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お願い。―望乃夏

雪乃の家は、駅から少し離れたところにあった。

「さ、着いたわよ望乃夏。」

「う、うん………………」

車から降りて、目の前の家を眺める。

(ここが、雪乃の家………………)

ごくり、と生唾を飲む。

「………………望乃夏?何してるの、荷物下ろすわよ。」

「あ、ごめん………………。」

慌てて荷物を受け取ると、雪乃を待つ。………………今から、雪乃の家に入るのか………………わくわくするような、恐ろしいような………………

雪乃に続いて玄関をくぐると、女の人に出迎えられる。

「ただいま、お母さん。」

「おかえりなさい雪乃。………………で、後ろにいるのがお友達ね。」

視線が私の方に向く。へぇ、これが雪乃のお母さんか………………なんてのん気に眺めてた私は慌てて、

「は、初めまして………………白峰さんの友人の墨森 望乃夏と申しますっ!!」

と、自己紹介する。

「あらあら、そんなに固くならなくてもいいのよ。」

ホホホ、と笑う雪乃のお母さん。

「………………お母さん、あんまり望乃夏をからかわないで。」

雪乃が呆れたように呟くと、お母さんの目が見開かれる。

「………………まぁ。仲がいいのね。」

「おいおい母さん、お客様と玄関で立ち話は失礼だろう。」

と、後ろから雪乃のお父さんがせっつく。

「あらら、私としたことが。…………雪乃、お部屋まで案内してあげて。」

「………………はーい。」

雪乃がトーン低めの声で返事する。………………ど、どうしちゃったの?

「………………望乃夏、こっち。」

手を引かれてトン、トン、と階段を上る。

「………………こっちよ。」

廊下を歩いて左側の部屋を雪乃が指さす。

「………………ど、どんな部屋でも、引かないでね?」

雪乃が恐る恐る言うけど、私は聞かなかったことにして扉を開けて…………即座に閉じる。

………………い、今、見てはいけないものを見た気が………………。思い切ってもう一度開けると、そこに広がってたのは。

「………………すごい………………」

ぬいぐるみの山と、ガーリーなピンクを基調とした内装。……………………端的に言うなら、雪乃とは全く縁の無さそうな部屋………………は流石に失礼か。

「………………が、学校のみんなには、内緒よ………………。」

「すごいねぇ…………このぬいぐるみの山。」

「………………元々好きだったからそれなりに持ってたんだけど………………『あの日』のことがあってふさぎ込んだ私のために色々と買ってくれたのよ。」

雪乃は、手近にあったぬいぐるみをもふもふと撫でる。

「雪乃とぬいぐるみ、ねぇ………………」

あ、雪乃が怒った。

「…………何よ、似合わないって言いたいの?」

「…………いや、かわいいなぁ、って。」

「………………あ、あぁ、このぬいぐるみ達のことね!?そうよね、とってもかわいいのよ!?」

………………雪乃、目が泳いでるよ?

その時、下から呼ぶ声がする。

「雪乃ー、ちょっと買ってきてもらいたい物があるんだけど。」

「えぇ………………今帰ってきたばっかりなのに………………」

そう文句を言いながらも、下へと降りていく雪乃。

「………………あ、トイレはそこの突き当たりだから。後分からないことあったら親に聞いて。」

「はーい………………。」

雪乃が後ろ手にドアを閉めると、私はぬいぐるみに手を伸ばす。

(これが、雪乃の部屋かぁ。)

ベッドの上に置かれたぬいぐるみは毛がボサボサになってて、年季が入ってる。………………お気に入り、なのかな?でもそれなら、『こっち』に連れてくるだろうし………………。

そんなことを考えていると、遠慮がちなノックの音がする。………………あれ、もう帰ってきたのかな?

「………………雪乃?開いてるよ?」

そう返すけど、ドアの向こうにいたのは雪乃じゃなくて。

「………………失礼するよ。」

雪乃の、お父さんとお母さんだった。思わず姿勢を正すと、次の瞬間二人は深々と頭を下げた。………………え!?

混乱する私を尻目に、二人は話し始める。

「………………雪乃があんなに楽しそうにしているのを、久しぶりに見たよ。雪乃と友達になってくれて、本当にありがとう。」

「ほんとに………………小学生の時にあんな目にあったせいで今まで友達を家に招いたことなんてなかったのよ。」

「母さん、その話は…………」

「い、いえ………………その、小学生の時の『事件』については、雪乃………………『白峰さん』から聞いてますので………………」

と、思わず口を挟むと、二人は顔を見合わせる。

「………………そうですか、雪乃は話しましたか………………。よほど君のことを信頼しているんだな。」

「ええ、ほんとに………………」

………………えと、どういうこと?

「………………これは、私達からのお願いだ。………………どうか、雪乃とずっと友達でいて欲しい。そして、どうか君だけは雪乃のことを見捨てないで欲しいんだ………………。」

「そ、そんなこと………………しませんよ、絶対に。」

そう断言する。……………………ボクが雪乃を見捨てるなんて、想像も出来ないし。

「………………ごめんなさいね、私たちからしたら見ず知らずのあなたに、こんなことを押し付けて……………………。それぐらいあの子は不安定だったの。だから………………できればあなたには、ずっといて欲しいんだけど………………」

「…………母さん、それは流石に…………」

「………………わかりました。できる限り………………雪乃のこと、支えます。」

「…………い、いいのかい?」

「………………はい。私も雪乃のこと………………大好き、ですから。」

少しだけ恥ずかしいけど、そう言い切る。

「………………ありがとう。君には感謝し切れないよ。………………そうだ、名前は、なんと言ったかな?」

「は、はい………………墨森 望乃夏と言います。」

「墨、森………………ふむ、どこかで聞いたような………………」

「お父さん、雪乃が帰ってきたみたいよ。」

「おや、そうか………………では、くれぐれも頼んだよ。」

そう言って、二人は部屋を出ていった。

………………何だか、重大な役目を引き受けちゃったみたい………………。

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