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第14話 異名持ち

「糸の恩恵はもう充分、受け取ったのう! それよりも大事なのはトオルたち村人の命じゃ!」


 危険な戦場近くまで出てきた村長が叫ぶ。

 普段のだらしない感じはない、歳に似合わぬその力強い声は、確実にトオルへと届いていた。


「……、頼む」


 一人うなずき、背中を押されたトオルは即座に決断した。


 すなわち、天の声への撮影許可だ。

 パシャパシャパシャ! と響くシャッター音に続いて、


 上書き保存をするか? という問いに、トオルは再び「頼む」と答えた。


『ブモォオオ!』


 体格こそ同じでも、通常種の倍のステータスを誇る異名持ちオークが吼える。

 武器である石の棍棒を振り上げて、スキル『強打』を発動した一撃を見舞おうとする。


 その標的となったトオルは笑う。

 ジャイアントスパイダー戦以来となる、全身に漲る力を受け取ったことで。


「ぬぬう!」


 オークの棍棒が振り下ろされる寸前、トオルも『強打』を発動した槍で迎え撃つ。


 凄まじい衝突音を生み出した攻防は互角。

 上から振り下ろす分、威力に勝るはずのオークの一撃は――パパラッチ(レベル15)分のステータスで相殺されていた。


『ブモォ!?』

「……そりゃ驚きの極みだよな。さっきは簡単に弾き飛ばした相手なのにな!」


 すぐさま鋼鉄の槍を構え直すトオル。

 そんなトオルの現在のステータスは、次のように変化している。



【名前】 篠山トオル

【種族】 人間

【年齢】 二十五歳

【職業】 パパラッチ


【レベル】 15

【HP】 358/458

【MP】 140/140

【攻撃力】 447

【防御力】 424

【知力】 88

【敏捷】 228


【スキル】

『モンスターパパラッチ』

『強打』

『自然回復』



 いくつか下がった能力値はあれど、それを補って余りあるステータス。

 400を軽く超えた攻撃力をもって、トオルはオークに槍の連続突きを見舞う。


「どうだ! 今度は効くだろ、豚野郎ッ!」

『ブモォォオ……ッ!』


 ぶ厚く硬い皮膚が傷つくどころか、普通に肉まで貫通する。

 MP10を消費してスキル『強打』(威力が一・五倍)を使えば、槍の先端は一気に骨まで到達した。


「そもそもお前! こんな真夜中に襲ってくるなよ迷惑だろ! あと異名が『怪力王』のくせして、スキルが『自然回復』って何だよコラ!」

『ブモ、ォオオオ!』


 ずっと訓練を続けていた槍の技と、少し上回るステータス。

 それによって逆に押し始めたトオルは、異名持ちオークに確実にダメージを与える。


 ……どうやら『自然回復』は思ったほどは万能ではないようだ。


『強打』とは違うパッシブスキルで、魔力を消費しない点は優秀ではある。

 ただし、皮膚の傷程度ならすぐに治っていたところ、骨まで到達するほどの深い傷の治りは遅かった。


「「「「「おおおおぅ……!」」」」」


 トオルvs異名持ちオーク。

 その戦いを見ている者たちは、誰一人として割って入れない。


 ブルーノもマルコも、ほかの魔物狩りの男衆も。

 武器自体は構えつつも、ハイレベルな戦いに見入ってしまっている。


 だが、それが正解だ。

 レベルが10台の下位職では、共闘さえもジャイアントスパイダーまでが限界だった。


「……何という強さじゃ。分かっているつもりじゃったが、パパラッチという職業は……ワシらが思っている以上かものう」


 まだ勝負はついていない。

 それでも今のトオルの強さと頼もしさを見て、村長はうなるように言う。


 ――と、次の瞬間。トオルの槍が異名持ちオークの右目に突き刺さった。


 片目を潰された痛みに悲鳴を上げる相手に、トオルは容赦なく鍛えた槍で突く、突く、突く。


「お前の敗因は俺に撮影と保存、つまりコピーされたことだ。もっと強くてそれが不可能だったら、詰んでいたのはこっちだったな」


 太い首の三分の一が槍による刺突で削がれる。

 大量の血が周囲に飛び散る中、オークは必死でスキル『強打』を発動し、何とかトオルを仕留めようとするも、


「『強打』!」


 それを冷静に同じスキルを使って相殺。

 ステータスの攻撃力では上回っていても、通常攻撃では受け切れないのでタイミングを合わせて使った。


「今ので十回目か。お前のMPは101だから……勝負あり!」


 叫び、トオルが一気に勝負を決めにいく。


 まだあと三回、スキルを使えるトオルは惜しまず立て続けに使う。


 そうして連続三回。怒涛の槍の『強打』を首に喰らった異名持ちオークは――自らの血の海に沈んだのだった。



 ◆



「……ふぅ、」


 夜の静寂を破った襲撃が終わった。

 その原因が異名持ちオークという強敵だったこと考えれば、奇跡的に死者は一人も出ていない。


 最初に盾ごと吹き飛ばされた見張り二人も無事だ。

 着地の衝撃でどちらも片足を挫いてしまうも、特に命には別状がなかった。


 そんな彼らの発見からの鐘を鳴らした行動の早さも、死者が出なかった原因の一つである。


「っと、さすがは珍しい異名持ちだな。……レベルが2も上がっているぞ」


 中でも別格の働きをしたのは、一人で討伐してみせたトオルだ。


 最初こそコピーするか迷ってしまったが、村長の言葉で決断。

 スキル『モンスターパパラッチ』で異名持ちオーク級となり、ほかの者の助けを借りられない状況でも、問題なく勝ってしまった。


 そのトオルの発言通り、倒した直後にレベルアップして17に。

 下位職でも15からはオークでは上がりづらいところ、一気に2も上昇だ。


 ――この点から見ても、いかに異名持ちオークが規格外だったのかが分かる。


「ほっほっほ。よもやあんなバケモノを単独で倒してしまうとは驚きじゃのう」

「あ、村長。さっきは背中を押してもらってありがとうございます」

「何、ワシは大したことはしておらんのう。……改めて言うが、もう充分すぎるほどに村に貢献してくれたのじゃ。たとえ貴重な糸であっても、村人の命には換えられないのう」


 さらに村長は笑いながら「何より、男ならより強さを追い求めるのじゃ!」と付け加える。


 やはり村長はトオルの心を見透かしていた。

 目の前の強さとお金になる糸。その二つを天秤にかけて、どっちを選択するか迷っているのを一瞬で理解していたのだ。


「村長の言う通りだぜ。トオルよ、もうあの大蜘蛛に戻さなくていい」

「でありますね。珍しい異名持ちオークでありますし、糸のためにステータスを落とすのは……。私がトオル殿の立場でも躊躇ってしまうのであります」


 今度はブルーノとマルコがトオルに声をかける。


 そのブルーノは労うように、村を守ったトオルの肩に優しく手を置く。


「にしても、だ。アレを一人でやっちまうとは……こりゃ遥か遠くの雲の上までいっちまったなあ」

「いやいや、そんな俺を剣聖とか賢者みたいに……。ブルーノさんから聞いた最上級職はもっとバケモノでしょう?」

「うーん、まあそうだけどよ」


 トオルの言葉を受けて、夜空を見上げたブルーノに、つられたトオルもまた満月を見上げる。


 ――世界にはまだ上には上がいる。それは人間も魔物も同じだ。


 今回の異名持ちオークの比ではない強さを誇るドラゴン族。

 それを斬り殺せる者もいれば、一発の魔法で地形すら変える者もいる。


(間違いなくパパラッチは恵まれた職業だけど……。チートと騒いで天狗になるのは愚の極みだぞ)


 ステータスという目に見える自分の強さを実感しつつも。


 元の世界と同様に、この異世界の広さと高さを実感するトオルだった。

これまでに登場した魔物の強さの並びです。


異名持ちオーク

ジャイアントスパイダー

オーク

ワイルドボア

ゴブリン、コボルド

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