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第22話 旅立ち

「トオル殿!」

「「「トオル隊長!」」」


 太陽が最も高く空に昇った頃。

 戻ってきたトオルの姿を見て、マルコ、ドゥッチョ、フィリッポ、ガスパロの四人が一斉に駆け寄っていく。


 ――ここはカンナ村跡地。

 六十七人の村の人たちが眠るその場所に、トオルは無事に帰ってきた。


「ただいま。必ず勝つって言っただろ? そのための一カ月だったからな」


 笑みを浮かべて、マルコたちに出迎えられるトオル。

 四人はトオルが腕狩りの一味を倒すまで、信じてその帰りを待っていた。


「本当は我々も一緒に戦いたかったのでありますが……。トオル殿の足を引っ張るわけにはいかないでありますからね」


 職業が村人の犬猿雉トリオに戦う力はない。マルコもオークをやっと倒せるくらいの実力だ。


 だから今回の魔力狩りの一味との戦いは、すべてトオル一人で行われたのである。


「それでトオル隊長。腕狩りは手強かったでしゅか?」

「ん、まあそこそこだ。結局、全力は出さなかったしな。もっとビビると思ったけど、やっぱりオーガとの死闘と比べれば、な」

「そうだったんスね。ところで今、トオル隊長が持っているのが……その腕狩りッスね」

「ああ、主犯格のクソ下衆野郎だ」


 ドゥッチョとフィリッポに聞かれて、トオルが静かにうなずく。


 腕狩りの異名を持つかしらのラウロ。

 いくつもの悪行を繰り返したこの賊の首には、当然のごとく懸賞金が掛けられている。


 ……ただトオルたちの目的は金ではない。それはあくまでおまけだ。

 討伐を証明する首をもってインザーギ領内の人々、ひいては王国の国民全員を安心させるためである。


(けど、だいぶグロいからな……。気持ちが落ちついた今では、絶対に見たくないの極みだぞ)


 というわけで、討ち取った首を麻袋に入れて持ち帰ってきたトオル。


 もうさっさと手放したいので、早く森を出て最寄りの街のイザレーナに向かいたいところだ。


「……その前に。最後にもう一回、手を合わせていこう」

「はい、であります」

「うん、でしゅ」

「心を込めてやるッス」

「最後のお別れだぜ」


 立てた墓標の前までいき、トオルたちは手を合わせて祈る。


 ここを出たらもう戻るつもりはない。

 一度、自分たちの手で村を再興することも考えたが……最終的には北の森を出て新たな生活をしよう、と皆で決めていた。


(皆の分まで精一杯、この世界で生きようと思います。天国から見守っていてください)


 最後の別れを終えて、いざカンナ村跡地を出発するトオルたち。


 まず目指すのはイザレーナの領主軍の支部だ。

 討伐対象が魔物なら冒険者ギルドだが、今回は賊なのでそっちに首を持っていく。


 異世界転移してから約四カ月――。トオルは始まりの地である北の森から旅立つのだった。



 ◆



「おおー! やっぱりこういう感じなのか!」


 インザーギ領内第二の街、イザレーナ。

 北の森の南に位置するその街に、三時間ほど歩いてトオルたちはやってきた。


 何だかんだで森から出なかったトオルにとって、この世界で初めてとなる街だ。


 剣と魔法の世界らしく高い城壁に囲まれており、門の前には鎧姿の二人の門番が立っている。


 そのイザレーナの門では、特に並ぶことなくスムーズに通行の許可が出された。

 そうして、門をくぐって活気ある街の中へと入ると、


「ひ、人が多いな。あと建物も石造りか! というか色んな人種がいるんだな!」

「……ちょい、トオル隊長。めちゃくちゃ田舎者感丸出しだぜ?」


 はしゃぐトオルにガスパロが言う。

 王都ならまだしも、なぜイザレーナくらいで我らが隊長は楽しそうなのか? と不思議に思うガスパロだ。


 ともあれ、人々の活気と屋台のいい匂いが漂ってくる中、トオルたちは領主軍の支部を目指す。


 犬猿雉トリオはこの街の孤児院育ちだ。

 なので三人に案内されて、街の大通りを進んでいたら――。


「と、トオル君!? マルコもいるのか!」

「うん?」


 突然、後ろから掛けられた声に振り向くトオルたち。

 するとそこにいたのは見知った顔、人のよさそうな若ハゲの男が立っていた。


「あ、コズモさん!」

「よかった、君たちは無事だったのか! てっきりダメだったのかと……!」


 行き交う人々もお構いなしに駆け寄ってくるコズモ。

 このコズモは十日に一度、カンナ村に来ていた、村とは長い付き合いの行商だ。


「ええ、俺たちは外出していて無事でした」

「そうか、本当によかった! いつも通りに村にいったら、村は破壊されて墓まで立っていたから……!」

「伝えていなくてすみません。ちょっと色々あって……」

「コズモさんは村の恩人でもあるのであります。村で何があったのか……ちゃんとお話するのであります」


 再会を果たしたトオルたちは、休憩もかねて近くにあった酒場へ。


 コズモは犬猿雉トリオとは初対面なので、まず三人を紹介してから。

 まだ食べていなかった昼食を皆で取りながら、村で起きたことをすべて伝えた。


「まさか腕狩りとは……。だから家まであんな酷いことになっていたのか」

「はい。でもコズモさんに皆の亡骸を見せずに済んだのは……よかったです」

「……そう、だな。関わりのあった村の人たちの惨い姿を見るのは……。墓を立てて弔ってくれてありがとう。皆もきっとそう言っているはずさ」


 涙ながらに話を聞いていたコズモが頭を下げる。


 そして今回の元凶となった、憎き男の首が入った麻袋を見て。

 コズモは鋭い目を向けてから、すぐに優しい目をトオルたちに向けた。


「改めて感謝するよ。仇を取ってくれてありがとう」

「いえ、当然のことをしたまでですから」

「トオル君が強いのは知っていたが、まさかここまでの強者とは……。これから領主軍のところにいくんだろう?」

「はい。腕狩りの悪夢は終わったと、そう知らせるまでが俺の仕事ですから」

「フフ、そうだな。とにかくまた会えてよかった。ここは私に奢らせてくれ」


 最後に握手を交わして、再会したコズモと別れる。


 今後の予定もコズモには伝えているので、もう会うことはないかもしれない。


 ――その後、トオルたちは領主軍の支部で腕狩りのラウロの首を持参。


 最初こそ冗談だと思われたが、コズモにより伝わっていたカンナ村の件に加えて、

 提出された本物の首を見て、すぐに討伐が認められた。


 また途中で出てきた支部長からは、トオルがまだ冒険者ではないと知り、

「ならばぜひ領主軍に! 正義の心を持つ実力者は大歓迎だ!」との熱烈な勧誘が行われたが……。


 それは丁重に断って、掛けられていた懸賞金(四百万ゼニー)だけを受け取って支部を出た。


(……思った以上に大物だったな。一気に懐が温かくなったぞ)


 巾着袋の中には、村では見なかった大金貨が三枚と金貨が十枚。

 この臨時収入でしばらくは安泰なトオルたちは、今日はひとまずイザレーナに泊まる予定だ。


 そして明日の朝に出発を。

 もし冒険者になるにしても、結局、ここでの狩り場は同じ北の森になるからだ。


「目指すはインザーギ領で一番デカイ街。――領都イザベリスだ!」


 より大きな街へ。もっと広い世界へ。


 もうスマホなど持っていない元無名インスタグラマーは、未知なる景色を心のシャッターに写すべく、剣と魔法の異世界をいく。

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