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第38話 迷いの森

「何かまたツイていないな……。移動はちょっとした鬼門なのか?」


 領都イザベリスを出発してから丸一日。

 馬車に揺られて東に広がる森に入ったところで、トオルたちは自分の足で歩いていた。


 馬車が進める道はある。……ただ肝心の馬車が故障してしまったのだ。


 これで二回で二度目。

 前回はイザベリスの手前で壊れたのだが、今回は序盤も序盤で徒歩になってしまっている。


「仕方ないのであります。とりあえず歩いて、通りかかった馬車に乗せてもらうのでありますよ」


 ――というわけで森の中を歩いて進む。

 幸い森の中の歩きはカンナ村時代に鍛えられているので、そこまで苦痛というわけでもない。


「んで、ずっとこの道を進めばいいわけだけど……。こっちが例の森なんだな? マルコ」

「はい。『迷いの森』であります」


 しばらく進んで、先頭のトオルが後ろにいるマルコに聞く。


『迷いの森』。

 それは現在、トオルたちが進んでいる森の一部のことを指している。


 目指すは東のアドルナート領。

 だから東に真っすぐいけばいいのだが……ことはそう単純ではない。


 森の中を走る馬車道は南に大きく迂回する形だ。

 なぜなら『迷いの森』が森の中央に存在するため、突っ切ることはできなかった。


「霧が出てくるんだっけ? それであまり深く入ると確実に迷う、と」

「はい。その通りであります」

「でもあれ? 全然、霧なんてないでしゅよ?」

「「……え?」」


 と、ここで。

 マルコを中心に囲んだダイヤ型の陣形で進む中、左側にいるドゥッチョがそう言った。


 ふと見てみれば、普通に『迷いの森』に足を踏み入れていたドゥッチョ。

 好奇心のままにさらに入っていくも、また「霧なんてない普通の森でしゅよ?」と言う。


「い、いや、ドゥッチョ。そんなはずないのでありますよ?」

「……どれ。ちょっと確認してみるか」


 困惑顔のドゥッチョを見て、続いてトオルも『迷いの森』へ。

 するとたしかに人を迷わず霧などなく、普通の森とまったく違いがない。


(魔物は迷わないけど、人間だけは迷う不思議な森……じゃないのか?)


 同じように入ったフィリッポとガスパロの口から出たのも、普通の森だ。


 本当ならば王国一の特殊な環境。

 イザベリスで聞いた話では入ってすぐに霧が現れ、奥に行くにつれて濃霧になるところ、


 いくら進んでも霧など皆無。

 木々の密度を考えれば、むしろ北の森の方が迷うだろう。


「え? 皆、何を言っているのでありますか? 普通に霧はあるのでありますよ?」

「「「「……え?」」」」


 だが、ここでまさかの事態が発生した。


 最後に入ったマルコだけは、手で空気を仰ぎながら、すぐに霧が現れたと主張したのだ。


「いやマルコ、何を言っているんだ? 空気はめちゃくちゃ視界良好の極みだろ?」

「え? いやトオル殿……。ドゥッチョたちもこの霧が見えないのでありますか?」


 ……そのあと、何度やってもかみ合わないトオル&犬猿雉トリオとマルコの会話。


 なぜこんなことに? 『迷いの森』とは何ぞや?


 馬車の故障という不運の次は――見える見えないの謎の展開となってしまった。



 ◆



「……なるほど。つまりそういうことか」


 しばしの森の会議を開いた結果。

 普通の森と『迷いの森』の境界線にいたトオルたちは、一つの答えを導き出した。


 おそらく、原因はトオルの職業のパパラッチだ。


 その固有スキルの『モンスターパパラッチ』。

 これによって魔物の力をコピーしているために、トオルと犬猿雉トリオは霧が見えないと思われる。


「人と違って魔物は迷わない。だから魔物の力を持つ俺たち四人だけが大丈夫だったのか」

「そう考えると辻褄が合う気がするのであります」


 ……謎は解けた。多分。

 であるならば、このあと取るべき行動についてだが……。


「なら思い切って突っ切るか? 霧もないし鬱蒼としていないし、念のため木に印をつけながら進めばいけそうだぞ」

「たしかにでしゅ。霧が見えちゃうマルコは真ん中にいれば大丈夫でしゅしね」

「オイラたちにはバッチリ見えてるッスからね」

「だぜ。はぐれる心配はないな」


『迷いの森』を含むこの森はそこそこ広い。

 だから道通りに迂回してしまうと、かなりの遠回りになってしまう。


「私も特に異論はないのであります。四人が見えているなら、心強いのでありますよ」


 唯一の純粋(?)な人間であるマルコは特に提案を嫌がらず。


 こうしてトオルたちは『迷いの森』を突っ切ることになったのだが……実はトオルにはショートカット以外の理由もあった。


「何領だっけ? ほら、『迷いの森』にあったっていう貴族の領地って」

「ザッパローリ男爵領でありますね。二十年ほど前になくなったのであります」


 昔、ここ『迷いの森』にあったという貴族の領地。

 その領主であるザッパローリ男爵は、特殊な職業から今のトオルたちのように霧の影響を受けなかったらしい。


 そして、誰の領地でもなかったこの地を王様から任された。


 インザーギとアドルナートの二つの大きな伯爵領。これらに挟まれる形で、特に問題なく領地を運営していた――ところに悲劇が起きる。


「アンデッド族の襲来でしゅか」

「あの手の魔物は突然、湧いて出てくるって聞いたッス」

「ま、まあ俺は別に怖くないぜ?」


 二十年前に起きたアンデッド族のスタンピード。

 それによって街は陥落し、ザッパローリ男爵家も住民たちも全滅したと言われている。


 ……これらの情報は一人の行商によるものだ。

 迷って街にたどり着き、変わり果てた街の姿を発見。そして運よく森の外に出られたからこそ、伝わった話である。


 だから実際にいつ起きたのか、正確なところは不明のまま。

 それでも男爵家からの連絡が一切、途絶えたのは事実だ。


 このことから約二十年前に、唯一の街にして領都はアンデッド族の巣窟となったと言われている。


「……運よく近くまでいけたら見にいってみるか。真東に向かっていれば突き当たるかもだぞ」


 ほんの少しの怖いもの見たさ。

 ガスパロだけは明らかにビビっているが、まあ森は広いので近くに見えない限りはスルーの予定だ。


 ――そんなこんなで、道から外れて『迷いの森』を東へと進むトオルたち。


 霧はなくても肌に纏わりつくような嫌な感じはある。

 その中できちんと木に印をつけながら、念のために『回避の腕輪』をつけさせたマルコ以外は、きちんと視界を確保できたまま歩いていくと――。


「……え? ウソだろ?」


 東を目指して約二時間。正面に見えたのは、噂をしていた陥落した領都ではなくて。


『迷いの森』に生息する昆虫系の魔物が三体。

 群れとなってトオルたちの前方に現れたのだが……ちょっとおかしい。


 なぜか? それはこの魔物たちのステータスを見れば分かる。



【名前】 マンティス

【種族】 マンティス族

【異名】 小聖獣


【HP】 430/430

【MP】 150/150

【攻撃力】 448

【防御力】 331

【知力】 109

【敏捷】 405


【スキル】

『鎌鼬』

『斬れ味倍加』

『聖属性(小)』



 三体すべてが異名持ち。


 ごく稀にいるはずのその個体が、トオルたちの行く先に複数体、存在していた。

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