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第32話 混乱

「ちーと手こずっちまったな。……けどまあ、さすがは俺ってか」


 領都イザベリスの四つの門にて、押し寄せた魔物の軍勢との戦いが始まって十分が経過。

 そのうちの一つ、北門の中心戦力であるヴァンニは、息絶えたグランドドラゴンを前に呟いた。


 ――やはりA級冒険者、最上級職の実力は伊達ではない。


 成人とともに神から授かった職業は拳王けんおう

 単発の攻撃力自体はそこまで高くはなくても、固有スキルも使って単独討伐に成功していた。


「軍団長のステファノはとっくに勝ってんだろーな。アイツは攻撃力も高めな聖騎士だし」


 ヴァンニは両拳のナックルガードをゴツン、とぶつける。

 元凶のグランドドラゴンはもう討伐したため、あとは残った有象無象を片づけるだけだ。


 だからこその余裕の声と表情は――すぐに崩れることとなった。


「やばいぞ、ヴァンニ! 東門にも四体目の地竜がいったみたいだ!」

「ハァ!? 四体目だと? そりゃ冗談きちーぜオイ!」


 普段から背中を預けるパーティーメンバーからもたらされた情報。


 街中を走って四つの門を行き来する、連絡係から伝え聞いた話によれば、

 予想だにしなかった四体目のグランドドラゴンを確認。しかも東門にいってしまったとのことだ。


(あそこは戦力的にゃー一番薄いところだ。放置しちまえば取り返しのつかねーことになるぞ!)


 報告を聞いて冷静に考えるヴァンニ。

 西門に続いて二番目に激しいと思われる北門前の戦況を見て、ほんの数秒、思考を巡らせた末に。


「チッ、こうなりゃー仕方ねえ! 一旦、俺はここを抜けるぞ! あとは任せていいか?」

「ああ問題ない。地竜さえいなけりゃ何とでもなる!」


 どこか一つの門でも崩れれば防衛作戦は失敗だ。

 魔物が街になだれ込んで市街戦になれば、街や住民に大きな被害が及んでしまう。


 ゆえに即断即決したヴァンニは北門を離れた。


 西門の軍団長もすでに地竜は倒したはず。

 だが機動力と門との距離を考えれば、北門にいる自分がいくべきだと判断する。


「おい、そこの連絡係! 東門の状況はどーなってる?」

「はっ。現時点ではまだ崩れていません。門にも被害は及んでいないです!」

「……マジか。やるな。となると地竜を押さえ込んでるのは……!」

「新人冒険者のトオルです。腕狩りの一味を壊滅させた彼ですね」

「だろーな。やるじゃねーか、黒髪の小僧!」


 東門に戻る途中だった連絡係と並走しながら情報をもらうヴァンニ。

 それを聞いて一安心すると同時に驚かされてから、一気に速度を上げて東門へと急行する。


 ――そうして、住民の避難で静まり返った街中を走り、二分とかからず現場に到着。


 攻撃を仕掛ける魔法兵や弓兵がいる城壁に上がり、そこでヴァンニが見たものは――。



 ◆



「おーおう! マジで東門ここにもいやがるじゃねーか! あと想定よりもその他大勢の数も多いな!」


 北門に負けず劣らず東門も激戦となっていた。

 魔物の死体の山が築かれた中、まだ生き残っている魔物たちは門を突破しようと群がっている。


 その激戦地の門の前から、百メートル近く離れた場所に。

 グランドドラゴンと戦う一人の男と、サポートをしている別の男の姿があった。


「たしかに黒髪の小僧だな。んでもう一人は……うげっ、ディーノの野郎か。まあそれはいいとして……」


 硬いグランドドラゴンに対して、槍を捨てたトオルは何度も炎だけを放っている。

 かたや緑神官のディーノがMPの回復を行っている、というのはヴァンニもすぐに理解できた。


 ただ一点、どうしても気になるのは……。


「ありゃ本当に『鬼火』じゃねーか! 魔物の力を使えるってのはウソじゃねーらしいな」


 トオルが放つ紅蓮の炎の球体、『鬼火』を見てヴァンニは驚く。


 高い威力を誇り、爆発も伴うオーガの灼熱の攻撃。

 それはグランドドラゴンの皮膚を焼き、確実にダメージを与えていた。


 来たばかりのヴァンニは知る由もないが、すでに七十発以上。

『鬼火』とMP回復を続けて、動きから見てもグランドドラゴンはかなり弱ってきている。


「回避も速ぇーし大丈夫そうだな。んじゃー俺は掃除の方を手伝ってやるか!」


 城壁から飛び下りて東門チームに加勢するヴァンニ。


 まず向かったのは、この戦場では珍しい犬猿雉の獣人トリオのところだ。


 なぜかトレントの『青葉刃あおばじん』や『木震撃もくしんげき』を使ったことには驚かされるも、疲れから動きが鈍った三人のピンチを救う。


 次に向かったのは、その近くにいた茶髪&そばかすの青年のところだ。

 二体のギャングウルフに挟まれて苦戦していた状況を、他人よりも小柄な体を躍動させて、一瞬にして拳一つで打開してみせた。


 ――北門と同じく、東門でもすでに犠牲者は出ている。


 それでも街を守るため、振り返らずに仲間の屍を越えて魔物を駆逐していく。


「ぬおおおお! もうそろそろ焼け死ねの極みッ!」

「いっけー! トオルちゃん!」


 それはスタンピードの元凶だろうと例外ではない。

 退却ではなく仕留めるべく、トオルはディーノと力を合わせて戦い続ける。


『グルォオ……ッ!』


 顔を中心に火傷だらけとなった巨体の動きは明らかに鈍っている。

 高い防御力と800以上のHPを、回避しながら地道に焼いて削っていき――……。


 ズズゥン、と。格下であるはずの鬼の力(炎)によって。


 ついに力尽きたグランドドラゴンは、門から離れた戦場に沈んだ。


「……か、勝った……」

「よく頑張ったわね。ギリギリの勝利とはまさにこのことだわ……」


 一対二だろうと卑怯でも何でもない。

 下剋上を果たしたトオルは、まだ周囲が戦闘中だというのに、疲労からその場に片膝をついてしまう。


 ……とにもかくにも、これで最大の脅威はなくなった。


 あとは残る軍勢を最後の一体まで駆逐するのみだ。



 ◆



 無事にグランドドラゴンを討伐したトオル。

 その後、門の前で戦うマルコたちに合流しようとするも……脚がもつれて倒れてしまう。


 ダメージではない。綱渡りの戦いで溜まった極度の疲労によるものだ。


「ま、まだ戦え……」

「ダメよ、トオルちゃん! さあこの子を頼んだわよ、お兄さん!」

「はい! 我々にお任せください」


 ディーノに背負われて城壁の上まで撤退。

 そこで救護班に引き渡されたトオルは、一足早く戦場から離れることに。


 トオル自身は情けなく思ってしまうも……決してそんなことはない。


 むしろ誇るべきだ。

 コピーできない格上の強敵を倒したおかげで、東門チームは崩壊しなかったのだから。


 こうして救護班によって運ばれたトオルは、街の中央に構えた臨時の治療テントへ。


 とはいえ、大したケガもダメージもない疲労だけだ。

 トオルはほかの負傷者のためにベッドを断り、イスに座って休むことに。


(四人とも絶対に死ぬなよ。カンナ村の皆の分まで生きると決めたんだからな!)


 東門にいるマルコたちにそう強く念じながら。

 トオルは救護員にもらった水を飲み、一応、配布されたポーションも飲んでおく。


 さらに、深い呼吸を意識して目も閉じて、一秒でも早く疲労を抜こうと試みる。


(――……よし。これならそろそろ……!)


 そうして三分ほどが経ち、まだ終わらない防衛戦に戦線復帰を考えたトオルの耳に。

 南門の方から走って来た連絡係が――悪夢のような知らせを告げる。


「まずいぞ! 負傷者が一気に増えちまった! 五体目の地竜が現れて……もう南門が持ち堪えられそうにない!」

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