第42話 格上の死神
「まさかもう出会うとは……。雰囲気からしてもしやとは思っていたけども!」
亡都ザパハラールの廃教会。
二十年前のスタンピードの元凶と思われる魔物が、祭壇の上で不気味にトオルたちを待ち構えていた。
『――――、』
アンデッド族共通で声は発さない。
その代わりではないだろうが、黒マントを纏う二メートル超えの大きな骸骨の体からは――凄まじい圧力を発している。
【名前】 グリムリーパー
【種族】 アンデッド族
【HP】 690/690
【MP】 682/682
【攻撃力】 855
【防御力】 644
【知力】 651
【敏捷】 840
【スキル】
『霊体』
『凶心の一撃』
『黒指弾』
攻撃力と敏捷は800台中盤だ。
この二つの能力値がずば抜けており、あとは600台で纏まっている。
現在、コピー中のグランドドラゴンと比べると、HPと防御力は100以上劣る一方で、
ほかの部分はグリムリーパーが上。敏捷に関しては200以上の差があった。
総合値で計算しても格上の相手だ。
ただ幸いなのは、許容範囲の格上だったということである。
――すなわち、
《発見した魔物を撮影しますか?》
天の声が告げるコピーできるという事実。
対してトオルは答えずに、まず四人を下がらせてから一人、突っ込んでいく。
「の前に! 喰らっとけい!」
接近してから右拳を突き出し、『地鳴息』を放つ。
格上だからコピーはするつもりである。
ただその前に一発、『霊体』にも効く大技でダメージを与えようという算段だ。
『――、――』
だが残念。渾身のスキルは高い敏捷から避けられてしまう。
これまでなら気にならなかった、わずかな発動のタイムラグ。それによって浮遊する大きな体を捉えられなかった。
「……今のを避けるか。じゃあ当たりそうにないな」
と、一発ですぐに諦めたトオル。
廃教会の祭壇ごと壁を破壊してしまった中で、固執することなく次の段階へ。
「んじゃ、撮影を頼む」
言った直後、パシャパシャパシャ! とシャッター音が廃教会に響く。
続いて、トオルの魔鉄製の防具を纏った全身が光り、奥底からいつもの力が漲ってくる。
「さあパクったぞ? 俺が二十年前の続きをやってやるよ」
『――――、』
トオルの言葉にグリムリーパーは答えない。
ほんの一瞬、骨の顔が不気味に笑ったように変化して――大鎌を振り下ろしてきた。
◆
グリムリーパー級パパラッチvsグリムリーパー。
両者の槍と大鎌がぶつかり合い、生まれた衝撃の余波が廃教会の窓や椅子を震わせる。
相手は恐ろしい外見のアンデッド族の魔物で、戦場も不気味な廃教会。
その状況に不似合いな楽しそうな声が……トオルの口から出てしまう。
「おお、スゴイな! 本当にすり抜けたぞ!? これこそゴーストの真骨頂の極みだ!」
……原因はほかでもない『霊体』だ。
普通に武器も防具も持てるのに、ダメージを喰らいそうな時だけスルッと体を通り抜ける。
同じ『霊体』持ちのグリムリーパーの攻撃こそ普通に当たる。
それでも余波で破壊された床の破片などは、金属製の防具さえも影響を受けてすり抜けていた。
「と、トオル殿! 感動している場合ではないのでありますよ!?」
「――っと、そうだった。すまん! つい!」
ここでマルコの注意を受けて、やっと元の精神状態に戻ったトオル。
そして目の前の死神、グリムリーパーに集中。
襲い来る大鎌を魔鉄の槍で弾き、パパラッチ分だけ勝るステータスで次々と攻撃を仕掛けていく。
「喰らえいッ!」
通常攻撃に織り交ぜて使うのは『凶心の一撃』だ。
MP20を消費すると、いわゆる通常攻撃よりも強い『会心の一撃』と同じ効果が現れている。
(接近戦は問題なく押せるな。となると気をつけるべきは……!)
瞬間、急浮上したグリムリーパー。
前後ではなく上下で間合いをあけてくると、天井付近から漆黒の弾丸を飛ばしてきた。
『黒指弾』。
指先から発動する、闇属性の遠距離攻撃系のスキルだ。
「威力はそこそこ! けど一度に多すぎだろ!?」
頭上からの怒涛の黒い雨。
グリムリーパーも指は十本あるので、一度に最大で十発が降り注いでくる。
その消費MPは一発あたり5。
元の世界でいう弾丸の速度を誇るため、高い敏捷をもってしても避け切れない。
「おのれ、地味に削ってきやがって! HPと防御力は低めだから嫌な攻撃だぞ!」
対して、トオルも『黒指弾』で対抗する。
互いにほぼ回避を諦めて、上と下から黒い闇の弾丸が飛び交っていく。
こう見ると一見、トオルが少しピンチのようにも思えるが……決してそんなことはない。
全ステータスで上回っているのだ。
壮絶な打ち合いの削り合いになれば、自然とステータスが上の方が勝つ。
(あと別に食べものだけじゃないぞ。イザベリスを発つ時に、ポーションもいくつか買ってあるしな)
回復の観点から見てもトオルが有利。
トオルのHPが尽きる前に、予想通りグリムリーパーのMPの方が先に尽きた。
『――、――』
すると観念したかのように、天井付近から下りてきたグリムリーパー。
『凶心の一撃』ももう使えず、シンプルに通常攻撃の鎌で攻撃を加えてくるも、
「まあ基本、コピーできたら俺の勝ちは揺るがないぞ!」
叫び、トオルは勝る攻撃力で押し返す。
自身はまだ使えるも、MPを温存しての通常攻撃の嵐だ。
そうして槍の連撃で圧倒し、最後は鋭い踏み込みから――グリムリーパーの頭蓋骨を貫通して倒したのだった。
◆
――はずなのだが……?
「あ、あれ? ……何かおかしいぞ?」
廃教会にいたグリムリーパーを討伐した。
恐ろしい大鎌を持った黒マント骸骨の体は、たしかにトオルの前から消えている。
にもかかわらず、消えていない重苦しい穢れた空気。
元凶となったアンデッド族の強力な魔物は、もう存在していないというのに……なぜ?
「これは一体……どうなっているのでありますかね?」
「な、何ででしゅか?」
「ちょっと意味不明なんスけど……?」
「グリムリーパーはもういないぜ?」
あまりの戦闘の激しさに一旦、廃教会から出ていたマルコたちが合流。
そして同じく消えていない空気を感じて、困惑の表情となってしまう。
「もういないはずなのに……。まだどこかに隠れているってのか? ――って、まさか」
と、ふいに気づいたトオルの全身が固まる。
さらにはマルコも。
同じタイミングでふと気づき、二人はゆっくりと目線を落として――足元の床を見た。
「なあ、マルコ。もしかしてなんだけどさ?」
「はい。おそらくトオル殿と同じことを考えているのであります」
足元を見つめたまま、言葉を交わすトオルとマルコ。
亡都ザパハラールで最も酷い重苦しい空気は、ここ廃教会に残ったままだ。
「ならこの下……地下ってわけかい!」
終わったと思ったのにまだ終わっていない。
元住民のために始めた弔い合戦は、どうやらまだ続きがあったようだ。
それを証明するように、廃教会の中を五人が探し歩いてみたら。
二十秒とかからずに見つかったのは……地下へと続く扉と階段だった。
これまでに登場した魔物の強さの並びです。
グリムリーパー
グランドドラゴン
オーガ
異名持ちマンティス、デュラハン
異名持ちオーク、ミノタウロス
ケーブナーガ
ジャイアントスパイダー、ブラッドベア、マミー
オーク、トレント
レイス
ギャングウルフ
ワイルドボア、キラーラビット
グール
ゴブリン、コボルド、スケルトン




