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第47話 揚げものマスター

「さあどんどん食え食え! 若い冒険者ならなおさらだ!」


 行商船での船旅兼護衛を務めた次の日の昼。

 トオルたちは海の近くにある、とある人物の家に遊びに来ていた。


 アルヘイムの漁師組合の組合長、シルヴィオ。

 スキンヘッドで頭まで日に焼けた真っ黒い肌の海の男は、シーサーペントの襲撃を受けた漁船団の中にいた一人だ。


 幸運なことにあの時の死者はゼロ。

 トオルが向かう前に何隻か沈められてはいた。だがすぐに仲間の船に引き上げられて、命だけは助かっていたのである。


 ――ちなみに、漁師たちの職業はまんま漁師だ。


 農村でいう村人にあたるが、最弱なだけの村人とは違う。

『釣り』や『投網』という、職業の固有スキルがついている。


「美味いですね。特にこの酸味の効いたソースはインザーギ領にはなかったですよ。……もぐもぐ」


 そんな彼らの恩人であるトオルを含め、マルコたちも招待されたのがシルヴィオの家だ。


 助けられたあと、義理人情に厚いシルヴィオが「ぜひ御馳走させてくれ!」と懇願。

 トオルたちはそれを素直に受け取って、土産を持参したほかの漁師たちも集まり、派手な食事会を楽しんでいる。


「にしても驚いたぞ。まさか強いだけじゃなく、あのフライドポテトの考案者とはな」

「ありゃいいよな。揚げたてなんかエールと一緒に食ったら最高だぜ」

「俺はたまに女房に作ってもらって船で食ってるぞ」

「もしかしてシーサーペントが寄ってきたのはその匂いに釣られたんじゃねえか? ガッハッハ!」


 楽しく盛り上がる野郎だらけの食事会。

 そこで一番の話題となったのは、珍しいトオルの髪色でも使った魔法でもない。


 ――そう、フライドポテトである。


 芋を油で揚げただけのこの料理は、アドルナート伯爵の屋敷で聞いた通りに流行っていた。


「……フッフッフ。でも、俺の揚げものシリーズはフライドポテトだけじゃありませんよ?」

「「「「何!? 本当か!?」」」」


 あまりに皆の食いつきがいいので、少し調子に乗るトオル。

 出された魚料理に満足したあと、エール片手に向かったのは……シルヴィオの家の台所だ。


「トオル、ほかにも揚げもの料理があるって本当かい?」

「はい。幸い材料はあるっぽいので、素人料理ながらも披露いたしましょう!」


 ――という流れとなったら、もう止まらない。

 トオルはシルヴィオの妻や娘をアシスタントに調理を開始する。


 まず作ったのは唐揚げとコロッケだ。

 インザーギ伯爵家の料理長に教えてイザベリスにも広まった、『揚げものマスター』の称号(?)を与えられる決定打となった料理である。


 とはいえトオルは素人だ。

 料理長に教えた時こそ、うろ覚えの思考錯誤だったが……。


 プロである料理長や料理人たちのおかげで、今ではトオルもレシピを完璧に覚えていた。


「う、美味い! なんて肉汁たっぷりなんだ!」

「本当だ! フライドポテトも好きだけど、俺は唐揚げ派かもしれん!」

「こ、コロッケも美味いぞ! 外のサクサクと中のホクホクがたまらんぜ!」


 出された唐揚げもコロッケも大好評だ。

 これではどっちが招待されたのか分からないほど、トオルの揚げもの料理に海の男たちは舌鼓を打っている。


「……が、しかしです。ここは海のある港街――まだ誰にも披露していない、魚を使った揚げものを作ってさしあげましょう!」

「「「何ッ!?」」」


 と、ここで。

 エールやはちみつ酒でほろ酔いのトオルは、初披露となる新作の揚げものを作ると宣言。


 ……だが当然、腕は素人ゆえに材料の魚を捌くことはできないので。


 以外とやる気満々のシルヴィオの妻に、あーだこーだと指示を出して――異世界において第四の揚げもの料理が誕生した。


「名はアジフライ。まあ、材料はアジじゃなくてアジっぽいやつだけど!」

「「「おおおおおッ!?」」」


 こうして、剣と魔法の世界で初めて作られたアジフライ。


 漁師たちはもう結構、飲み食いしまくっている。

 にもかかわらず、よだれを垂らさんばかりの表情で、揚げたてアジフライに手を伸ばそうとして――。


「海の男たちよ! 待つのでありましゅ!」

「ちゃんと鉄の順番は守るッスよ!」

「だぜ! トオル隊長の新作は我ら『三獣刃』からだ!」


 食事会を楽しんでいた犬猿雉トリオが登場。

 相変わらず体はおチビでも高いステータス(ドゥッチョのみシーサーペント級)の差から、漁師たちを押しのけてアジフライを食べ始める。


 ……そういえば唐揚げとコロッケの時も、屋敷の調理場までついてきたこの三人が最初だったな。

 なんてトオルが思い出しつつ、食べた感想を待っていると、


「う、美味いでしゅ!」

「何か食感がフワフワしてるッス!」

「コイツ、口の中で油という海を優雅に泳いでるぜ!」


 結果は大好評も大好評だ。

 犬猿雉トリオの感想を聞き終えた漁師たちも、ここで我慢できずについに参戦。


 我先にとアジフライの山に手を伸ばして――美味い美味い! の大合唱である。


「これぞ『揚げものマスター』の力。……そして、俺はいずれ『揚げものしん』へと至るだろう!」

「と、トオル殿。ちょっと飲み過ぎてありますよ?」


 酒の力も借りて調子に乗った末に、参謀マルコの心配を受けたあと。


 腹も心も満足したトオルは――大いびきをかいて寝始めるのだった。

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