黒蜜と白玉。―望乃夏
今日は雪乃ちゃんの誕生日。
特別編も本編もシャカシャカ動くのでお楽しみに。
雪乃がドリンクを運んできて、私の前に並べていく。
「はい、望乃夏のトールアイスライトアイスエクストラミルクラテ。」
「あ、ありがと………………」
「………………そしてこっちが、私のショートアイスチョコレートオランジュモカノンモカエクストラホイップエクストラソースね。」
雪乃は、呪文みたいなのを息継ぎもつっかえもせずに言い切る。………………ほえー、すごいなぁ。
「ゆ、雪乃…………見直した。」
途端に雪乃がぷーっと膨れる。
「…………何よ、意外って言いたいの?」
「いや、単にすごいなぁ、って思っただけだよ。」
そう言うと雪乃は途端に機嫌を直して胸を張ってドヤ顔になる。
「…………当然でしょ?望乃夏よりこういうことは詳しいんだから。」
……………………むー、なんか腹たつなぁ。
「…………ねぇ雪乃、ポケットから紙が落ちたよ?」
「ふぇっ!?」
途端に雪乃は、慌てて足元を探り始める。………………お、これは図星かな?
「…………な、無いじゃないの…………」
「ふぅん?…………雪乃、やっぱりカンペ見てたんだ。」
そろっと振り向いた雪乃の顔は、見る見るうちに赤くなっていく。………………あ、これ危ないヤツだ。
「………………わ、悪い!?」
「いや開き直らないでよ………………。」
少しだけ涙目になる雪乃に、ちょっとやりすぎたかな?って思う。
「………………大体、こんな長ったらしいの一々覚えてらんないわよ。」
むすっとしたまま雪乃がラテに手を伸ばす。それを見て、私も溶けかけのラテへと手を伸ばした。
「………………ん、甘いね。」
「………………そうね。」
中身が無くなるのに比例して、雪乃の顔がほころんでいく。
「前から思ってたけどさ、雪乃って辛いのダメな分甘い物好きなの?」
「そうね、甘い物は疲れも取れるし何となく元気が出るから。練習の後もたまに買い食いしてるわ。」
「…………あー、なるほど。だから」
その後に言おうとしたことは、雪乃の凍てつくような視線で封じ込められる。
「………………望乃夏、分かってるでしょうね?」
ごごごご、という擬音が聞こえてきそうなほど、雪乃のプレッシャーが強くなる。
「い、いや…………買い食いしてるから、だから暗くなっても帰りが遅かったのかぁ、って思っただけで………………。」
私はしどろもどろに答える。それを聞いた雪乃は、やっと威圧感を解いてくれる。………………ふぅ。
「流石に毎日は行ってないわ。でもバレーはけっこう体力使うし、…………それにバレー部って実は甘党の集まりなのよ?だから練習終わりにケーキ屋さんに寄ったりとか珍しい事じゃないし。……………………ここだけの話、文化なんかテスト明けとかでぐたーっとしてても、チョコレートあげればたちまち生き返るし。………………まぁあの娘の場合、女の子の着替えでも見せれば瀕死の重傷でも即座に復活するでしょうけどね。」
私はクラスメートの顔を思い浮かべる。………………ひどい言われようだけど実際ありそうだからなんとも言えない………………。
「………………ま、それは置いといて。私に関しては白いご飯よりも甘い物の方が好きね。…………ご飯自体も好きなんだけど、あっちは弱みを見せないための『道具』って面もあるから………………それを考えると、何の気苦労もなく食べられる甘いものの方が好きね。」
「………………ふぅん………………。」
………………雪乃も大変なんだなぁ。
「………………雪乃、こっち飲んでみる?」
「あら、いいの?」
スッと差し出すと、雪乃は少しためらった後にストローに口をつける。………………ボクが、雪乃に吸われる………………って、何考えてるの!?
「…………はい望乃夏、返すわ。」
「あ、ありがと………………。」
帰ってきたラテを前にして、少しだけ悩む。………………こ、このまま飲んで、いいのかな………………。
ストローには、雪乃のグロスが微かに付いてつやつやしてる。意を決してストローを咥えると、元から残り少なかったラテはもういくらも残ってなくて。あっという間に飲みきっちゃう。
「………………雪乃のもちょうだい。」
「ダメよ。」
手を伸ばすと、あっさり断られる。
「………………不公平。」
むーっと唇を尖らせると、
「冗談よ。」
スッとカップが差し出される。………………深いことは考えずにストローに口を付けて、中身を飲む。………………雪乃の味はしなかった。
「…………ん。」
少しだけ飲んで雪乃に送り返す。…………量多いなぁ。
「………………それにしても雪乃だけズルいや。ボクも学校終わりに甘いもの食べに行きたい。」
「………………しょうがないでしょ。みんなとの付き合いも兼ねてるんだから。………………まぁ、今度の練習終わりにまた食べに行くと思うから、その時には誘うわ。お腹空かしときなさいよ?」
「ど、どんだけ食べるの…………?」
雪乃が大きなパフェをざくざく食べ進める様子を想像してげんなりする。
「………………そう言えば、雪乃が好きな甘味は?」
「うーん、白玉餡蜜ね。望乃夏は?」
「…………お汁粉と白玉餡蜜。」
「あら………………同じね。」
「うん、特に白玉に黒蜜が絡まって………………あれ?」
2人で顔を見合わせて、どっちからとも無くそっぽを向く。
「………………」
「………………」
………………この白玉餡蜜は、今はあんまりおいしくなさそう。
白玉餡蜜って美味しいですよね。




