表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/71

第33話 五体目と

「ご、五体目……?」


 その情報を聞いてトオルも救護班も呆然としてしまう。

 驚きすぎて静まり返った救護テントに、連絡係の男の声がまた響き渡る。


「五体目の地竜だ! 軍勢から遅れてやってきやがったんだ!」


 二度目のそれを聞いて、今度は驚きの声に染まる救護テント。


 ベッドの上で意識があった負傷者さえも「勘弁してくれよ……」と、弱々しい声を上げた。


(そもそも四体の時点で過去最悪だったはずじゃ? どれだけ最悪のスタンピードだよ!?)


 ……あの怪物がもう一体。冗談じゃない。

 実際に戦ったトオルだからこそ、この場で誰よりも自体の深刻さを痛感してしまう。


 ――さらにここで、連絡係の男からまた衝撃の情報が。


「さすがのテオさんでも無理だった! 皆のために二体目と戦って……敗北しちまったんだ!」

「「「「なっ!?」」」」


 南門を任された中心戦力のテオの敗北。


 それすなわち死亡を意味し、止められる者がいなくなった南門は、もう突破されるのが時間の問題だった。


 今は付与師の障壁と門の耐久性で耐えているも……強力なブレスを二度も喰らえば終わりだ。


「では西門にいる軍団長は!?」

「ほかの連絡係がいったが間に合うかどうか……! 西は数も多くて一番激しい戦場だからな」

「ならば北門のヴァンニは!?」

「ダメだ。途中で東門の援護にいったから、軍団長と同じで間に合うか分からない!」

「くっ! じゃあどうするんだよ!? 南門が突破されて魔物がなだれ込んでくるぞ!」


 救護テントで怒号にも似た声が飛び交う。

 想定外をさらに上回る想定外に、救護をする者もされる者も不安に支配されていた。


 ――だがその時、すでに一人の男が動いていた。


「と、トオルさん!」

「ちょ、おい黒髪!」

「む、無茶だってオイ!」


 そう、トオルだ。


 休んで多少は疲労が抜けたトオルはイスから立ち上がると、

 一緒に運んでもらっていた槍を持ち、南門に向かって走り出していた。


 実力的には自分がやるしかない。

 位置的にも軍団長やA級冒険者よりも近い位置にいるのだ。


(けどイケるか? さすがに今回は本当に時間稼ぎだけだぞ……!)


 疲労は抜けきっておらず体は重い。

 何よりMPを回復してくれるみどり神官、オネエ冒険者のディーノも今はいないのだ。


 そもそも自分より強いベテラン重戦士(レベル52の上級職)のテオでも止められなかったことを考えれば……。


 だとしてもやらなければ。

 あの時のカンナ村とは違い、自分は手が届く距離にいるのだから。


(――――、)


 トオルは全力で走る。

 街の中央から大通りを進み、曲がり角は最短ルートで突っ走る。


 そうして五十メートル先に南門が見えて、さらに近づいて鉄製の門に亀裂が入っているのを確認した直後。


「!?」


 鼓膜を破らんばかりの轟音が響き、ガラガラと形を失って崩れる門の向こうに。


 小さいキラーラビットやギャングウルフに混じって、ぶ厚い門を破壊した犯人――グランドドラゴンの姿があった。



 ◆



「……さあて、どう立ち回るかね。俺も街も危機的状況の極みだな」


 ついに南門が突破されてしまった。

 足の速い小さい魔物たちは街の中に入っていくが、トオルは意識をそっちには向けない。


 自分の相手はグランドドラゴンだ。

 百歩譲ってほかの魔物はいいとして、この大型の魔物だけは街中で暴れさせてはならない。


 ズシンズシンと、突破した門から敵が石畳の上を前進してくる。


 まさかの五体目。

 実際にその現実を前にして、覚悟を決めたはずのトオルの心が折れそうになる。


 ――だが、神はトオルを見捨てなかった。


 グランドドラゴンと邂逅してすぐ、トオルに強力な援軍が? ――否、この場に誰も来てはいない。

 トオルを見捨てなかったのは、何を隠そう自分自身パパラッチだった。


《発見した魔物を撮影しますか?》


「…………え?」


 聞こえてきたのは天の声。

 自分の力の源であり、だが東門の戦場では絶望を知らせたその声が。


 聞き間違いでも何でもなく、《発見した魔物を撮影しますか?》と聞いてきたのだ。


 ……けれどなぜ?

 二つ以上格上の魔物は撮影しても保存できずないはずだ。


 東門の個体を苦労の末に倒して、トオルのレベルは二つ上がってはいる。

 ただどう考えても、それだけで天の声の内容が変わったとは思えない。


「まさか、倒したからか? ……倒した事実がそうさせたのか?」


 少し頭が混乱してしまう。

 それでも目の前に迫る大きな脅威を前に、出す答えなど決まっていた。


「(なら、もらうぞ)」


 ブツブツと、さらに小さな声で呟く。


 その声はグランドドラゴンには聞こえない。聞こえたとしても理解できるはずがない。


 トオルという小さな標的を視界の中央に捉えて、強者の余裕でゆっくりと接近する中、

 パシャパシャパシャ! という奇妙な音を聞き、不快に感じたグランドドラゴンが喰らいつこうと動いて――。


『グルォオオオ……ッ!?』


 瞬間、グランドドラゴンの黄土色の巨体が大きく後退した。

 トオルに噛みつくことは許されず、派手に門の方へと押し返されたのだ。


「…………、」


 黙ったまま、右の正拳突きのような格好を取っていたトオル。

 その拳から放たれた一撃により、敵の硬い牙が一本、折れていた。


『グルォオオオオ!』


 ここでグランドドラゴンは理解した。


 自分よりも弱いはずの、小さい存在の雰囲気が突然、変わったことに。

 そして今、何のスキルを使ってきたかということに。


 一瞬にして生まれ変わったトオルは――戸惑う強敵を前に不敵に笑う。



【名前】 篠山トオル

【種族】 人間

【年齢】 二十五歳

【職業】 パパラッチ


【レベル】 32

【HP】 649/912

【MP】 465/701

【攻撃力】 843

【防御力】 860

【知力】 676

【敏捷】 668


【スキル】

『モンスターパパラッチ』

『パパラッチギフト』

竜鱗りゅうりん硬化』

地鳴息クエイクブレス



「……お前が五体目なら俺が六体目だ。かかってこんかい、大トカゲ!」



 ◆



 激戦区の西門。

 最も襲来した魔物の数が多いその場所から、軍団長のステファノは全速力で離れていた。


「何という未曽有の事態だ! 山脈に住まう神の怒りに触れたとでもいうのか!?」


 報告を聞いた時は目眩めまいがした軍団長。

 五体目が現れてからの南門の危機を知り、現在、西門を任せて現場に急行している。


 西門に関してはもう問題はない。

 最初こそ数に手こずりはしたものの、城壁を利用した包囲網が上手くハマり、勝利は揺るぎないものとなっていた。


(だが一つでも突破されてしまえば……! 何とか間に合ってくれ!)


 そう強く祈って走る軍団長。


 西から南へと街中を移動して、聖騎士の固有スキル『常時小回復』で体力を回復しつつ、

 最短ルートで南門に向かっていき、そこで領主軍最強の男の目に映ったのは、


「!?」


 残念ながらすでに破られていた南門。

 街に侵入した魔物との戦いが各所で勃発しているが……軍団長が驚いたのはそこではない。


 南門の外側だ。

 間違いなく門を破壊した犯人のグランドドラゴンが、なぜか街の外で戦っていたのである。


(どうなっている? 破壊して一旦、外まで退いたというのか?)


 わけが分からない軍団長はとにかく門の外へ。

 最も警戒すべき元凶の魔物の現状確認のため、急いで街から出てみたところ――。


 築かれた魔物の死体の山と、倒れた仲間たちの血の海の中で。


 軍団長が次に見たのは、ただただ信じがたい光景。


 右の拳から『地鳴息クエイクブレス』を放ったトオルと――ついに倒れた傷だらけのグランドドラゴンの姿だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ