第27話
エルハイドによって緊急で呼び出された会議を終え、アシルとノルは王城内に設けた二人の共同部屋へ帰って来た。
その部屋の隅で両膝を抱えて座っているのはザガン暗殺の件の首謀者という扱いになっているホワイトヴェール家の娘である。
彼女はアシルを睨みながらも、じっとしている。
「……ノル、演技上手だった」
「俺も上手かっただろ」
「……二人とも迫真の演技。良かった」
「そうだな」
二人でハイタッチをする様をヘレナ・ホワイトヴェールは半眼になって見つめている。
「エルハイドは王城に娘が匿われているとは思っていない。デイドラに探させるのはこの王都周辺だろうが……」
「ん。探しても無駄」
ザガン暗殺の計画を実行するにあたって、ヘレナからの情報は非常に役立った。
彼女はザガンのお気に入りだったため、何度も自室に招かれていた。
だから彼の部屋の場所を熟知していたし、どういったサイクルで血を吸うのかも知っていた。
地下牢にザガンがヘレナ達を迎えに行くタイミングで、アシルとノルは彼の私室に隠れ機会を伺っていたわけだ。
そして見事、無傷で暗殺を成功させた。
これで囚われていた娘たちがこれ以上亡くなるのは防げた。
「――そ、そういう事ですのね、貴方の計画が分かりましたわ!」
二人で成果を喜び合っている中、突然びしっと人差し指を突き付けてくる少女にアシルとノルは顔を見合わせた。
「あの吸血鬼を暗殺した罪をわたくしに着せ、更にそこの屍鬼がここでわたくしを食べるつもりですわね。それによって真実を知る者はいなくなりますものッ」
「……まあいいから。これ食べていい」
適当に返事をしたノルが部屋にある卓に歩み寄る。
そしてその上に置いてある木製のフルーツバスケットに入った果実の詰め合わせ――王城の食糧庫から持ってきた――から一つを掴んで少女に投げ渡した。
ちなみに一番小さな果実だった。
「……と、というか貴方は何なんですの? 何で屍鬼と……」
その疑問には答えない。
ノルが一番大きな果実をしゃくりと良い音を立てながら齧るのを見て、アシルも共同墓地からとってきた屍狼の骨付き肉を顔を盛大に歪めながら食べる。
「……」
激マズで吐きそうだが、腹は何とか満たせる。
「わ、分かりましたわッ、わたくしに栄養をたくさんつけさせて、肉付きを良くして食べるつもりですわね!」
果物を受け取った少女が再び人差し指を突き付けてくるが、
「もうそれでいいから」
アシルも適当に返事をして流した。
それからベッドに立てかけてある長剣に目を留める。
禍々しい剣だった。
純黒の装飾が特徴の鞘に入った剣。
「――宝物庫に行ったのは銀製の武器が目的だったが、おかげで良いものを手に入れられた」
宝物庫にはエルシュタイン王国がため込んだ様々な特殊効果がついた武器や防具がたくさんあった。
元々職能を活かすためにも、しっかりとした武器が欲しかったところだったのだ。
本来は宝物庫の武具や防具は聖騎士や王国四英傑に貸し与えられるもの。
だが、きっとアシル以外にはこの長剣を扱える者はいない。
だから、自分には過ぎたものだと認識しつつもこの長剣を手にした。
アシルは<解析>を使って詳細な情報を覗く。
・名前『吸命剣パンドラ』
・攻撃+E
・レア度『伝説級』
・寿命を捧げれば捧げる程、攻撃力が上げる呪われた剣。
ある英雄の仲間だった戦士が王命によって英雄を殺害した際に使用された裏切りの名剣。
説明文は不吉だが、少なくともアンデッドには寿命という概念がない。
だから極限まで攻撃力を上げる事ができる。
まさにアシルにぴったりの剣と言える。
ちなみに武器だけではなく、衣服も新調している。
ゼノンと戦った影響で、上半身はほぼ裸と言える状態だったのでそちらは城にある衣服を適当に拝借した。
化け物になっても身だしなみには意識を割きたいところだった。
己の状態はすこぶる良かった。
レベルが上がっただけではなく、頼れる武具も手に入れた。
「次はアシュトン?」
「……ああ」
サフィア姫を救出するためにも、アシュトンの存在は邪魔だ。
王都中を徘徊するアンデッドの全てがアシュトンの支配下にある。
地下牢にいる貴族の娘たちも連れ出さなければならない事を思うと、エルハイド以外の幹部は全て消しておくに限る。
反乱を成功させるためにはもう少し時間が必要だった。




