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第50話 囚われの新成人

「俺たちはもう……終わりだし」


 狭くて薄暗い空間の中、一人の少年が力なく呟いた。


 手足は縄で固く縛られている。

 肌が密着した状態でほかにも十一人の少年少女がこの場にいるも、その呟きに答える者は誰もいない。


 すすり泣く者。絶望する者。うつろな顔で何かをブツブツと言い続ける者。


 それぞれの反応を示す十二人の少年少女たち。

 十五の新成人を迎えて、神から職業を与えられたばかりの彼らは――これから過酷な運命をたどることになる。


 海の無法者、海賊たちによる拉致。

 その被害を受けた島生まれの彼らは、外国に売り飛ばされて奴隷となるのだ。


「誰か助けて……。帰りたいよう……」


 自らの運命は皆がもう知っている。

 一人の少女が目を赤くして呟いたが、それに答えたのはさっき呟いた少年だった。


「助けて? だからもう無理だし。……んな酔狂な人がこの世界にいるわけねえし」


 目の前にすれば別の話だろうが、領主軍がわざわざ消えた村人を探すことはない。


 たった十二人の新成人だ。しかも一人一人が別々の島から拉致されている。

 まして職業も何の取りえもない村人を、血眼になって探すほど領主軍もヒマではなかった。


 だから助ける者などいない――そう改めて絶望を突きつけられていた時だった。


「「「「!?」」」」


 彼らが閉じ込められている物置小屋に近づく足音。

 その足音が物置小屋の前で止まった直後、ガタガタァン! と。


 突然、カギが掛かっているはずの扉を、誰かが強引に開け放ったのだ。


「「「「「…………、」」」」」


 その状況に硬直してしまう十二人。

 おそらくは海賊であり、ついに自分たちを船に乗せるために迎えに来た……と思いきや、


「おわっ!? 何だ、どういう状況だよ! 大人数がすし詰めになっているじゃないか!?」


 彼らの目の映ったのは、自分たちを拉致した恐ろしい海賊、とはどうにも違う男。


 珍しい黒髪黒眼と顔の大きな傷が特徴的な、槍を手にした優しそうな男だった。



 ◆



「……な、なるほど。そりゃ不運の極みだったな……」

「状況的にも合点がいくのであります」


 意味深な木造の物置小屋で十二人の少年少女を見つけた。


 そして、見つけたトオルたちも見つけられた彼らも驚いたあと、

 なぜこうなったのかという説明を涙ながらに受けて、トオルとマルコはうんうんと頷く。


 アルヘイムの海の島々に住む子供たち。いや新成人。

 まだ顔に幼さの残る彼らを見て、地元民のネロだけでなく、トオルたちも海賊の恐ろしさを知ることに。


 トオルはてっきり、海賊というのは金銀財宝だけを狙うものだと思っていた。


 それがまさか人身売買にも手を染めるとは……想像以上の悪党だ。


「助けてお兄さん! 私たち奴隷なんて嫌だわ!」

「知らない外国に売られるなんて耐えられないよ! 頼む、助けてください!」


 と、小屋から解放したトオルたちに対して。


 少年少女たちは必死の声と表情で、助けてほしいと懇願する。


 結局、まだ閉じ込められていた場所から出ただけだ。

 縛られていた縄もトオルたちにはすべて切ってもらったが……。


 海賊がいるこの島にいては、奴隷になる運命自体は変わらない。


「ああ、分かっている。このまま放置なんてしないさ」

「ほ、本当ですか!?」

「おう。それは約束する。……けど、残念ながら俺たちは勇者じゃない。もちろん無敵の存在でもない」


 彼らを落ちつかせるために、ゆっくりとした口調で話すトオル。


 さらにトオルは現在の状況を、対等な立場として彼らに正直に言う。


 一つの海賊団ならまだしも、五つの海賊団を相手にするのは厳しい、と。

 脱出するために船を奪うにしても、島でも海に出てからもまず戦闘は避けられない、と。


「「「…………、」」」


 そんなトオルの言葉を聞いて、何人かが顔をうつむかせてしまう。


 助けてはほしい。この島からも脱出したい。

 だがもし、海賊との戦闘に巻き込まれてしまえば……彼らに待っているのは死だ。


「そういや皆の職業は何だ? 成人したばかりって聞いたけど」

「はい。でも全員、戦いには何の役にも立たねえ村人だし。……ほかのヤツらの反応を見ての通り、使い物にはならねえと思うし」


 代表して答えたのは、目の下のクマが酷い少年だ。


 口では弱気なことを言いつつも、十二人の中では最も瞳に強さがある。

 その少年の返答を聞いて、トオルは優しく微笑むと頭にポン、と手を当てた。


「いや、そんなことはない。少年、名前は?」

「え? 俺はウーゴだし……」

「そうか、ウーゴか。……安心しろ。俺の前では村人は決して最弱なんかじゃない」


 トオルはウーゴを含む十二人全員の顔を見る。

 一人一人の顔をしっかりと確認すると、静かにゆっくりと頷いた。


「皆、聞いてくれ。さっきも言ったけど、今の俺たちじゃ完全に助けてあげることはできない」


 また厳しい現実を告げるトオル。

 続いて犬猿雉トリオの顔を見てから、視線を少年少女たちに戻す。


「けど、村人だからこそ、俺は皆に力を与えられる」

「ち、力?」

「そうだ。戦う力だ」


 戸惑うウーゴに頷き、トオルはさらに続ける。


「俺たちに皆の力を貸してくれ。海賊たちの陰謀を止めるためにも、そして皆が再び自由になるためにも」


 そこで頭を下げたトオル。

 ここまでの言葉とその行動を見て、少年少女たちは驚いてザワザワとし始めた。


「――あァ!? オイオイ……こりゃどうなってやがんだよ!」


 と、次に声を上げたのは――捕らわれていた彼らではない。


 海賊だ。おそらく様子でも見に来たのだろう。

 商品である新成人たちが小屋から出ている状況を見て、獰猛な声を上げてすぐに腰の剣を鞘から抜いた。


「……ったく、間の悪いヤツだな。ドゥッチョ」

「はい、お任せでしゅ!」


 その海賊の姿を確認した直後。

 ヒュン! と目にも止まらぬ速さで動いたドゥッチョは、いつの間にか抜いていた魔鉄剣を横薙ぎに振るう。


「あ?」


 男はただの下っ端の海賊だった。

 ドゥッチョの動きに反応できなかった男は、首を深く斬られて絶命する。


「「「「「!?」」」」」


 あまりに一瞬すぎた決着。

 それを見せつけられた少年少女たちは、また驚きのあまりザワザワとしてしまう。


「つ、強えし……。やっぱり戦闘職は村人なんかより……」

「いや違うでしゅよ。僕も歴とした村人でしゅ」

「は、はあ!? ふ、ふざけろし!?」


 無意識に漏れたウーゴの声に反応したドゥッチョに、そのウーゴが間髪入れずに驚愕する。


 今の強さで職業が村人? 明らかに戦闘職で、しかも上級職の間違いでは?

 そんなウーゴの頭の中を見透かしたトオルは、ドゥッチョの犬な頭をモフモフしながら、


「間違いないぞ。ドゥッチョも、あとこっちのフィリッポとガスパロも村人だ。んで見ての通り、戦う力は持っている」

「そうッスよ! オイラたちの職業は村人ッス!」

「けどそれでも! 今ではトオル隊の『三獣刃』だぜ!」

「……え、えぇ?」


 実際に見てもまだ半信半疑なウーゴ、とほか十一人。


 そんな彼らに対して、トオルは再び真剣な顔で言う。


「恥を忍んでお願いする。命懸けの戦いに巻き込んでしまうけど、俺たちに力を貸してくれ」


 今度はより深く頭を下げたトオル。

 さらにトオルに続いて、マルコたちも彼ら十二人に頭を下げた。


「「「「「…………、」」」」」


 一方、まさかのお願いされる側となった少年少女たち。

 予想外すぎる展開に頭が追いつかず、混乱している者も多かったが……。


 動かなければ状況は変わらない。

 村人でも本当に力になれるのならば、貸さない道理は別にない。


 ――こうして、一人一人の決断までに時間の差はあれど。


 新成人の村人十二人全員が――トオルたちに合流した。

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