第52話 魔物釣り
「よし、コピーできたな。これでまた一つ強化っと!」
来る海賊との戦いのための強化作戦二日目。
数多くの魔物が生息する巨大な無人島を進み、トオルの手でパパラッチしまくった結果。
まだ猶予は二日ある中で、トオルたちの戦力は大幅に強化されていた。
……が、しかし。万事すべてが上手くいっているというわけでもない。
「ウーゴたちの方は順調の極みだけど……うーむ」
「なかなかドゥッチョたちのコピー元がいないでありますね」
ゴブリンから始まったウーゴたちは順調に強くなっている。
相変わらず強さにバラつきはあるも、現時点で全員がオーク級には至っていた。
一方で犬猿雉トリオは現状維持だ。
ドゥッチョはシーサーペント級、フィリッポとガスパロは異名持ちマンティス級のままである。
「島にはいないみたいだねぇ。となると釣るしかないっぽいかぁ」
「そうだな。釣るしかない……って、釣る?」
と、ここで同行する漁師のネロが口を開いた。
……釣るって魔物を釣るってことか?
驚いたトオルが聞き返すと、ネロは「そうだよぉ」と首を縦に振る。
「まあ、ちょっとコツはいるけどねぇ。トオル、ちょっと自分を信じて一回、海の方に出てもらえない?」
「お、おお。いいけど……」
陸にいないのなら海に。
そのネロの提案に対して、トオルはすぐに受け入れた。
釣れるかどうかは別にして、釣り竿自体は問題ない。
持っていると邪魔なので、漂着した時にネロのものを魔法袋に入れておいてある。
――こうして、島の内側ではなく外側を目指すことになったトオルたち。
同じく魔法袋に収納していたフライドポテトや干し肉を分け合いながら、休憩を挟みつつ険しい島を進んでいく。
「じゃあ早速、やってみるよ。ここは漁師である自分の仕事だねぇ」
海岸についてすぐ、ネロは釣り竿を手に取った。
そして足場の悪い岩場地帯で、波飛沫にも負けずに竿を振って十メートル以内に飛ばす。
この島の海は近くからでも急激に深くなっている。
だからこそネロは魔物が釣れると断言。針にくくりつけたオークの肉を、海面付近で巧みに動かす。
地味に漁師にしかできない芸当だ。
固有スキルの一つの『釣り』により、魔物を誘う動きを繰り返していると――。
「「「「「おおおおおッ!?」」」」」
ザパァアアン! と、派手な波飛沫を立てて――海面から一体の魔物が顔を出した。
◆
『ジャララァアア!』
現れたのはお久しぶりのシーサーペントだ。
餌の下から喰らいつき、勢いのままに飛び出て巨体の三分の一が露わになっている。
「でかした、ネロ! あとは任せろ!」
続いてトオルの出番だ。
海に戻る前に急いで撮影する……のではなく、『氷魔法』の一つを発動。
狙いは本体周りの海面だ。
知力の高さからの高威力の魔法で凍らせて、シーサーペントの動きを封じる。
――パシャパシャパシャ!
ここでやっと『村人フィルム』で撮影を行う。
と同時に凍った海を力づくで抜けたシーサーペントが、怒り狂って岩場地帯にいるトオルを狙ってきた。
「フィリッポ。やってみてくれ」
「了解ッス! トオル隊長!」
その相手をするのはフィリッポだ。
ドゥッチョに続いてシーサーペント級となったフィリッポは、猿な顔に満面の笑みを浮かべてスキル『蛇睨み』を使う。
『ジャラ、ラァア……!』
『蛇睨み』はステータスが自分よりも下の相手のみ動きを止められる。
村人分が上乗せされているフィリッポは、格上としてシーサーペントの動きをまず止めた。
「『流水銃』!」
次にもう一つの攻撃系スキルを放つ。
右手から放たれた強力な水のレーザーは、シーサーペントの長くて太い体を撃ち抜く。
「あ、急所を外したッス! ならもう一発いくッスよ!」
さらに続けて二発目を発動。
睨み効果が解けて放たれた敵の『流水銃』とぶつかり合うも、攻撃力の差からフィリッポが押し勝った。
最終的には四発目の『流水銃』で討伐に成功。
脳天を撃ち抜かれたシーサーペントは、死体となって海の底に沈んでいく。
「よくやった。じゃあ次はガスパ――」
「はいはい! トオル隊長! あとネロも! 次は俺も頼むぜ!」
「おう。じゃあネロ、悪いけどまた頼めるか?」
「もちろんさ。釣るだけなら何度でもやるよぉ」
そしてまたネロの出番となる。
シーサーペントは共食いをする魔物だ。
その血が海に流れている今なら、さっきよりも早く釣れるだろう。
「来るよ来るよ――ほいぃ! 二体目だよぉ!」
「おお! 本当だ。やっぱりスゴイな!」
ネロの自信通りに、あっという間に釣れたシーサーペント。
トオルは漁師としてのネロの腕を褒めてから、さっきと同じく海面を凍らせてから撮影をした。
「よっしゃ! これで俺も二人に並んだぜ!」
叫び、自分もシーサーペントを倒そうと意気込むガスパロ。
まずは『蛇睨み』で動きを止めるべく、いざスキルを発動しようとした瞬間。
「「「「「え!?」」」」」
怒って接近してくるシーサーペント、の下から。
突然、海面が盛り上がったと思ったら、海の中から謎の白い物体が現れた。
『ジャララァア!?』
それは絡みつくようにシーサーペントの巨体を掴む。
逃れようともがくシーサーペントだが、力が強いのかまったく脱出できる気配がない。
「ちょ、まさかこの足……!」
急な事態に度肝を抜かれるトオルたち。
その太くて長い複数の白い足に続いて、海中から本体を現したのは――クラーケンだった。
◆
「ただのデカイ生物……じゃないな! コイツも魔物か!」
巨大なイカのクラーケン。
元の世界でも伝説にはある生物は、剣と魔法の異世界では魔物だった。
――なぜそう断言できるのか。
理由はただ一つ、通常の動物の場合は見えないステータスが、パパラッチのトオルにはハッキリと見えたからだ。
【名前】 クラーケン
【種族】 クラーケン族
【HP】 590/590
【MP】 393/393
【攻撃力】 533
【防御力】 522
【知力】 345
【敏捷】 485
【スキル】
『黒煙墨』
『HP吸収』
襲うだけあってステータスはシーサーペントよりも上。
村人分の上乗せなしに、単体でほぼオーガに匹敵するほどの強さを持っている。
『グゥウウウウ――』
クラーケンは奇妙な声を上げて、シーサーペントを海へと引きずり込もうとする。
……だが当然、こんな幸運をトオルが逃すはずがない。
再び『氷魔法』で海面を凍らせて、かつシーサーペントの抵抗もあったことで、
《発見した魔物をどちらで撮影しますか?》
「『村人フィルム』で」
《撮影した魔物をどの村人に上書き保存しますか?》
「ドゥッチョだ」
無事に撮影・保存の時間が稼げたトオル。
本当ならそのまま倒して経験値を得たいところだったが……。
クラーケンはトオルたちに見向きもせずに、シーサーペントを海中に引きずり込んでしまった。
「……まあ、ラッキーだったからいいか」
「でしゅね。充分に儲けものだったでしゅ」
――というわけで、想定外ながらもガスパロに続いてドゥッチョまで強化に成功。
ただその状況を見たフィリッポとガスパロが、
「ま、またッスか! ドゥッチョだけ頭一つ抜け出たッス!」
「だぜ! 追いついたそばからかよ!」
とブーブーと文句を言うも、とにかく全体の戦力的には上がって万々歳である。
このクラーケンに関しては本当に運がよかっただけ。
だからまた狙うのは運要素が強すぎると、ネロの助言で二体目を求めることはしなかった。
「よしよし。結果的に三人とも強化できたな」
こうして、ひとまず海の魔物での強化は済んだ――とトオルが満足していた時。
「やっと見つけたぞ! クソガキどもがァアア!」
岩場地帯に響く波の音をかき消すように、その獰猛な声は聞こえてきた。
これまでに登場した魔物の強さの並びです。
リッチ
グリムリーパー
グランドドラゴン
オーガ、クラーケン
異名持ちマンティス、デュラハン
異名持ちオーク、ミノタウロス
ケーブナーガ
ジャイアントスパイダー、ブラッドベア、マミー
オーク、トレント
レイス
ギャングウルフ
ワイルドボア、キラーラビット
グール
ゴブリン、コボルド、スケルトン




