第39話 環境に適応する
「(いや待てい! お前ら確率的におかしいだろの極みッ!)」
『迷いの森』を進んでいたら遭遇した魔物三体。
だがステータスを確認して、トオルは小声ながらもたまらず声を上げた。
「(ど、どうしたのでありますか? トオル殿)」
「(いやさ、ちょっとマンティス三体が出てきてだな。しかも三体全員が――)」
濃くなった霧のせいで、二メートル先までしか見えていないマルコ。
そのマルコや視界は利いている犬猿雉トリオと、ひとまず木陰に隠れてから、
トオルは前方にいる相手の状態について説明をした。
三体中三体が異名持ち。
本来はごく稀に存在する魔物だ。
トオルとマルコもカンナ村に夜襲をかけてきた、あの異名持ちオークしか出会ったことがない。
「しかも『小聖獣』でしゅか」
「虫系なのに獣なんスか?」
「いやそこじゃないぜ、フィリッポ。何で揃って『聖属性(小)』なんか持ってるんだって話だぜ」
さらには異名『小聖獣』とスキルの『聖属性(小)』。
異名持ちオークの場合は『怪力王』だったので、種族的にもしっくりくる異名だったが……。
(考えられるとすれば、やっぱりアンデッド族の影響か? 環境で変化したというなら……もしや近くに街が?)
珍しすぎる自体を前に、つい考えこんでしまうトオル。
……ところが、ここで異名持ちマンティスに存在を気づかれてしまい、一旦、思考を止めることに。
「んじゃ、とりあえずコピーするぞ三人とも! ガスパロはマルコの護衛を頼む!」
「はい、でしゅ!」
「了解ッス!」
「任されたぜ、トオル隊長!」
運よく異名持ちで、種族の強さの壁を超えている三体。
――現在、犬猿雉トリオのステータスはミノタウロス級のままだ。
あれから山脈の魔物を倒してレベルアップはしていても、次の格上を発見できずにコピーできていなかった。
『キシャァアア!』
「ステータスはいい感じで格上だな。敏捷なんて倍以上あるし」
トオルは早速、撮影を行う。
パシャパシャパシャ! と『村人フィルム』を選んで撮影。いつも通りにドゥッチョからコピーさせる。
そのドゥッチョを異名持ちマンティスと一対一にさせて、次の個体へ。
二体目も即行で撮影すると、フィリッポにコピーさせてここも一対一に。
「ぐぬっ! 速いぜ、このカマキリ!」
「助かった。じゃあ最後にガスパロもカマキリステータスいくぞ!」
相手はミノタウロス(異名持ちオーク)よりも格上だ。
力が及ばないマルコを守らせたガスパロに、短時間で三度目のコピーをさせる。
「きたきたきた! 受け取ったぜ、トオル隊長!」
……これでまずは一安心だ。
トオルはマルコを連れて少し離れて、手出しをせずに三人の戦いを見届ける。
『迷いの森』の中でぶつかり合う、聖属性を纏った魔鉄剣と鋭利な鎌。
薄らと白いそれが高速で振られる度に、宙には白の残像が残っていた。
「私には霧のせいで見えないでありますが……音だけは聞こえるのであります」
「あ、マルコはそうだったな。うーん、結構キレイだからもったいないなあ」
などとのん気に言っているうちに、三人全員の決着がつく。
鍛えた剣術のおかげもあり、犬猿雉トリオが種族を超えた剣士対決に勝利した。
「お見事。スキル的にも剣と相性がよさそうだったな」
斬撃を飛ばす『鎌鼬』とパッシブ系の『斬れ味倍加』。
どちらも使い勝手がよさそうで、犬猿雉トリオの戦闘スタイルにも合っていた。
「たしかにでしゅ。今までで一番、しっくりきたでしゅね」
「『聖属性(小)』も何か楽しかったッス」
「だぜ。まあでも、やっぱり一番はステータスの敏捷の倍増がありがたいな」
無傷で勝利を収めて、三人揃って満足そうな顔で言う。
そんな犬猿雉トリオを代表して、またドゥッチョのステータスを確認すると――次の通りだ。
【名前】 ドゥッチョ
【種族】 犬人族
【年齢】 十五歳
【職業】 村人
【レベル】22
【HP】 476/505
【MP】 171/201
【攻撃力】 502
【防御力】 380
【知力】 144
【敏捷】 455
【スキル】
『鎌鼬』
『斬れ味倍加』
『聖属性(小)』
ヒルダラ山脈から場所を移して、すぐに次の強化に成功。
防御力のみ少し下がったものの、ガスパロの言葉にもあったように敏捷は倍増だ。
こうして、またおチビな犬猿雉トリオ――トオル隊の『三獣刃』は強くなったのだった。
◆
「……お、俺の第六感が叫んでいるぞ。これは本当に近いと」
思わぬ収穫を得たあと、トオルたちは再び『迷いの森』をいく。
出くわす魔物はあまりいない。
ただその中でも、発見した魔物はすべて『小聖獣』の異名持ちだった。
そして、東に進めば進むほど酷くなる空気のジメジメ感。
肌に纏わりつくような不快なそれが増す一方で、唯一、魔物の力をコピーしていないマルコが、
「何だか霧が徐々に晴れてきたのでありますね」と、ただ一人見えてしまっている、邪魔な霧の改善の報告をしてきた。
――つまり、何かが近い。
『迷いの森』に足を踏み入れてから約四時間。
現状の変化を理解したトオルたちは、より慎重になって進んでいくと――。
「「「「「!?」」」」」
最初から視界が確保できているトオルたちも、霧が晴れたと感じるマルコも。
五人の目に飛び込んできたのは、森の中にあった異質すぎる存在だ。
明らかにこの『迷いの森』全体に広がる嫌な空気の発生源。
二メートルほどの崩れかけた石壁に囲まれて、遠くの方まで同じく崩れかけた建物が見えている。
「またちょうど正面っぽい場所に……。いや、というか本当にあったのか!」
実は話は聞いていても、心の隅で疑問は持っていたトオル。
だがどうやら本当らしい。聞いた情報すべてにおいて。
ボロボロの壁の内側には現在の住民たちがウヨウヨといて……一言で形容するなら死者の国だ。
元ザッパローリ男爵家の領地、その唯一の街。
トオルたちがたどり着いたのは、アンデッド族の手によって陥落して巣窟となった――亡都ザパハラールだった。
これまでに登場した魔物の強さの並びです。
グランドドラゴン
オーガ
異名持ちマンティス
異名持ちオーク、ミノタウロス
ケーブナーガ
ジャイアントスパイダー、ブラッドベア
オーク、トレント
ギャングウルフ
ワイルドボア、キラーラビット
ゴブリン、コボルド




