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第48話 島めぐりの末に

「あ、あれぇ? ……何か調子が悪いなぁ?」


 異世界人であるトオルによって、アジフライという新たな揚げものが伝授された翌日。

 トオルたち五人は今日もアルヘイムの海へ、数多くある島めぐりに出かけていた。


 今回、乗っているのは小さな漁船だ。

 その船長を務めるのは、漁師組合の組合長シルヴィオの息子である。


 名前はネロ。年齢はトオルと同じ二十五歳。

 気弱そうでまだ肌の黒さは先輩たちには及ばずとも、職業は歴とした漁師だ。


 たまたま今日は休みだったため、意気投合したトオルたちの島めぐりの案内を買って出ていた。


 そんなネロの操舵で海をいっていたトオルたち。

 魔物がいる島をいくつか回ってもらい、お昼前にアルヘイムへと戻る……その帰り道に。


 恐ろしい例のあれが――再びトオルたちに起きてしまった。


「ぐっ、忘れた頃に! やっぱり俺たちにとって移動は鬼門なのか!?」


 移動手段の故障。

 二回あった馬車に続いて、今度は漁船が故障して動かなくなってしまったのだ。


「し、しかも早速、流されているのでありますよ!?」

「うわぁ! よりによって一番、潮の流れが早いところでぇ……!」


 不運すぎる状況にネロが最も慌ててしまう。


 ……かなりの速度で船は流されている。……周囲にほかの船の姿はない。


 状況的にはなかなかの危機だ。

 もし安心できるとすれば、船体に穴はあいておらず、沈没する心配がないことくらいか。


「くっ! このままじゃどこに流されるか分かったもんじゃないぞ!」


 ここでトオルが動く。


 コピーしているリッチの『氷魔法』を発動。

 漁船団を助けた時のように、海を凍らせて流されるのを阻止しようとするも……。


「だ、ダメでしゅ!?」

「止まる気配がないッス!?」

「だぜ!?」


 潮の流れが予想以上に激しくて失敗。

 表面を凍らせたところで氷ごと流されて、一人だけでの脱出ならまだしも、船や六人全員での脱出は不可能だった。


「ぐぬぬ! 一昨日のシーサーペントの呪いか何かか!? 過去最悪級の不運の極みじゃないか!」

「ご、ごめん皆! 自分、船長としてやっちゃったようだよぉ!」


 引き金はネロがよかれと思ってやった、少し強引な帰り道のショートカット。……そこにトオルたちの旅路の不運が重なった結果。


 パパラッチに剣士に村人三人に漁師に。


 六人を乗せた漁船は――魔物よりも恐ろしかった海流に乗って流されていく。



 ◆



「ふ、不幸中の幸いだ……と言ってもいいよな、これ?」


 大自然の力を前に、成すすべなく流され続けて約三十分。

 どこに流れ着くこともなく、広大な外洋へと出てしまう……という最悪の事態だけは免れていた。


 漂着したのは、アルヘイムの海に多数浮かぶ島のうちの一つ。


 海の上から見た全体像を見る限り、島の中でも相当に大きい部類の島だ。


「街からはギリギリ見える島だねぇ。人は住んでいない無人島だよ」

「そうなのか。なら救難信号にも気づいてもらえる……のか?」


 アルヘイムから見えたところでだいぶ離れている。

 また島回りの海流も早いため、普通に考えて行商船や漁船が近づいてくる可能性は低いだろう。


 ――ちなみに、トオルたちが漂着したのは、街から見て裏側にあたる小さな浜辺だ。


 また島側には断崖絶壁があるため、島内部の山の方へは進めない地形となっている。


 つまり、海岸線を歩くしかない。

 ぐるっと回って表側にいけば、まだ近くを通った船に気づいてもらえる可能性がある、というのが地元漁師のネロの考えだ。


「なら動くか。ほかに手もなさそうだしな」

「でありますね」


 そうして、小さな浜辺を出て歩きづらい岩場地帯へ。

 ぶつかった波飛沫を浴びながら、六人は根気強く歩いていくと――。


「……あれ?」


 先頭をいくトオルが見つけたのは洞窟だ。


 海水が流れ込んでいるその洞窟の中から、一瞬、波の音に混じって誰かの声が聞こえた気がした。


「もしかしてほかにも人が? ならラッキーだぞ!」


 一旦、トオルは海岸線を歩くのをやめて洞窟の中へ。

 判断を下した隊長であるトオルに続いて、マルコたちも洞窟内に入っていく。


 波がぶつかる音も減り、一転して静かになった大きめの洞窟内。

 するとやはりトオルの耳に、無人島のはずなのに誰かの笑い声のようなものがハッキリと聞こえてくる。


(よし! ありがたや海の神、いや異世界の神か? とにかく俺たちを見捨てなかったようだぞ!)


 足元が不安定なので、逸る気持ちを収めて進むトオル。


 その視線の先。薄暗い洞窟内の向こうに光が見え、天井が開けた湾のような場所には……何と大きな帆船が停泊していた。


 しかも五隻もだ。

 どの船も一昨日、乗った行商船に匹敵するほどの立派な船である。


「(ちょ、ちょっと待ったぁ! トオルぅ!)」

「え?」


 と、その時だった。


 船の存在を確認して、声がする方にトオルが手を振る寸前。

 同じく船に気づいたすぐ後ろのネロが、慌ててトオルの口を塞ぐように制止した。


 ――そして、ネロは震える小声でトオルに言った。


「(あれ全部、海賊船だよぉ!)」と。



 ◆



「(え? か、海賊……船??)」


 湾のようになっている大きな洞窟内にあった五隻の船。

 それを見て幸運だと思ったトオルは、漁師組合長の息子のネロの言葉を受けて、衝撃に目を白黒させた。


 行商船でも漁船でもなく、海賊船。しかも五隻全部が。


「(ほ、本当でありますか? ネロ殿)」

「(うん。間違いないよ、マルコ。あの船はどれもアルヘイムの海で恐れられている海賊たちのものだよぉ……)」


 トオルたちの中で一人だけ、地元民であるネロは冷や汗ダラダラだ。


 なぜかこの大きな無人島の怪しげな洞窟に集まっていた船団。

 海賊は本来、自分の船の仲間しか信用しない。だからこうして集まっていること自体があり得ない状況である。


「(しかもやっぱり……バルトロ海賊団もいるよぉ)」


 五隻の海賊船のうち、最もネロを震え上がらせたのがバルトロ海賊団だ。


 獅子王バルトロが率いる最強最悪の海賊団。

 アルヘイムの海で最も出会いたくない存在は? と聞かれれば、漁師も行商も真っ先にバルトロ海賊団と答えるほどだ。


 そんな恐ろしい海賊を含めて、五つの異なる海賊団が集結している。


 この状況はアルヘイムの海を知る者からすれば、地獄以外の何ものでもない。


「(……なるほどな。ところでネロ、海賊団一つあたりにどれくらいの船員がいるんだ?)」

「(どれも大体、四十人くらいだね。バルトロの船だけは多分、五十人くらいいたはずだよぉ)」


 洞窟のゴツゴツした岩陰に隠れながら、小声を保ってトオルとネロが言葉を交わす。


 海賊団一つだけでも戦力的にはかなりのものだ。

 桁違いに強い最上級職こそ、獅子王バルトロの一人だけ。


 ただし、ほかの海賊団の船長や幹部クラスには上級職がゴロゴロといる。


「(となると、力づくで一隻奪って逃げるのは無理そうか?)」

「(うん、それはやめた方がいいね。仮にもし上手くいっても、自分の操舵技術じゃぁ……)」


 小さな漁船は問題なくても、大きな船となれば話は別だ。

 まだ半人前な漁師のネロでは、すぐに海で追いつかれてしまうだろう。


(ううむ、困ったな。船は船でも海賊船とは……)


 不幸中の幸いで島に漂着したあと、おそらく不幸に分類されるだろう海賊団の存在。


 その海賊たちの荒々しい笑い声が響く洞窟内で、トオルが取るべき行動に迷っていると――。


 どこの海賊団の者か、特に大柄で強面な海賊の口から――耳を疑うような言葉が飛び出した。


「なあオイ、さっさとっちまおうぜ! アドルナートのクソ伯爵の首をよォ!」

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