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第43話 魔法を修めし者

「――じゃあ、今度こそ最後の一体と願っていきますか」


 グリムリーパーを討伐しても収まらない重苦しい空気。

 まだ存在するその元凶を次こそ倒すべく、トオルは二連戦に挑む――とはならなかった。


 相手はおそらくグリムリーパーと同等以上の強敵だ。

 であるならば、無理に連戦をして危険を冒すのは愚の骨頂である。


「しっかりと休憩を取れたのであります。全力のトオル殿なら必ず勝てるのでありますよ!」

「おう。任せてくれ、マルコ」


 誰もいない亡都の最奥にある屋敷で一泊。

 だいぶ埃まみれではあったが、少し掃除してからふかふかのベッドで休めていた。


 そして迎えた六日目の朝。トオルたちは再び諸悪の根源である廃教会へ。


 昨日、見つけていた地下への扉を開き、トオル、犬猿雉トリオ、マルコの順で下りていく。


 ――――……。


 一段一段、下りる度に増す空気の悪さ。

 もはや肌に纏わりつくというより、気持ちの悪い膜で覆ってくるかのようだ。


 そんな中でたどり着いたのは、地上の廃教会よりも大きな地下の空間。

 幅も奥行きも五十メートル近くあり、天井高さが約十メートルの、薄暗い地下空間の奥にいたのは――。


「り、リッチ!? 高位のアンデッド族でありますか!?」


 最後尾にいたマルコがたまらず叫んだ。

 遠くに見えたその魔物を見て、トオルがステータスをチェックする前に正体が判明する。


「……なるほど、リッチか。魔法を使う高位のアンデッド――ん?」


 確実に雰囲気から見てもグリムリーパーより格上。

 なので四人を階段のところで待機させて、トオルが一人、地下空間を進んでいた時だった。


 ふと最奥に佇むリッチに違和感を覚える。

 慎重に近づきながら、よく目を凝らしてその姿を確認してみると、


(服を着ているじゃないか。ということは元住民だろうけど……ウソだろ!?)


 違和感の正体は、服を着ていたことではなく、着ていた服そのもの。


 地上の個体はボロボロな布きれだった。

 ところが地下空間にいたリッチの服は、明らかに上等そうな装飾付きの赤いローブだ。


「ちょっと待て。お前、まさか……」


 トオルの頭をよぎったのは、この亡都ザパハラールの領主の存在。


 フルネームも顔も知らないが、悲劇の元男爵の存在がふと出てきたのだ。


 もちろん、だからといって本人と断定はできない。

 ただ上等な格好からするに、ザッパローリ男爵家の誰か、つまり貴族なのは確定だろう。


(……と、とにかくだ。この尋常ならざる雰囲気だと、どうなんだ?)


 リッチにさらに接近するトオル。

 もうすでに元男爵とか貴族とかはどうでもよく、気になるのはコピーできるかどうかだ。


 いけるのか? その答えは天の声のみ知っている。


 ただの骸骨とは思えない圧力を放つリッチ。

 まだ動かないその魔物との距離が、ついに十メートル圏内になった瞬間。


《発見した魔物を撮影しますか?》


 ひそかに経験から無理そうだと思っていたトオルの耳に。


 まるでほかの誰かの祈りに応えるかのように――天の声がそう告げた。



 ◆



「疑ってすまん! 本当に助かるの極みだぞ、パパラッチ!」


 なぜか条件反射で謝るトオル。

 そのあとすぐに敵のステータスを確認して……言葉はなくともまたトオルの口が開かれた。



【名前】 リッチ

【種族】 アンデッド族


【HP】 905/905

【MP】 980/980

【攻撃力】 451

【防御力】 451

【知力】 1042

【敏捷】 615


【スキル】

『氷魔法』

『闇魔法』

『魔法障壁』

『常時MP小回復』



 ついに超えた1000の大台。

 低い能力との差は激しいが、完全魔法タイプと考えれば納得のステータスだ。


 覚えているスキルも四つあり、過去最高の数となっている。


 ……これがリッチ。魔法を使える高位のアンデッド族の力。

 トオルは驚異のステータスを確認して、パシャパシャパシャ! と撮影保存しコピーして――自分の力に上乗せさせた。



【名前】 篠山トオル

【種族】 人間

【年齢】 二十五歳

【職業】 パパラッチ


【レベル】 34

【HP】 916/1009

【MP】 713/1038

【攻撃力】 527

【防御力】 521

【知力】 1085

【敏捷】 685


【スキル】

『モンスターパパラッチ』

『パパラッチギフト』

『氷魔法』

『闇魔法』

『魔法障壁』

『常時MP小回復』



『――、――』

「む!?」


 その時だ。


 トオルの準備が終わると同時。

 まるで待っていたかのように、リッチがゆらりと動き出した。


 急速に高まった魔力を纏う骨だけの手。

 そこから放たれたのは、見惚れてしまうほど美しい一本の氷の槍だ。


「!」


 射出された氷の槍、『氷突槍ひょうとつそう』を回避する。

 直後にトオルもまた『氷魔法』を選び、コピーした瞬間に頭の中に入った魔法の一つを使う。


「『氷結弾』!」

『――、』


 氷の槍より威力は落ちるも、速度に優れる魔法だ。

 対してリッチは回避せずに、左手をかざして淡い緑色の壁を出現させた。


『魔法障壁』。

 敏捷が特別、高いわけではないリッチの防御魔法である。


 ほぼノータイムで発動した半透明かつ長方形の壁は、『氷結弾』の貫通を許さずに砕け散らせた。


「……なるほど。基本の防御はそれか。障壁を張って低い防御力をカバーすると!」


 戦いが始まってまだ一分と経たず。

 それでも異世界人として、ひそかに夢見ていた魔法を自由自在に使えることで、


 トオルは戦いに集中しつつも、口元が緩むほどには楽しくなっている。


 ……ただ当然、命懸けの勝負には勝たなければならない。

 魔法を駆使する戦いには慣れていないトオルは、左手の槍を織り交ぜながら戦う。


 一方、リッチは当り前のように魔法一辺倒だ。

 常に間合いをあけながら、高い知力からの強力な魔法を叩き込んでくる。


「っお!? 強いなそれ……!」


 その戦いの中で、トオルが最も驚かされたのが『闇魔法』だ。


 攻撃速度は『氷魔法』の方が上。

 逆に威力は闇が上で、『闇蛇』(漆黒の蛇)の直撃を受けた『魔法障壁』はヒビが入って砕けてしまう。


「トオル殿! 『闇魔法』は属性の中でも随一の威力であります! あとMPにもダメージが入ると聞くのであります!」

「え、そうなのか!? 分かった、了解だ!」


 離れた階段付近に留まるマルコの助言を受けて、トオルは気を引き締め直す。


 昨日、戦ったグリムリーパーの『黒指弾こくしだん』とは違う。

 同じ闇属性でも『闇魔法』の中に分類されていると、MPも持っていかれるという厄介な性質があった。


(だからか? 消費MPは氷よりも多いな。……けど、MP切れは狙わないぞ)


 1000近いMPに加えて、スキル『常時MP小回復』の存在がある。


 さすがにリッチに関しては消費MPの方が圧倒的に多い。

 回復はまったく追いついておらず、待てばそのうちに切れるだろうが……それはしない。


「『黒死牟槍こくしむそう』!」


 一度、『魔法障壁』を張って相手の魔法を受けてから。

 トオルは攻撃的に、『闇魔法』の中でも一、二の高い燃費を誇る魔法を使う。


 一気にMPを80も消費。

 わずかな虚脱感を覚えつつ現れた巨大な漆黒の槍は、リッチが立て続けに張った魔法障壁二枚をブチ抜いた。


 ……もし三枚なら何とか耐え切れただろう。

 だが間に合わずに守りを突破され、リッチはHPとMP両方にダメージを受ける。


「で、次は本当の槍だ!」

『――、――』


 そこへトオルが間髪入れずに槍の刺突を見舞う。


 対応が遅れたリッチは骸骨の体に何発も被弾。

 反撃の『氷魔法』を撃とうとするも、槍に右手を弾かれて中断させられた。


 距離があれば無類の強さを誇るリッチ。

 だが弱点である接近戦を許して、技や敏捷でも負けてしまえば、武器も持たないために脆いものがあった。


「崩れたな。不死の魔法使い!」


 何とか張られた『魔法障壁』を読んでいたトオル。

 回り込んで槍を繰り出し、反対の右手で追撃の『氷突槍』も叩き込む。


 ――そして、大きく傾いた形勢は覆ることなく。


 上等な装飾付きローブを纏ったリッチは――最後に槍で貫かれて崩れ落ちた。

これまでに登場した魔物の強さの並びです。


リッチ

グリムリーパー

グランドドラゴン

オーガ

異名持ちマンティス、デュラハン

異名持ちオーク、ミノタウロス

ケーブナーガ

ジャイアントスパイダー、ブラッドベア、マミー

オーク、トレント

レイス

ギャングウルフ

ワイルドボア、キラーラビット

グール

ゴブリン、コボルド、スケルトン

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