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第40話 亡都ザパハラール

「亡都ザパハラール……。なるほどたしかに、アンデッドに穢された悲劇の街か」


 霧に阻まれ、本来なら人間ではたどり着けない禁断の地。

 その場所に魔物の力を持つ異質な存在、トオルたちはたどり着いた。


 亡都ザパハラール。

 二十年前までは人々が生活していたとされる、元ザッパローリ男爵家の領都だ。


 そこはかつて伝えられた話の通り――すでにアンデッド族の巣窟と化していた。


 崩れかけの石壁を隔てた向こう側には、骨と腐敗。

 とんでもない数のスケルトンやグールの姿が確認できている。


(さすがにこれは……。もしスマホがあっても撮りたくないな。絶対に呪われそうの極みだぞ)


 そんな亡都の光景を見て、トオルたちが驚き、圧倒されていたら。


 一番のしっかり者のマルコが、アンデッド族の魔物たちを見て険しい顔で言う。


「ちょっと待つのであります。何体か服を着ているのでありますよ。……まさかこの魔物たちは……」

「ん? ……言われてみればたしかに」


 マルコの指摘を受けてトオルは見る。

 すると全個体ではないが、見えている魔物たちの一部が、ボロボロの布を身に纏っていたのだ。


 ……その両者の違いは何なのか。

 ここで参謀マルコの授業が始まり、トオルと犬猿雉トリオは答えを知ることに。


 すなわち、元の本当の住民。


 アンデッド族の魔物に殺された人間の末路は二つ。

 普通にそのまま死ぬか、死体が放置された末に、低確率でアンデッドの魔物に変異してしまうかだ。


(まあ、場所が場所だから……こうなってしまったのか)


 自我も記憶も失った元人間。

 街を占拠したアンデッド族に混じって、運悪くアンデッド族に堕ちてしまった者もいたようだ。


 ……ならどうすべきか。この状態のままでまた放置? いや違う。


 約二十年ぶりに訪れた人間として、トオルたちが取るべき行動はすでに決まっている。


「よし、やるか。俺たちが弔ってあげよう」

「でありますね。名も顔も知らない他人でも、同じ人間なのであります」

「上手くたどり着いたのも何かの縁でしゅしね」

「オイラたちの手で眠らせてあげるッスよ」

「だぜ。怖いけどやってやる!」


 森の中にポツンとある、多くの人々が住んでいた場所。

 襲った敵や規模の大小の差はあれど、ここはカンナ村と同じだった。


 ――こうして、アンデッド族の巣窟を前にしてもおくすることなどなく。


 覚悟を決めたトオルたちは、使命を持って亡都へと足を踏み入れた。



 ◆



『『『――――、』』』


 街に入った瞬間、スケルトンとグールが声にならぬ声で向かってくる。

 近くにいた個体からゾロゾロと、まるで侵入者を迎撃する衛兵か何かのように。


「悪いな。このクラスの相手に負けるわけがないぞ」


 スケルトンもグールもすべて一撃。

 それは五人の中では一番弱いマルコ(オーク級)も同様で、魔鉄剣の一振りで葬った。


 皮膚が腐敗したグールは所詮、ワイルドボアやキラーラビット以下の魔物だ。

 骨だけのスケルトンなどさらに弱く、最弱のゴブリンやコボルドと同程度の力しかない。


 ゆえに楽勝である。

 全員がステータスの大きな差から、サクサクと門付近の魔物を倒していく。


「むむっ。コイツは……やっぱり見た目通りにダメか!」


 だがその中で、トオルの攻撃が効かない相手が登場した。


 防御力が高いわけでもない。敏捷が高すぎて当たらないわけでもない。

 グランドドラゴン級のトオルの槍を受けても平然としているのは、半透明のボロい黒マントと骨からできた魔物だ。


「レイスか。物理タイプには厄介な相手だぞ!」


 突いても突いても、すり抜けてしまう槍。

 ステータスで確認しても、半透明の浮遊する体にはダメージが1も入っていない。


 単純な強さ的にはオークやトレントより少し格下だ。

 ただスキル『霊体』のせいで、普通にやっても一生、勝てないだろう。


「なら、これはどうだッ!」


 対して、次にトオルが使ったのは『地鳴息クエイクブレス』。

 地鳴りの音を伴う威力抜群の震動の攻撃を、突き出した右拳からレイスへと放つ。


『――、――』


 その結果は……トオルの勝ちだ。

 純粋な物理攻撃は効かずとも、『地鳴息クエイクブレス』一発で消し飛ばした。


「けどお前これ……。レイス相手じゃ燃費悪すぎだろ!」


 ……とはいえ、さすがに威力もMPももったいなさすぎる。


 レイス一体(あと巻き込んだグール数体)にMPを40消費。

 威力もオーバーキルすぎて、逆に使ってしまったことを後悔するほどだ。


「ここはあれだな。ドゥッチョにフィリッポにガスパロ! レイスだけは任せていいか?」

「もちろんでしゅ!」

「了解ッス!」

「任されたぜ!」


『霊体』のせいで実力的には勝てるマルコも勝てない。

 となれば任せるのは犬猿雉トリオ――『聖属性(小)』を持つ者たちだ。


(アンデッドには聖属性か。やっぱり森の環境に変化・適応して……まさに天敵だな)


 三人の戦いを見て確信するトオル。

 聖属性を纏った剣はレイスを実体として捉えて、ステータスの差のままに一刀両断している。


 ――これでレイス対策は問題なし。


 残るトオルとマルコは数だけは多いスケルトンとグールの相手を。

 槍と剣を休まずに振るい、次々と討伐あるいは成仏させていく。


『『『『――――、』』』』


 そこへさらに殺到してくるアンデッド族の魔物たち。

 完全に質よりも量だ。二十年の月日は伊達ではなく、まだ正門付近にもかかわらず、かなりの数を倒している。


「ちょ、ちょっとタンマ! 皆! 一旦、外に退避だ!」


 討伐の速度よりも群がるスピードの方が微妙に早く、ここでトオルの号令で一時撤退。


 ただ、もしかしたら外まで追ってくるかも? と心配していたところ、

 門と城壁の外には一体も出てこず、トオルたちへの興味を失ったように引いていった。


「う、ううむ……。これは一筋縄ではいかなさそうだぞ」


 この感じだと下手をすれば、街に一万体以上のアンデッド族がいてもおかしくない。


 数だけでいえば最高の狩り場でも……相手は雑魚なのでレベル上げにも非効率的だ。


「一日二日でいけると思った俺がバカだったな……」

「いやトオル殿。私もそう思っていたのでありますよ……」


 また数だけでなく、地味に効いていた穢れた空気。

 纏わりつく感じの嫌な空気の中は、激しく動き回るほどに疲労の蓄積が段違いに早いようだ。


「お、恐るべし亡霊たちの都でしゅ」

「アンデッド軍団はナメてかかっちゃダメッスね」

「もう怖いとか言ってられない忙しさだぜ」


 門の外から亡都ザパハラールの大混雑を見て――トオルたちは大きなため息をついたのだった。

これまでに登場した魔物の強さの並びです。


グランドドラゴン

オーガ

異名持ちマンティス

異名持ちオーク、ミノタウロス

ケーブナーガ

ジャイアントスパイダー、ブラッドベア

オーク、トレント

レイス

ギャングウルフ

ワイルドボア、キラーラビット

グール

ゴブリン、コボルド、スケルトン

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