第36話 まだまだ村人強化
「またいつ巻き込まれるか分からないからな。できる時にやっておこう!」
伯爵からの褒賞(と風呂)を受け取った翌日。
スタンピードでの傷や疲労が完全に癒えたトオルたちは、その原因が起きたヒルダラ山脈へとやってきていた。
まだあれから四日とあって魔物の数は激減しているが……それでもポツポツといる魔物たち。
そんな狩り場でやるのは、スタンピード前にやっていたことの続きだ。
「さあやるでしゅよ!」
「もっと高みへッス!」
「まだまだ止まらないぜ!」
レベル30で覚えた『パパラッチギフト』による犬猿雉トリオの強化。
より正確にいえば、戦う力などない最弱の村人を強化するのだ。
現在の犬猿雉トリオの力は、剣士のマルコと同じトレント級(オーク級)。
レベルの方は少し上がって15(マルコは18)と、まだ下級職の冒険者の平均レベル程度しかない。
……だから安心感など皆無だ。
もっと格上の魔物をコピーしなければ、この危険と隣り合わせの世界を冒険することは厳しいだろう。
「装備の方はバッチリだしな。あとはコピーするのみだぞ」
「でありますね。領主軍やほかの冒険者を見て、やはり大事なのだと再確認したであります」
その前の下準備については問題なし。
褒賞金によって手持ちが一千万ゼニー以上となり、トオルたちは装備を一新させていた。
武器も防具もすべてが魔鉄製。
魔力を保有する魔法金属の一種で、鋼鉄よりも頑丈で上等な素材だ。
今まではトオルの槍だけだったところ、マルコたち四人の片手剣も、また全員の胸当て、籠手、脚甲も魔鉄製のものに買い替えている。
――ちなみに、実はほかにも変わったことが一つ。
それは冒険者ランクだ。
防衛戦での功績を受けて、ギルド長権限で特別にトオルのランクがDに上がっている。
さらに、犬猿雉トリオの処遇についても変更が。
いくら戦えても職業が村人なので、冒険者登録ができなかったのだが、
「トオル隊の『三獣刃』も冒険者に」と、伯爵の厚意でギルド側に話をつけた結果。
特例中の特例が認められて、晴れてEランク冒険者となっていた。
「頑張るでしゅよ!」
「伯爵には大感謝ッスね!」
「さすがトップに立つ男は分かってるぜ!」
「おっ、張り切っているな。……じゃあ早速、いきますか。次の狙いは山脈のジャイアントスパイダー級だ!」
――こうして、冒険者が三人増えて五人パーティーに。
パパラッチのトオル率いるトオル隊は、力強い足取りで山を登っていく。
◆
『グルゥウウウ!』
数日ぶりに再開された犬猿雉トリオの強化作戦。
その最初のターゲットは、スタンピードでもちらほらといた二メートル半級の魔物だ。
ブラッドベア。
血を被ったような目の色と体毛が特徴的な、トレントの一つ格上の魔物である。
――パシャパシャパシャ!
見つけた個体の十メートル圏内に近づき、トオルは『村人フィルム』で撮影に成功。
グランドドラゴン級の防御力(『竜鱗硬化』のパッシブ付き)で爪を受けると、その体勢のままドゥッチョに上書き保存して、ステータスをコピーさせた。
「ぬぬぬッ! 受け取ったでしゅよ、トオル隊長!」
ブラッドベアの力を受け取ったドゥッチョは即座に行動を開始。
村人分も合わせて300超えの攻撃力だ。
その力にも支えられて、毎日しっかりと鍛え続けている剣術で攻撃を見舞う。
『グルゥウッ!』
「もう一丁! でしゅ!」
ステータスと剣術で上回り、村人ドゥッチョはジャイアントスパイダーと同等の強さを持つ魔物と戦う。
その勝負の結果は予想通りだ。
ブラッドベアの固有スキルも使って、魔鉄剣を血の色に染めたドゥッチョが勝利を収める。
と同時にレベルも1上がって16に。
犬猿雉トリオの中で頭一つ抜け出した状態となった。
「じゃあ次はオイラの番ッスね! さあいくッスよ、トオル隊長!」
「くっそ! 何でこの順番に決まってるんだぜ!? また俺が最後かよ!」
「はいはい。やるから。だから見つけるのをちゃんと手伝うんだぞー」
まず一人目の最初の強化を終えて、トオルたちは次のブラッドベアを目指す。
今回は戦闘よりも捜索に時間がかかり、急な斜面からの滑落にも気をつけるなど、移動において大変な作業となってしまったが……。
何とか見つけて、撮影して保存してコピーして。
犬猿雉トリオ全員が仲よくブラッドベア級となったのだった。
「……ちょっと休憩するか。もう何だかんだで昼だし、腹減りの極みの一歩手前だぞ」
「では、安全そうなあそこで休むのであります」
と、ひとまず第一段階の強化を終えたところで。
マルコが見つけた岩陰に入り、トオルたちは昼休憩を取ることに。
今日の昼食は山盛りフライドポテトだ。
定宿の『銀の灯火亭』の奥さんに教えて、作ってもらったものを持ってきていた。
「そういや昨日、フライドポテトの屋台もできていたな。帰りに味見しに寄ってみるか。……もぐもぐ」
「考案者のトオル殿直々のチェックでありますね。きっと店主は緊張するのでありますよ。……もぐもぐ」
イザベリスで徐々に流行り始めたフライドポテト。
元の世界の時から大好物だったトオルをはじめ、今ではマルコたちの大好物にもなっている。
そうして、腹を休めてまた強化作戦を再開。
次の狙いはミノタウロスだ。
マルコの仕入れた情報では、異名持ちオークと同等の力を持つ魔物である。
スタンピードではあまり見かけなかったが……果たして三体いてくれるかどうか。
「ここから少し東にある尾根の方だな。んじゃ、撮影しにいきますか」
トオルを先頭にまた進むトオル隊。
今ではもう一番弱い存在となってしまった参謀のマルコを中央に、ダイヤ型の陣形となって山脈をいく。
――結局、この日は夕暮れ時になって、ようやく三体目のミノタウロスをコピーすることに成功。
カンナ村が襲撃される前のトオルの強さに並んだ犬猿雉トリオは、夕日に向かって拳を突き上げて喜んだ。
その三人を代表して、現在のドゥッチョのステータスはというと、
【名前】 ドゥッチョ
【種族】 犬人族
【年齢】 十五歳
【職業】 村人
【レベル】 17
【HP】 275/468
【MP】 95/164
【攻撃力】 469
【防御力】 390
【知力】 109
【敏捷】 241
【スキル】
『倍反撃』
『突進崩し』
まさに職業が村人とは思えないステータスの高さ。
現時点でも疑いの余地なく、村人としては世界最強の存在となっていた。
これまでに登場した魔物の強さの並びです。
グランドドラゴン
オーガ
異名持ちオーク、ミノタウロス
ケーブナーガ
ジャイアントスパイダー、ブラッドベア
オーク、トレント
ギャングウルフ
ワイルドボア、キラーラビット
ゴブリン、コボルド




