第10話 ジャイアントスパイダー級
「まずは脚ッ!」
『ギチチィイイ……ッ!』
対象のステータスとスキルを撮影・保存に成功した。
これで晴れてオーク級からジャイアントスパイダー級へ。
強化されたトオルは高まった敏捷から接近すると、高くて狙いにくい腹よりも先に、まずは脚の一本に槍の刺突を見舞う。
同じく高まった攻撃力で貫通、とまではいかずとも、
鉄の槍は長くて太い(あと毛深い)脚を大きく傷つけることに成功した。
「小せえ方は任せろ! いくぜ、お前ら!」
「「「おう!」」であります!」
少し遅れて、オークの首を投げ込む担当だったブルーノたちも戦場へ。
狙うのは八体いる邪魔な野犬サイズの子蜘蛛。
親と同じで赤と黒のまだら模様の体で、ワイルドボアよりも少し弱い程度の相手に、全力で斧や剣や槍で攻撃を加え始める。
『ギチ、ギチィイ!』
瞬間、怒り狂った様子のジャイアントスパイダー。
自分への攻撃よりも子蜘蛛への攻撃に怒ったようだ。
最も近いトオルではなく、マルコの方を狙おうとする。
「させるか!」
それを察知したトオルが、また高い敏捷を活かしてマルコとの間に割り込む。
そして、槍みたいな刺突の脚と自分の槍をぶつけ合う。
鉄並に硬い脚と鉄の槍が正面衝突すると、わずかにジャイアントスパイダーの方が押された。
――ステータス分の差だ。あとは一週間、槍の腕を磨いた分もある。
さっきの先制攻撃のように大きく傷つけることは叶わずとも、確実に力で押し勝っていた。
「『粘着糸』!」
『ギチィイ!?』
間髪入れずにトオルがまた仕掛ける。
次は新しく手に入れたばかりの固有スキルだ。
ジャイアントスパイダーなら尻から出すところ、人間であるトオルはというと、
糸の出し方をなぜか理解できている思考に従って、一旦、槍を離した左手を前に突き出した。
直後、掌より数センチ手前の虚空から糸が射出される。
長さはおよそ三メートル。人間の小指ほどの太さもある白い糸が、勢いよく真っすぐに飛んでいく。
狙ったのは脚ではなく顔面だ。いくつもある目の部分に『粘着糸』が着弾した。
「さすがに自分の糸を喰らうとは思っていなかったか。まさにビックリの極みだろ?」
目隠しをされて焦った様子のジャイアントスパイダー。
前側の脚を二本使って粘着性の糸を取ろうとする隙に、トオルはまた別の脚を刺突して大ダメージを与える。
これで八本中二本の脚を封じることに成功だ。
高い位置にあった球体の大きな腹が少し下がり、槍でも狙いやすい位置になる。
「の前に、また顔!」
ジャイアントスパイダーが『粘着糸』を取ったそばから、再び同じ糸を射出。
明らかに慌てて不慣れな対応をする相手に――今度は立て続けに別の糸を使う。
「『鉄糸』!」
『ギチィイイッ……!』
頭と腹の境目あたりに、鉄並に硬い糸が直撃する。
こちらも小指ほどの太さの白い糸だ。
幸いジャイアントスパイダーは脚を止めて視界の回復に必死だったので、これ以上ない完璧な形でヒットした。
「『溜め斬り』!」
一方、子蜘蛛を相手にする四人も順調だ。
戦士のブルーノは斧に魔力を溜めての一撃。
オークでいう『強打』に当たる、威力が上がるスキルを発動して二体目を仕留めた。
「『疾風剣』であります!」
剣士のマルコはスキルで剣速を上げた一太刀を振るう。
勢いよく飛びかかって来た子蜘蛛を深く斬り裂き、こちらも二体目を仕留めた。
ほかの槍士二人も同じく、職業の固有スキルを発動して子蜘蛛に向ける。
その一撃で腹に風穴をあけて、これで問題なく四人で二体づつを討伐。
一足先に仕事を片づけると、残る親玉のジャイアントスパイダーを睨む。
「いけるぜ! 一気にたたみ掛けようじゃねえか!」
リーダーのブルーノの声が飛び、トオルに加勢する四人。
トオルは『粘着糸』で執拗な目隠しを行う。
ブルーノたちはその隙に、皮鎧を纏っていても危険な、槍のような脚を一本一本、潰していき――。
『ギチ、ィ……』
ズシン、と地面に落ちた大きな腹。
そこへブルーノたちの容赦ない猛攻撃が加わる中で、
「トドメだ!」
蜘蛛の頭に突き刺さったトオルの槍。
上書きされてオークの『強打』は失われるも、その分、上がった攻撃力で頭を貫いた。
――こうして、恐ろしいジャイアントスパイダーは討伐されたのだった。
◆
「本当に勝つとは驚きだぜ……。あと絶対、トオル一人でも倒せた感じだな」
「お見事であります、トオル殿!」
誰一人としてケガを負わなかった完勝。
四時間以上の森の行進の末に、リスクを背負った作戦は成功した。
それによってトオルはレベルが2アップ。
職業パパラッチの微増量も加えると、かなりのステータスとなっている。
【名前】 篠山トオル
【種族】 人間
【年齢】 二十五歳
【職業】 パパラッチ
【レベル】 13
【HP】 202/354
【MP】 45/142
【攻撃力】 321
【防御力】 318
【知力】 130
【敏捷】 260
【スキル】
『モンスターパパラッチ』
『粘着糸』
『鉄糸』
もはやオークなど恐れるに足らず。
ジャイアントスパイダーとの戦い方(目隠し戦法)も確立したので、今まで出会った魔物に限れば、一対一ならもう怖い相手はいない。
あとは戦いのカギとなった、二種類の糸の消費MPについては、おそらく5。
特に『粘着糸』の方は使い勝手が抜群で、これからはより安全に狩りをこなせるだろう。
「皆が子蜘蛛を片づけてくれたおかげですよ。じゃないと安心して戦えませんでしたから」
自分の力を確認しつつ、しっかりとブルーノたちを労うトオル。
そんなブルーノたちもまた、強敵との戦闘でレベルが1上がっていた。
――格上の魔物を倒したあとにはステータスの確認を。この世界の常識だ。
「初めてジャイアントスパイダーを倒したぞ。作戦は完璧に成功だな。とにかくこれで……」
「ああ、きっと上手くいくはずだぞ」
槍士二人が揃って笑みを浮かべて言う。
今回、この作戦を提案したのはトオルだ。
そして相手がジャイアントスパイダーという危険な存在でも、成功した時の恩恵を考えて、村長は許可を出してくれた。
真の目的はジャイアントスパイダーを倒すことではない。
強力な魔物で素材としては高価だが、あくまでそっちはおまけだ。
特殊な職業であるパパラッチのトオルが、ジャイアントスパイダーの固有スキルをコピーすることこそ、ここまで来た目的だった。
「有効活用させてもらうぞ。……まあ、あと一応は死体の方もな」
グロすぎて絶対にインスタ映えしない死体を見て、トオルは苦笑しつつそう言った。




