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第3話 職業&スキル考察

「いやはや、ゲームと現実じゃ大違いだな。早く慣れればいいけど……」


 異世界に転移して小一時間ほどが経った。

 どうせ救助もないので見知らぬ森を歩き始めたトオルは、遭遇したゴブリンをさらに二体、倒している。


 魔物は普通に存在していても、幸いだったのはこの森が薄暗くないことだ。


 今は太陽が昇っていて頭上の木々もそこまで深くない。

 だからちゃんと陽の光が地上まで届いて、精神衛生的には最悪の状況ではなかった。


「それにしても、俺の職業はパパラッチか。……はあ」


 ゴブリンから奪った木の棍棒片手に、トオルは自分の職業とそのスキルについて考える。


 職業はパパラッチ。覚えているスキルは『モンスターパパラッチ』。

 すでに元の世界のパパラッチとは違い、剣と魔法(と魔物)の異世界仕様なのは理解している。


 発見した魔物を撮影、からの保存でステータスをコピー。

 それが自分の基本ステータスに上乗せされて、対象となった魔物分の力を手に入れる、というわけだ。


「……ただなあ。一瞬、楽々最強コースだと思ったんだけどなあ」


 一見、トオルも強い職業だと思った。

 上位の魔物を発見して撮影さえすれば、一気にステータスが跳ね上がるのだから当然だ。


 ――だが、ことはそう単純ではなかった。


 しっかりと警戒しながら森を歩いて小一時間。

 これまでに判明している職業とスキルの情報はこんな感じだ。


一、撮影するには魔物との距離が十メートル以内。

二、保存できる魔物は一体のみ。新しい魔物は上書き保存される。

三、あまり格上だとそもそも保存できない。


「撮影距離はいいとして。一体だけの縛りと、魔物が格上すぎると保存できない点がキツイぞ。……まさにガックリの極み」


 つまり、別にチート能力ではない。


 一気にドラゴンを保存コピーして最強クラス、あるいは弱いゴブリンを大量に保存コピーして最強に至る、という手法は取れないのだ。


 一体づつ確実に、きちんと段階を踏んで強くなっていく職業だった。


「イビキを掻いて寝ていたオークは無理だったからな。ゴブリンなら寝ていても大丈夫だったのに」


 ため息をつきそうになるのをグッと堪えるトオル。

 あの謎の天の声から《発見した魔物は保存できませんが撮影しますか?》と聞かれた時は、思わず膝から崩れ落ちそうになったほどだ。


 種族的に不可能なのか、ステータスの差で不可能なのかまでは不明。


 ただどちらにせよ、結果として無理なものは無理だった。


「とにかく、地道にやるしかないか。俺が強くなるにはこの『モンスターパパラッチ』頼みだ。ゴブリンを三体倒してレベルが2になっても、あまりステータスは上がっていないし」


 レベルが一つ上がっても、全ての能力値が1~2増えただけ。


 一番伸びそうなHPまでこのありさまだ。

 なのでやはり、パパラッチ自体のステータスはかなり弱いのは確定だった。


「……はあ。まあ配られたカードで頑張りますか」


 我慢していたため息が出てしまったトオルは、少し重い足取りで森を歩いていく。



 ◆



「おおお! やっと見つけたぞ! これぞ不幸中の幸いの極み!」


 さらに一時間が経った頃。

 道も分からず森を彷徨い、ステータスもゴブリン+自分のままなトオルの前に、それは姿を現した。


 ――恐ろしい魔物ではない。むしろ生きていくためには必要なものである。


 川だ。

 森を流れる幅二メートルもない小川が、緑の中に静かに存在していた。


「しかも凄まじく透き通ってやがる。あの人の言葉を借りるなら……悪魔的に美味そうだぞ」


 死と隣り合わせの緊張感から喉がカラカラだったトオル。

 すぐに小川に駆け寄ると、喉を鳴らしてゴクゴクと胃に流し込んでいく。


「ぷっはあ! 美味い。生き返る!」


 これで水分補給は完了。再び歩き続けられるだろう。

 本当なら水筒に補給したいところだが……あいにくそれはできない。


 実は異世界転移をした際、服以外のリュックやスマホといった持ちものは手元になかったのだ。


「とりあえず小川に沿って進もう。もし村があるなら、きっと川の近くにあるはずだ」


 棍棒を握りしめて、活力を取り戻したトオルは進む。

 第一の目標は魔物が跋扈するこの森からの脱出。途中で人に出会えればなおよし。


 それに並行して、弱肉強食な生存競争に打ち勝つためにも。

 撮影して保存できる、ゴブリンよりも少し格上の魔物を見つけてステータスを上げたいところだ。


 ――――…………。


 そうして、またさらに一時間。

 遭遇したゴブリンや同格のコボルド(二足歩行の犬)を倒して、あまりうま味のないレベルアップで3になり、ステータスを微増させたあと。


(……うん? 何だこの足音は?)


 離れたところから聞こえてきた、地面を叩く足音。


 それは徐々に大きくなってきている。

 しかもドスンドスン! と、明らかにこっちの方に向かってきていた。


 ……オークだったらかなりマズイ。何せ今のトオルでは撮影しても保存できないからだ。

 ゴブリンやコボルドはHPを除き、個体差はあれど、どの個体も10~20のステータスだった一方で、


 発見した爆睡中のオークは200前後。低かったMPと知力でさえ50近くあったのだ。


(別の種族で頼む! あんな剛腕の豚が相手じゃ死ぬって!)


 一際大きな木陰に隠れながら神様に祈る。

 そんなトオルがいる場所に接近し、激しい足音とともに茂みから現れたのは――。


『フゴォオオ』


 二メートル大の人型の豚、ではなく猪。

 体高一メートル半ほどの立派な体躯の猪が、木陰に隠れたトオルを通り過ぎて小川までやってきた。


(よかった。オークじゃなかったか。あと水を飲みにきただけか……)


 心の中でホッとしつつ、トオルは現れた猪を見る。


 おそらくはコイツも魔物だと思われるが、果たしてどれくらいの強さなのか。


 木陰からの距離はちょうど十メートル。

 猪を観察するパパラッチなトオルの目に――ブゥン、と猪のステータスが表示された。



【名前】 ワイルドボア

【種族】 ボア族


【HP】 125/125

【MP】 40/40

【攻撃力】 91

【防御力】 88

【知力】 22

【敏捷】 104


【スキル】

 なし

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