第27話 村人を強化しよう
「――予想通りか。これはだいぶ俺たちにとって大きいぞ」
レベル30で新たに覚えた固有スキルの『パパラッチギフト』。
その効果を把握したトオルは現在、山脈の麓で犬猿雉トリオの強化作戦を行っている。
「うおお! でしゅ!」
「今のオイラなら負けないッスよ!」
「漲る力のままに! だぜ!」
すでに全員がゴブリン級、をさらに一つ超えてキラーラビット級へ。
北の森でいうワイルドボア並の魔物を三体、撮影・保存して自分の力に。
そのまま倒して経験値も得て、今は犬猿雉トリオの全員がレベル6になっていた。
「す、スゴイでありますね。このままだとオーク級の私はすぐに抜かれるのであります……」
「ま、まあ落ち込むなって。マルコは戦うだけじゃない。俺の頼れる参謀だからな」
『パパラッチギフト』はなぜか最弱の村人限定だ。
マルコは職業が剣士なので、その恩恵を受けることはできない。
そんな肩を落として落ち込むマルコを励ましつつ、トオルは仲間の強化作戦を続行する。
次の狙いは一つ格上となるトレントだ。
オークと同等の強さの魔物を三体コピーして、犬猿雉トリオ自身に戦わせる予定である。
ちなみに、この情報はマルコのおかげだ。
今、トオルが装備している魔鉄の槍や、犬猿雉トリオの革鎧を店で買っている間に、
ギルドに一人残って、受付嬢や閲覧可能な本から情報を仕入れてくれていた。
「じゃあ、次はトレントだな。ステータスをガンガン上げていこう」
「はい、でしゅ!」
「了解ッス!」
「どんどんいくぜ!」
より強い魔物を求めて、ヒルダラ山脈を登っていく
途中の邪魔な魔物はここまでに倒した魔物と同じく、女聖騎士カーティアの従者オスカルにもらった魔法袋に収納する。
――そうして、麓から五百メートルほど。
最低のEランク冒険者ならば、絶対にいかない標高まで登ったところで。
『ミシミシミシィ……!』
鳴き声というより軋む音。
全身からその乾いた音を鳴らした、殺人大樹(約五メートル)のトレントに遭遇した。
《発見した魔物をどちらで撮影しますか?》
「『村人フィルム』で頼む」
――パシャパシャパシャ!
《撮影した魔物をどの村人に保存しますか?》
「まずはドゥッチョだ」
「……むぅ! また漲ってきたのでありましゅ!」
十メートル圏内に入れば、十秒とかからずにトレント級が一人誕生。
早くもマルコの強さに並んだドゥッチョは、犬な鼻をヒクヒクさせて喜ぶ。
オークと同等の強さ(ステータスは200前後)で、固有スキルは二つ。
『青葉刃』と『木震撃』。
その二つもしっかりとドゥッチョのステータスに反映されていた。
(ふむふむ。スキルもバッチリってか)
普通なら他人のステータスは確認できない。
ただ『パパラッチギフト』の対象となった者のステータスのみ、トオルも見られるのだ。
「これでまた強くなったのでしゅ。――『青葉刃』!」
叫び、ドゥッチョが早速、初めての固有スキルを使う。
村人には何の固有スキルもないため、猛烈に喜んでいるドゥッチョ。
そんなドゥッチョの右手から現れた複数の葉の刃は、トレントの巨体に襲いかかって木の体を傷つけた。
「うおおッス!」
「か、カッコイイぜ!」
ドゥッチョに負けず劣らず盛り上がるフィリッポとガスパロ。
二人にも「オイラも俺も!」と催促されたトオルは、このあときっちりトレント二体をパパラッチしたのだった。
◆
「まさに戦力の充実だな。それじゃ今度は懐具合もさらに充実させますか」
ヒルダラ山脈の向こうに日が沈む頃。
イザベリスの冒険者ギルドに戻ったトオルたちは、受付カウンターに今日の戦果を提出する。
「え!? トオルさんって登録したばかりのEランクですよね!?」
駆け出しのEランク冒険者は基本、あまり受付嬢には覚えられていない。
ところがトオルは珍しい黒髪黒眼(と額から顎にかけての大きな傷)もあって、名前も顔もバッチリと覚えられていた。
「そうです。ランク的には依頼は受けられませんが、実力的には問題ないので狩ってきました」
驚きのあまりイスから転げ落ちそうな受付嬢に、頬笑みながら正直に答えるトオル。
魔法袋から出したのはトレントやキラーラビットの魔石や樹皮や牙だ。
トレントが五体とキラーラビットが二十体以上。それはEランク冒険者としてはあり得ない質と量である。
……あとゴブリンに関しては、大した金にはならないので捨て置いてきていた。
「いやあ、大収穫の極みでしたよ。やっぱり山脈って魔物が多いですね」
「え、ええ。それはそうですが……。というかEランクで魔法袋を持っているんですか!?」
また驚く受付嬢。容姿端麗なその顔には多くのシワができるほどだ。
――とにもかくにも、トオルたちは得た素材を換金してもらう。
依頼は受けておらず、討伐による報酬がなくても問題なし。
たった一度の冒険者活動で、余裕で五人分の一日の宿代や食費は賄える。
「もしかしてパパラッチって最上級職なのですか? 初めて聞きますし、最初は何かの間違いかと思いましたが……」
「うーん、どうですかね。そこは正直、俺も分からないです」
登録する時に変な水晶に手を当てたので、トオルの職業はギルド側にバレている。
それでも登録自体は問題なかった。
どれだけ強くなっても「規則ですから」と、また登録を拒否されてしょんぼりする犬猿雉トリオの村人とは違うらしい。
「――お、ちょうどよかった。戻っていたか、黒髪黒眼の新人!」
「……ん?」
と、トオルが素材を売却した分のお金を受け取っていたら。
受付カウンターの奥から、一人の独眼片腕の男が出てきてトオルに話しかけてきた。
「あなたは……たしかギルド長ですよね?」
「そうだ。実は君宛てに預かったものがあってね。それを渡しに来たのさ」
突然、ギルド長が出てきてギルド内の空気が引き締まった中で。
ギルド長はポカンとしたままのトオルに、一枚の封をされた手紙を手渡した。
……自分宛てに預かったもの? しかも受付嬢に預けないでわざわざギルド長が直々に?
はて何だろうと困惑するトオルに、ギルド長は立派な口髭をイジりながら、
「ウチの領主様からだ。ぜひ君に会いたいらしい」
手紙の差出人はまさかの領主。
読む前にギルド長からのネタバレによれば――ここインザーギ領を統治する、インザーギ伯爵からの屋敷への招待だった。




