
結局、トオルたちは丸一日、この地下洞窟に籠もったまま出てこなかった。
想像以上に内部は巨大で、かなりの数の魔物が生息していたらしいが……。
魔物の死体の山が築かれた地下洞窟は、その後、一年ほどは島の魔物が寄りつかなくなったという。
そうして、地上に戻ったトオルたちはまた一日、島で魔物を探しまわって――運命の日を迎えるのだった。
◆
「――できる限りの準備はやった。あとは人事を尽くし天命を待つって心境だな」
ついに迎えた決戦の日。
今日の昼には海賊たちは島を出て、大海原でアドルナート伯爵の乗る船を襲撃してしまうだろう。
その前にトオルたちがやるべきことは一つ。
殺害計画を阻止するために、海賊たちをこの無人島で壊滅させることだ。
「「「「「…………、」」」」」
隊長であるトオルと同じく、ほか十七人も理解している。
自分たちがやらなければ、アドルナート領は大混乱に陥り、締めつけていた海賊たちを勢いづかせてしまうと。
――だから必ず止めてみせる。
怯えるだけだった十二人の村人は、何も戦闘力だけの話ではない。
この戦闘尽くしの三日間で、顔つきまで戦う者のそれに変わっていた。
「相手は五つの海賊団。うち一つはすでに被害が甚大でありますね」
と、ここで参謀のマルコが状況を整理する。
発見した地下洞窟が出たあと、ちょくちょくと遭遇したグラート海賊団の海賊たち。
彼らはその都度、ウーゴら元捕らわれの村人たちが返り討ちに。
船長こそ出会わずに潰せなかったが、五つのうちグラート海賊団だけは、ほぼ半壊状態となっていた。
当然、その際に得た海賊の装備はウーゴたちが使用。
最終的に十二人全員が武装することに成功している。
「……ありがとうだし。トオル隊長」
「うん? 急にどうしたよ、ウーゴ」
天井が開けて光が差し込む、湾のような形になっている洞窟を見下ろしながら。
停泊する海賊船に視線を向けたまま、そう感謝の言葉を口にしたウーゴに、隣のトオルは驚いて視線を向けた。
「正直、村人の俺が本当に戦う力を得られるとは思ってなかったし。……抜け出すチャンスをくれてありがとうだし」
「何だ、そんなことか。別に大したことじゃないし……それにだ、ウーゴ」
トオルはウーゴの頭にポン、と手を置く。
十歳下の成人したばかりの村人に、髪をわしゃわしゃしながら兄貴分で言う。
「まだ感謝するのは早い。無事に皆で帰れたら、その時はいくらでも感謝されてやるぞ」
「……ああ、たしかにだし」
現時点では万全の準備をしただけ。
ここからが本番であり、その結果がトオルたちの運命を決めるのだ。
「さあ、いくぞ。平和な海を乱す海賊どもを討ち滅ぼせ!」
相手が海賊だからか、少し荒っぽく言うトオル。
――こうして、巨大無人島でのトオル隊vs海賊連合の戦いが始まった。




