第41話 弔い合戦
「ぬおッ!? そういう習性だったのか! 厄介だなオイっ!」
日が落ちて夜になった。
ひたすら戦い続けて千近い魔物(と元ザパハラール住民)を討伐(成仏)させたトオルたち。
空気の穢れもあって疲労もだいぶ溜まり、今日の討伐を切り上げて休憩を取っていた。
……のだが、
夕食を取ろうとしたところで想定外が発生。
石壁の外、つまり街の外へは一歩も出ないはずのアンデッドたちが、
日が落ちた途端、普通に門から列をなして出てきたのだ。
「ちょっと待っ、これじゃ休めないじゃないか!」
「せ、戦闘体勢であります! ほら三人も!」
お楽しみの夕食を慌てて中断。
すでに見つかって何体かが向かってきているので、トオルたちはフライドポテトを口に入れたまま迎撃にあたる。
やること自体は街の中だろうと外だろうと変わらない。
物理無効のスキル『霊体』があるレイスは犬猿雉トリオが担当。トオルとマルコはスケルトンとグールの担当だ。
(けどまあ、たしかに。出てこなきゃ亡都周辺の魔物が『小聖獣』の異名持ちになるはずないか!)
幸い数自体は街の中と比べれば大したことはない。
ただ疲労がまだ残っていて、それなりの数が出てきているため……休むなど到底無理だ。
――と、さらにここで。
戦い始めたトオルたちの前に、より休めない相手が登場してくる。
『――――、』
「く、首なしの鎧!? ってことはデュラハンか!」
街から出てきたのは首なし騎士のデュラハン。
ひび割れた黒い鎧と黒い剣を手に、一切の言葉などなくスーッと接近してくる。
亡都ザパハラールの門付近では一度も見なかった、その魔物のステータスを確認してみると、
【名前】 デュラハン
【種族】 アンデッド族
【HP】 445/445
【MP】 147/147
【攻撃力】 422
【防御力】 430
【知力】 106
【敏捷】 351
【スキル】
『騎士剣術』
『黒剣延伸』
ステータス的には、犬猿雉トリオがコピーした異名持ちマンティスと同程度。
なので充分、三人でも相手はできる。しかし一体だけなのでここはトオルの出番だ。
「まあ、コピーさせる必要はないか。天敵の『聖属性(小)』を手放すほどじゃないな」
言って、槍を繰り出すトオル。
デュラハンの『騎士剣術』は剣術自体を上げるようで、かなりの使い手ではあった。
さらには『黒剣延伸』。
この固有スキルで射程を二メートル以上伸ばしてくるも、そこはグランドドラゴン級のトオルだ。
倍以上のステータスでのゴリ押し。
デュラハンを問題なく討伐したトオルは、再び群がってきている雑魚を蹴散らしていく。
「けど、だよ! 外に出てきているから結局、どこにいっても休めないの極みだぞ!」
「らちが明かないのであります……! さすがに日の入りまで体力は持たないのでありますね」
実力ではなく疲労の問題が。
街中ほどではないにしろ、空気の穢れで疲れも早く、このままではいずれ動けなくなるだろう。
「トオル殿! ここは思い切って再び中に入ってはどうでありますか?」
「え、中に!?」
「そうであります。といっても戦うのではなく、建物の中に隠れるのでありますよ!」
と、石壁の近くで戦いながら、マルコの提案を聞くトオル。
……このまま戦ってもジリ貧なのは間違いない。
であれば思い切って中に入り、約二十年経っても残っている建物を利用するべきか。
「よ、よし。乗った! また亡都に侵入しよう! ドゥッチョたちもいくぞ!」
「はい、でしゅ! トオル隊長!」
「了解ッス!」
「ちょっとした賭けだぜ! けど俺も乗った!」
――というわけで、戦闘ではなくひとまず逃走。
石壁伝いに走って、人が通れそうな穴から続々と亡都の中へ。
そして運よく出たのは建物の陰だ。
ちょっとした裏通りみたいな場所を進み、遭遇してしまったアンデッド族は静かに討伐する。
かなり思い切った作戦であったが……結果から言えば大成功だ。
比較的壊れていない建物内に入ったところ、アンデッド族たちは建物の外でしかウロウロしていない。
「(た、助かった……。さすがは参謀、グッジョブだぞ)」
敵陣の中での安全地帯を見つけて、トオルたちはホッと息をついたのだった。
◆
日中も日没後も戦闘に次ぐ戦闘。
疲労が溜まりやすいという特殊なフィールドでも、休憩場所を見つけたトオルたちの討伐兼弔いは順調だった。
「ふむ。お次はマミーゾーンか」
門付近、街の前半はスケルトン、グール、たまにレイスだけ。
それが進むにつれてアンデッド族の強さも上昇。
厄介なレイスが増えて、新たに全身包帯のマミーが数多く出てきた。
肝心の強さはジャイアントスパイダー&ブラッドベア級。
ここまでくるとマルコは少し厳しいため、日中は犬猿雉トリオを交代で護衛につけて、街の外から奥を偵察してもらっている。
『――、――』
「甘いでしゅ! 捕まってなんかあげないでしゅよ!」
見た目に反してマミーは強い。
とはいえ、異名持ちマンティス級(デュラハン級)のドゥッチョには勝てない。
三つ以上格上の存在として圧倒。包帯による捕縛を避けたドゥッチョは、余裕をもってマミーを仕留めた。
そんな感じで続いていく、亡都ザパハラール住民の弔い合戦。
中盤(朽ちた中央広場)のマミーやレイスを超えると、ようやくデュラハンたちのお出ましだ。
アンデッド族の中でも格上だけあって数は少ない。
それでも両手で収まる数ではないため、より慎重に立ち回らなければ危険である。
「ぬぬぅ! 挟み撃ちなんてさせないッスから!」
特に犬猿雉トリオは基本、一対一でなければならない。
敏捷では大きく勝っていても同格の魔物相手に、上手く立ち回りつつ、トオルの援護も受けながら進む。
――そうして、HPも削られるようになった本気の戦いを繰り返すこと、丸二日。
初日から数えて四日を戦い抜き、片っ端から討伐兼弔いをした結果。
さまよっていたアンデッド族はいなくなり、もう魔物の巣窟ではなくなっていた。
もちろん建物の方も調査済みだ。
基本的にいたのは屋外ばかりだったが、たまに飛び出してきた敵をしっかりと討伐している。
ちなみに一番、酷かった場所は、二十年前のスタンピードの際に使ったと思われる巨大倉庫。
ベッドが並んだ野戦病院みたいなそこには、元住民と思われるデュラハン化した者が八人ほどいた。
「……で、いよいよ最後だな。元凶はあそこか」
そして迎えた弔い合戦五日目。
トオルたちが見据えるのは――ある一つの建物だ。
◆
残る最後の未調査の建物。
その正面に立ったトオルたちは、覚悟を決めて一歩踏み出す。
……明らかにここだけヤバイ雰囲気だ。
結局、一万体はいただろうアンデッド族がいなくなった今、余計にそのヤバさだけが浮き彫りとなっている。
「最初は定番の屋敷だと思っていたんだけどな」
「でありますね。こっちだったとは予想外であります」
亡都ザパハラールの最奥に位置していた、領主である元男爵の屋敷。
すでに調査済みのそこには、特別に変な雰囲気もアンデッド族もいなかった。
現在、トオルたちが入ろうとしているのは――廃教会だ。
位置的には亡都後半の中央辺り。
崩れかけているその廃教会からは、重苦しい空気が漏れ出てきていた。
間違いなく、ここにザパハラールを陥落させた元凶がいる。
今まで夜になろうと一切出てこなかったが、絶対にいる。
「さあいこう。最後の勝負だ」
あまりのヤバさから最後に回していた廃教会へ。
崩れかけの扉を腕力で剥がし、穴が空いた天井から差す、複数の光の筋の中に――。
「……ここで一気にきたか。地竜よりも格上が……!」
続く身廊の先。祭壇の上で待ち構えるようにいたのは当然、上位のアンデッド族だ。
骸骨の体に黒マントを纏い、恐ろしい大鎌を持った強力な魔物だった。
これまでに登場した魔物の強さの並びです。
グランドドラゴン
オーガ
異名持ちマンティス、デュラハン
異名持ちオーク、ミノタウロス
ケーブナーガ、ブラッドベア、マミー
オーク、トレント
レイス
ギャングウルフ
ワイルドボア、キラーラビット
グール
ゴブリン、コボルド、スケルトン




