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第16話 洞窟の邪魔者

「さあやるでしゅよ、トオル!」

「いざ尋常に勝負ッス!」

「磨いた俺のカッコイイ剣技を受けるんだぜ!」

「はいはい。分かったから。……というかお前ら、やたら元気だけどちゃんと畑仕事は手伝ったのか?」


 犬猿雉の獣人トリオとの出会いから一週間。

 てっきりイザレーナの街に帰るのかと思いきや、ドゥッチョもフィリッポもガスパロも、揃って普通にカンナ村に居座っていた。


 ……ちなみに寝床はトオルの家だ。

 ほかに空き家はなかったので、仕方なくトオルが受け入れた格好である。


(まあ、村長もオーケーしたしな。手狭にはなったけど、おチビなモフモフだから別に嫌でもないし)


 そんなドゥッチョたちに親はいない。全員がイザレーナの孤児院育ちだ。


 成人すると出なければならない決まりなので、それで三人は冒険者になろうとしたのである。


「とう、でしゅ!」

「おりゃッス!」

「喰らえだぜ!」

「っと。少しはサマになってきたな」


 レベル3の村人三人を同時に相手取るトオル。

 ただステータス面で絶望的な差があるため、ケガには細心の注意を払いながら木槍を振るう。


 ここ最近、毎日やっている実戦稽古だ。そして三人が持っているのは木剣である。


 トオルは最初、自分と同じ扱いやすい槍をやらせようと思ったのだが……。

 物理なら剣一択! と譲らなかったので、三人の武器は剣になっていた。


「――よし、じゃあ今日はここまで。俺はちょっと村長に話があるから先に体を拭いとけよー」


 何だか兄みたいに言って、一時間ほどで稽古を切り上げたトオルは村の中心にある村長の家へ。


 事前に伝えていたマルコもここで合流だ。

 二人で村長の家に入り、土間から居間へと靴を脱いで上がる。


「してトオルよ、話があるとは珍しいのう。もしやおチビ獣人たちのことかのう?」

「いえ違います。話とはジャイアントスパイダーの糸に代わるものについてです」

「ほう。糸に代わるものとな?」


 村長の言葉にうなずくトオル。

 隣のマルコも一緒にうなずき、持ってきていた北の森の地図を広げた。


「やっぱり村の名産品的なものは必要かと思いまして。貴重な糸を手放して得た、この異名持ちオークの力で……あるものを手に入れようかと」

「村長、ここを見てほしいのであります」

「ふむ、ここは……。なるほどのう。さらに強くなったトオルの力で、アレを手に入れようというわけじゃな」


 マルコが指差した地図上の地点を見て、すぐに何のことかを理解した村長。


 腕組みをしてうむ、と大きくうなずくと、妻のレベッカが出したお茶で喉を潤す。


「昔は手に入っておったのじゃ。あやつが現れてからは、一切手出しできなくなってしまったがのう……」

「話は聞いています。だからその邪魔者をそろそろ退場させようかと」

「今のトオル殿なら、それが可能であります」

「たしかにのう。これが成功すれば、また村の名産品となってくれるはずじゃ」


 トオルとマルコの提案に、村長はニコリと笑って許可を出した。


 その後、詳細を詰めていく三人。

 ……だがこの時、トオルもマルコも村長も気づいていなかった。


 家の玄関にぴったりと張り付いて、三人の獣人モフモフが聞き耳を立てていたことに。



 ◆


 ――ザッザッザッ。


 一夜明けて、使命を帯びたトオルとマルコが北の森をいく。

 地図を片手にいつもの装備を纏い、目的地への最短ルートを歩いていた。


 方角は北東。カンナ村からは三時間ほど離れている場所だ。

 ただ地図以外にも昔つけられた木々の印もあるため、トオルとマルコが迷う心配はない。


「あと半分くらいか。森は深いけど思ったより魔物はいないな」

「でありますね。まあ出てきたところで、トオル殿の相手ではないのであります」


 行程は至って順調だ。

 ほとんど槍の出番もなく、蛇のように大木の根がうねった、特に歩きづらい区域に入って……しばらくしてから、


「痛っ! でしゅ!」

「ぐへッス!」

「し、しくったぜ!」

「……え!? この声は!」


 突然、後方から聞こえた声に振り返るトオル。


 するとそこにいたのは見覚えのある三人。

 根に足をひっかけて、折り重なって倒れた犬猿雉トリオがいた。


「ドゥッチョにフィリッポにガスパロ! お前らここで何やっているんだよ!?」

「まさか私たちをつけて来たのでありますか!?」


 予想外の事態に慌ててしまうトオルとマルコ。

 一方、すぐに立ち上がった犬猿雉トリオはというと、


「もちろんでしゅ。ずっと後ろにいたでしゅよ!」

「だって昨日、何か楽しそうな村長との話を聞いてたッスから!」

「なのに俺らを置いてくなんて酷いぜ!」


 一切の悪気なく、年齢の割におチビな体を反り返らせて答えた。


「……ったく、相変わらずだな。森は危険だって何度も言ったのに」

「……これは油断したのであります。全然、気づかなかったのでありますよ」


 見つかったので駆け寄ってくる三人を見て、トオルとマルコはため息をつく。


 きちんと叱ってやろうとも思ったが……ここはもう森の中だ。

 さらに言えば、三人の存在に気づかなかった自分たちも悪いといえば悪い。


「こうなったら仕方ないか。いや本当に困ったの極みだぞ」


 すでに半分以上の行程を進んでしまっている。

 ここから戻るのも面倒だし、三人だけで村に帰すのも危険すぎる。


「今度は離れずについてくるんだぞ? じゃないと守れないからな」

「もちろんでしゅ!」

「了解ッス!」

「よろしく頼むぜ!」


 ――というわけで、半分以上進んでからメンバーが増加。


 図らずも賑やかになったトオルたち一向は、残りの道のりを進んでいき――何とか無事に目的地へとたどり着いた。



 ◆



「ここか。たしかにほかとは様相が違うぞ」


 たどり着いたのは巨大な岩場だ。

 今まで何十、何百と見た大木の代わりに、その巨大な岩場が森の中に存在していた。


 この場所に例の邪魔者がいる。

 おチビな犬猿雉トリオにお喋り禁止を言い渡してから、トオルを先頭に岩場に沿って東へと移動していく。


「トオル殿、あったのであります」


 それを先に見つけたマルコの声に、トオルは指し示された方向を見る。


 あったのは洞窟だ。

 縦横三メートルはある大きな洞窟の入口が、岩場にポツンと存在していた。


「ふむ。じゃあ始めるか」


 ……ただし、その暗くて危険そうな洞窟内にはまだ入らない。

 枯れた枝葉を大量に用意して、トオルたちは洞窟の前で火を焚き始める。


 ――そうして、洞窟の前で待つことわずか三分。


『ジャララァアア……ッ!』


 煙によって苦しそうに洞窟から出てきたのは、全長十メートル近い一体の黒い大蛇だ。


 この大きな蛇の魔物こそが今回のターゲット。

 カンナ村にとって重要だった洞窟を、数年前から寝床にしている邪魔者の正体である。



【名前】 ケーブナーガ

【種族】 ナーガ族


【HP】 361/361

【MP】 152/152

【攻撃力】 330

【防御力】 321

【知力】 148

【敏捷】 290


【スキル】

『毒液』

穿牙せんが



 ステータスに穴はなく、どれも高くて優秀な値だ。

 またMP、知力、敏捷に関しては今のトオルを上回っている。


「……けど悪いな。本来なら次の撮影対象はお前だったんだけども!」


 マルコとともに岩陰に避難した犬猿雉トリオが、ケーブナーガの恐ろしい姿に悲鳴を上げる中。


 たった一人、洞窟の前に残っていたトオルは――不敵に笑って槍を構えた。

登場した魔物の強さの並びです。


異名持ちオーク

ケーブナーガ  ←new

ジャイアントスパイダー

オーク

ワイルドボア

ゴブリン、コボルド

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