第26話 パパラッチギフト
「んんん? これってまさか……?」
領都イザベリスを訪れて冒険者登録もした翌日。
街の西側に存在する冒険者たちの狩り場、ヒルダラ山脈に来ていたトオルに――ある変化が起きていた。
買い換えた魔鉄の槍(鋼鉄より硬い魔法金属。六十五万ゼニー)を片手に、手始めに麓の魔物を討伐。
そして何体か倒したところで、トオルのレベルがついに30となったのだ。
「どうしたのでありますか、トオル殿?」
「いやさ、レベルが上がって……新しい固有スキルがついているんだよ」
一緒に来ていたマルコに聞かれて、トオルが自分のステータスと睨めっこしながら答える。
ステータスの能力値部分は相変わらずパパラッチの微増分だけ。
だが最後のスキルの欄に、一つ見覚えのないものがあったのだ。
【名前】 篠山トオル
【種族】 人間
【年齢】 二十五歳
【職業】 パパラッチ
【レベル】 30
【HP】 646/648
【MP】 463/464
【攻撃力】 647
【防御力】 633
【知力】 429
【敏捷】 579
【スキル】
『モンスターパパラッチ』
『パパラッチギフト』
『鬼火』
『狂角醒』
「『パパラッチギフト』って何だ? 相変わらず説明文なしの極みだけど……」
「どうしたんでしゅか? トオル隊長」
「何やら新しいスキルとか聞こえたッス」
「おおっ、そりゃどんなのか楽しみだぜ!」
と、ここで犬猿雉トリオもトオルのもとへ。
北の森よりも魔物の強さは山脈の方が上なので、ここは村人には危険すぎるのだが……。
「鬼狩りの旅の時だって一緒だったから!」と言って聞かないので、仕方なく連れてきていた。
そんな三人も含めて、新しいパパラッチの固有スキルについて考える。
ギフトというワードから、その効果を予想していると――。
『グギャギャ!』
「……ったく、変なタイミングで現れるやつだな」
世界中どこにでもいるゴブリンが登場。
北の森よりは微妙に大きい緑の小鬼が、醜悪な笑みを浮かべて近づいてきた。
「ここは私が。トオル殿は休んでいるのであります」
ゆっくりと接近するゴブリンに、マルコが剣を構えて前に出る。
――その時だった。
《発見した魔物をどちらで撮影しますか?》
ゴブリンが十メートル圏内に入った瞬間。
トオルの脳内に流れたのは、もはや聞き慣れた天の声と、初めて聞くセリフだった。
「ちょ、ちょっと待った! マルコ!」
「え? どうしたのでありますか?」
今にも一撃でゴブリンを斬り捨てようとするマルコを制止。
急いで手招きをして戻るように指示してから、トオルは脳内で天の声と向き合う。
……どちらで撮影ってどういうことだ?
これまでの撮影をする際の天の声は、
《発見した魔物を撮影しますか?》か《発見した魔物は保存できませんが撮影しますか?》のどちらかだった。
それがどちらで撮影しますか、と聞いてきたのだ。
少し違う聞き方に戸惑うトオルの脳内に――次はステータスのように文字が浮かんでくる。
『パパラッチフィルム』
『村人フィルム』
ブゥン、と表示された謎の二択。
それはパパラッチと村人の名がついたフィルムなるもので、どうやらこの二つは異なるもののようだ。
(まさかこれ……? とりあえず『村人フィルム』で!)
オーガ級のパパラッチなトオルが今さらゴブリンを撮影する意味はない。
ならば選ぶのは一択のみ。
トオルが心の中でそう呟くと、あのパシャパシャパシャ! というシャッター音が周囲に響く。
そして、撮影が終わった天の声は――次にこう聞いてきた。
《撮影した魔物をどの村人に保存しますか?》
◆
『グギャギャ……ッ!』
「うるさい。ちょっと考え中だから黙っていろって」
襲ってきたゴブリンの棍棒を叩き落とし、首を掴んで持ち上げるトオル。
そうして相手の動きを封じながら、また脳内に表示された文字を見る。
『ドゥッチョ』
『フィリッポ』
『ガスパロ』
表示されたのは犬猿雉トリオ。つまり村人の三人だ。
どの村人に保存するのかと聞き、この表示が出てきたということは……。
「なるほど。『パパラッチギフト』ってそういう感じなのか」
一切の説明はなくとも理解したトオル。
試しに一番最初のドゥッチョを選び、心の中で「ドゥッチョに保存する」と呟いた直後。
「な、なな何でしゅか!?」
ドゥッチョの灰色モフモフな全身が一瞬、小さく光った。
さらにドゥッチョは突然のことに驚きつつも、急に自分の全身に漲る力を実感する。
「その反応と今の光だと、ゴブリンの力が無事にコピーされたみたいだな」
「え? コピーって……トオル隊長がいつも言っているあのコピーでしゅか!?」
仲間としてパパラッチの固有スキル『モンスターパパラッチ』は知っているドゥッチョ。
特に説明は受けずとも、コピーと聞けばすべてを理解できている。
「どぅ、ドゥッチョまで魔物の力をッスか!?」
「『パパラッチギフト』って……そういう能力なのか! なるほど納得だぜ!」
同じく状況を理解したフィリッポとガスパロ。あともちろんマルコも。
つまり、魔物の力をトオルを通してコピーできる。
魔物の力をステータスに上乗せして、一気に強くなれるというわけだ。
だから今のドゥッチョはゴブリン級だ。
まあ村人(レベル3)でもゴブリンは倒せるが、一撃二撃では倒せない相手である。
――そんな相手に対して、
「とう! でしゅ!」
トオルが離したゴブリンに向かって、ドゥッチョは片手剣を二度、振るう。
すると初撃で首を裂き、二撃目で切断寸前までいっていた。
……やはりステータスは上がっている。
ゴブリンという弱い存在でも、コピーして村人に上乗せされれば、目に見えて強さの違いが分かった。
こうなれば……やることは一つ。
冒険者にはなれない最弱の村人が、『パパラッチギフト』によって強くなるのならば。
「よし、皆。ちょっとあと二体ほど別のゴブリンを探そうか!」
戦いにおいてはただの足手まといだった、犬猿雉トリオの強化作戦が今、始まった。




