再会................―雪乃
手を洗うと、望乃夏とまた手をしっかりと繋ぐ。
「................なんでこういうトコの水道はお湯が出ないのかしら。」
「いやいや、出る方が珍しいからね?」
すかさず望乃夏のツッコミが入る。そんなやり取りにも最近はすっかり慣れてきて、
「................まぁ、望乃夏が温かいから別にいいけど。」
なんて『ホンネ』をサラリと口に出すのも、もう慣れっこ。
「................ボクは、雪乃の方が温かいと思う、な................」
コートの襟を立てて顔を埋めた望乃夏が、そうつぶやく。繋いだ手のひらに伝わる力が、ほんの少し強くなる。
「................望乃夏の手のひらは柔らかいから、ほんとに温かいわね。」
「................雪乃だって、ぷにぷにしてて................」
ほんのりと火照った顔を見合わせて、もう少しだけお互いの距離を詰める。................人目がなかったら、このままぎゅーって、したい、のに................
「...............のの、かぁ........」
「................ゆき、の................ダメ、だからね?」
「................わかってる................。」
少し気を抜いたら、 望乃夏の熱に溶かされちゃいそうで。あるかどうかも怪しかった自制心を無理やり掘り起こして、ストッパーをかける。
「................あ、あっ、そういえば................そこに、鯛焼きのお店があるのよっ。」
無理やり話を変えて、とろんとしてきた頭を冷ましていく。
「........へぇ、そうなんだ。」
「そ、そうよ................ここのはとっても、美味しいんだから。」
まだ未練がましく鎌首をもたげる甘い考えを断ち切って、望乃夏の手を引いて鯛焼き屋さんの列に並ぶ。
「................カスタードクリームが200円で、餡子が170円。望乃夏はどっちにする?」
「カスタードにしよっかな。」
「なら私は餡子ね。」
そう言いながらお財布を取り出そうとして................あれ?
「................どうしたの雪乃、そんなに慌てて................」
「................お財布、忘れてきた................」
私は青ざめる。................そうだ、机の上に置きっぱなしだ................
「いいよいいよ、ボクが払うから。」
「................ごめん、後でちゃんと払うから................」
................はぁ、最悪................。
列が進んで私達の番になると、望乃夏が370円ぴったり出そうとして財布を漁る。300円はすんなり出たけど、後の70円はなかなか出せなくて。................すると、横から手が出てきて、100円玉が3つ転がり落ちる。
「................?」
「................へ?」
「................もう、ダメじゃないの。彼女の目の前でモタモタしてちゃ♪」
その声を聞いた望乃夏の動きがぎこちなくなる。100円玉を足した人は、ついでにカスタード鯛焼きを一つ追加して行った。
「................望乃夏、あの人知り合い?」
望乃夏はその質問には答えず、鯛焼きを三つ受け取って私に一つ押し付ける。そして残りを持ってその人のところに行くと、鯛焼きを押し付けてスタスタと戻ってくる。
「................どうしたの?望乃夏................」
「雪乃、今すぐ逃げるよ。話は後で。」
そういうが早いか、私の手を引いて走り出そうとする。それを見てさっきの人が駆け寄ってきて、私達の間に割り込む。
「待って待って望乃夏、今日は私だけだから安心してっ。」
「................ほんと?」
「................アレがこんな所まで買出しにくると思う?」
望乃夏は首を横に振る。事態が飲み込めない私はそれをキョトンとして見ていると、
「................久しぶりね、日奈子................」
その声に振り向くと、私のお母さんが仁王立ちしてて................ひっ!?
「あらー、みーさん久しぶりですねー」
あの人はなぜかセリフが棒読みになってた。
「................雪乃、大丈夫?口説かれなかった?さらわれなかった?襲われなかった?」
「だ、大丈夫................ってお母さん、あの人と知り合い?」
「................ええ、六年以上の腐れ縁よ................」
お母さんがどこか疲れた様子で頭を抱える。
「................そっか、雪乃が知らないのも無理ないわね................この人は秋月 日奈子................いや、今は『墨森』日奈子って呼んだ方がいいかしらね?」
「すみ........................もり................!?」
慌てて望乃夏の方を向くと、望乃夏は渋々うなづく。................って、ことは................?
「................まさかこんな所で会うとはね................」
「み、みーさん................まさかまだあのことを................?ってかその前に『お母さん』って、................まさか、望乃夏のお嫁さんって........まさか」
望乃夏のお母さん――日奈子さんは目を白黒させて、望乃夏と私、そしてお母さんを見比べる。
「................まさか私の娘があなたの娘に口説かれるとは思ってもなかったわよ................」
「い、いやーこれも縁ですかねー........」
「そんな腐れ縁は要らないから。」
................お、お母、さん................?
その光景に目を白黒させていると、望乃夏がチョイチョイと手招きする。
「................面倒だから放っておこう。鯛焼きは焼きたてが美味しいよねー........................」
望乃夏は遠い目をしながら鯛焼きにかじりつく。
「................望乃夏は尻尾から食べる派なのね................」
私も遠い目になって、お腹から鯛焼きにかじりつく。ちょっと冷めたあんこが生ぬるかった。
ちなみにゆきのんママの名前は美由紀さんと言います




